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 確かに俺と怜くんは街のひとに森の洋館に行っては記憶をなくしてくる若者が多いと依頼を受けて莉央くんの元へ行った。
 結果、サキュバスと莉央くんが原因だとわかった訳だけど、それなりに世間を騒がせるじけんにはなっていた、でもそこを疫病と結ぶとなるとまた……
 ていうか嫌じゃない?サキュバスの撒いた性病を治す聖女さまって。なんか違うじゃん?普通に作者、それは止めたらって注意されそうな話じゃん?

「でもさ、先回りして災いを起こすことで、本来の災いがなくなるんならいいことじゃない?」
「え?」
「だって疫病が流行って、聖女が出てって解決、って言ってしまえば早いけど、そこに行くまで普通はその疫病で苦しんでるひとや亡くなったひととかもいるかもしれないでしょ」
「それはまあ……」
「それが例えば性病だったり風邪だったりしたら、死人までは出ないじゃない」
「……」
「意思疎通出来ない、どこにいるかもわからない魔物が出るのを待つより魔族のお姉さんたちなら話し合いで平和に解決も出来るし早いでしょ、ついでに悪いこと出来て莉央さんの悪役としての話も少し進むじゃない」

 確かに死ぬような街のひとが出ないのは良い気がする。でもやはりいいのかそんなので、という気持ちもある。
 そんなこと、小説と流れは一緒でも中身は全然違うことになるだろう。それで完結したことになるのか。
 そんな話じゃありません、とまた正しい災いが起こるのではないか。
 下手をすれば違う行動を起こしましたね、貴方の話は二度と完結しません、となるかもしれない。
 取り敢えずやってみよっか!でやっていい内容ではない。
 ないんだけど。

 何故か皆、確かにもうそれで良くね?という空気になっている。
 丸く収まるならそれでいい、死んだりと最悪の結果になるならその手前でちょっとだけ病気になってもらい、魔法の力で治してしまえばいい、と。

「てか風邪って流石に」
「インフルでも流行らせる?」
「まずインフルになること出来んの?」
「疫病ってなに」
「伝染病でしょ」

 つい声が小さくなってしまうのは、リアム達がすぐ近くにいることでの罪悪感なんだろう。
 それでも被害が最小限になるように考えている。

「そう思わせればいいんじゃない?」
「思わせる……?」
「記憶をなくすのとは逆で、体調悪い、しんどい、流行り病かもしれない、って思わせるの」
「出来るのそんなこと」
「出来る」

 記憶をなくすことができるなら、余計な記憶を入れることも出来る、と莉央くんは頷いた。実際に記憶をなくしてきたので嫌な説得力はある。
 それが有りなら、疫病として蔓延しても、躰に害はない。記憶の方は聖女さまが取り戻してくれたら解決だ。

「集団で夢を見させるのもいいですね」
「夢?」
「ええ、病気で苦しいという夢。夢魔ですもの、それくらいは出来ますよ」
「……いや、この作戦で行くなら君たちばかり大変な目にあうんだけど」
「寧ろご褒美かと」
「ご褒美」
「実際にニンゲンの精気吸えて夢でも精気食べられるんだよ、あたしたちに悪いこと何にもないじゃないですかあ」
「実際に触れ合える人数は限られてるけど、夢ならもっと手っ取り早いですからね」

 ただそれには魔力が必要です、疫病と認識される程の人数を操るなら莉央さまだけの魔力では足りない、他の方からも魔力を頂かないと、とサキュバスが言った途端、会話には入ってなかったのに話は聞いてたんだろうな、ノエがこちらを見て、やだ、というように首を横に振った。

 どうかしてると思う。
 そんな考えで上手くいくかもなんて思ってる皆も、自国の王子や国を護る為に召喚された聖女……そして正しいことをする筈の勇者のくせに、その悪役への加担をしようとしてることも。
 上手くいかないんじゃないかとか、ひととしてどうかとか、いや上手くいくならこっちの方が被害が少ないとか、魔力をあげなきゃとか、考えないといけないことはたくさんあるのに、

 ノエのかおを見たら、やらなきゃ、早く、どうにかしなきゃ、と思ってしまった。そうだ、早く。
 早く女神さまと会わなきゃ。
 ノエのことを訊かなきゃ。
 ノエが消えてしまわないか、ノエが苦しまないか、ノエがどうにかなってしまわないか、訊かなきゃ。

 俺の、勇者の物語なんてどうでもいい。
 皆と、ドラゴンと、ノエと平和に過ごせたら、華々しい世界でなんてなくていい。
 きらきらと綴られるようなことはなくていい。
 格好良い見せ場なんてなくていい。
 山も谷もオチも要らない。
 たくさんのひとに読まれるような物語じゃなくていい。
 この先が気になるなんてそんなの、もう、ノエといられるかどうか、それがわかればいい。

「やる」
「え」
「魔力なら俺、沢山ある、放っておいても入ってくる。どんだけでもあげられる、だから、早くやろう、出来るなら今日からでも」
「シャルルさん」
「サキュバスたちには負担かけるけど」
「だから言ってるじゃないですか、寧ろラッキー、ご褒美だって」
「魔力も貰えて精気も吸える訳ですからねえ」

 ノエが眉を寄せる。
 ごめん、そんなかおさせちゃって。
 もっと時間をかけて考えればもっと良い案が出るのかもしれない。
 でも不安な作戦であっても、早く終わらせてしまいたい。
 たったのひと晩で変わってしまったノエの瞳。
 それがもし、最悪のものであったら。
 そう考えると、一日だって無駄に出来ない、たった一日、数時間、一瞬で、物語は変わってしまうことがあるんだ、だから。

 俺はどうしても、ノエだけは離したくない。
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