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四季のある日本にいた俺たちとは違い、ずっと北の方にいたリアムは、ちゃんとした春を知らない。
山の天辺だと、雪も年中残っている。
そんなリアムにあれを食べさせよう、なにを見せようとまだまだ怜くんと盛り上がってしまう。
旅行に来た訳ではない。遊びに来た訳でもない。
でも切羽詰まってる訳でもない。いいでしょ、それくらい、なんて思う。
何だかんだ俺たち、無邪気な存在に救われてるのだから、お礼もしたいってものだ。
ただただかわいいものを見たいというのも大きいけれど。
それに、この世界から出れないのは確定したようなものだ、それなら少しでも多くのことを知ろうと思うことは悪いことではない。
美味しいもの、何が何処に売っているか、綺麗な場所、危ない場所、誰が何処にいるのか。
知ることで守れるものもあるかもしれないから。
◇◇◇
豪華客船で船旅、という訳ではなくても、夕焼け、海、美味しい料理が並べばアルコールを摂りたくなってしまうのがアル中……ではなく、おとなだ。
なくたって我慢出来る。
でもこの周りを気にしなくていい開放感、おまけに今の俺たちは年中休みのようなもの、少しくらいはいいんじゃないかな、少しくらいは。
サキュバスの作った料理をつまみながら、お酒はあるか確認するとありますよ、という。流石だ、俺だってまだ残ってるけど、慣れたものと違う酒を呑むのも楽しい。
どういうものがお好みで?とずらりと並べたサキュバスは、やはりサキュバス以外の仕事向いてるぞ、と思う。いっそ魔力がなくなってしまった方が丸く収まるのではないか。
ひとり、外でぼんやり呑んでると、その内怜くんが来て、暫くして莉央くんも。
成人してれば自然と一緒に呑まない?って流れになってしまうのは当然だろう。やっぱり怜くんは莉央くんに嫌なかおをしたけど。
「呑み過ぎじゃないの、少しって言ってたじゃん!」
うつらうつらとしていたリアムを部屋に連れて行ってたノエが呆れたように俺の腕を掴む。
俺はまだ酔ってないぞ、怜くんと莉央くんがかおを紅くしてるだけで。
怜くんがどれくらい呑めるかは先日で大体わかっていた。
意外だったのは莉央くんがあまり強くなかったこと。
そしてそれを止めなかったサキュバスたち。
まあ、程々で済ませてくれたら良いのだけれど。
「なんか今の、娘に怒られる父親みたいで良かったです、ノエさんもっかい」
「レイの言ってる意味わかんない」
「わかんなくていいぞ」
「ねえ、おれものみたい、こないだの甘いの」
「ノエは駄目~」
「なんでえ!」
頬を膨らませるノエに、もう一度、だめ、と言うと、怜くんが揶揄うように、ノエさんは色っぽくなるから駄目です、なんて横から口を挟む。
そして更に横から来たのは莉央くんだった。
オレの方が色っぽいよ、と胸元を開いて言うものだから、本気なのか笑いを取りに来てるのかがわからない。怜くんは笑ってるけど。
でも確かにピンクになった肌と、少しとろんとしたかおは色っぽい。
危ないな、女の子にお持ち帰りとかされなかったんだろうか。こんなイケメン、呑みに行けば女の子に興味ないと言っていても狙われてそうだけど。
そんなことを考えながらグラスを煽る。
少し前まではあんなに警戒していた筈のサキュバスがいることで、怜くんと莉央くんが潰れてもまあ大丈夫だろうと思う程度には彼女たちへの信頼感が出てしまった。
だってメイドとしての仕事は完璧なんだ、やることはやる。
「魔王さま、オレと勝負しようよ」
「止めろって、もうどっちも負けだよ」
「負けてない!」
「さんにんとも負けだよ」
「さんにんてだれですかあ!」
いつの間にかノエもグラスを持っていて、俺にくっついたまままたちびちびぺろぺろ酒を舐めていた。相変わらず飲み方が猫。
考えてみれば、この世界に来てからこんな大人数での呑みというか騒ぎ方は初めてかもしれない。
ひとりふたりで呑むか、静かな席かしかなかったから。このノリもたまにならば楽しい。
この感じで怜くんと莉央くんも少し打ち解けてくれたら……そう思って、サキュバスの思惑に気付いた。
さり気なく莉央くんのアシストをしている気がする。
怜くんに話し掛けたり、莉央くんに答えを求めたり。
反発していた怜くんも、お酒が入ることで肩の力が抜けたのか、意外とちゃんと莉央くんと話をしている、ような。
怜くんは専門学生だったとか、莉央くんは意外にも営業をしていたのだとか。ホストとか刺されそうな職じゃなくて安心した。
趣味は読書やゲームだと言う怜くんに、特に趣味はないかなあ、と莉央くん。
今度おすすめ貸しますよ、なんて手元にあるわけもないものの貸し出しの約束をする辺り、怜くんはもう大分酔っている。
莉央くんの整った唇が、かわいいな、と動いたのを俺は見逃さなかった。
その声は相手には届いてないようだけれど。
俺はこの恋を応援していいものか。
ノエに続いてサキュバスたちは莉央くんを手伝う気満々だ。ノエが上手くいったことだし、じゃあ次、となったのだろう。
流石に俺にあんな話をしておいて、まさか薬なんて盛らないだろうけれど。
そこら辺の常識はサキュバスと違って、莉央くんにはまだ残ってるよね?
莉央くんの恋路を邪魔しようとは思わない。
けれど、怜くんの嫌がることを見ているだけ、という訳にもいかない。
「ストップ、そこまでね?」
だから、あと少しで重なりそうな唇に待ったをかけた。
山の天辺だと、雪も年中残っている。
そんなリアムにあれを食べさせよう、なにを見せようとまだまだ怜くんと盛り上がってしまう。
旅行に来た訳ではない。遊びに来た訳でもない。
でも切羽詰まってる訳でもない。いいでしょ、それくらい、なんて思う。
何だかんだ俺たち、無邪気な存在に救われてるのだから、お礼もしたいってものだ。
ただただかわいいものを見たいというのも大きいけれど。
それに、この世界から出れないのは確定したようなものだ、それなら少しでも多くのことを知ろうと思うことは悪いことではない。
美味しいもの、何が何処に売っているか、綺麗な場所、危ない場所、誰が何処にいるのか。
知ることで守れるものもあるかもしれないから。
◇◇◇
豪華客船で船旅、という訳ではなくても、夕焼け、海、美味しい料理が並べばアルコールを摂りたくなってしまうのがアル中……ではなく、おとなだ。
なくたって我慢出来る。
でもこの周りを気にしなくていい開放感、おまけに今の俺たちは年中休みのようなもの、少しくらいはいいんじゃないかな、少しくらいは。
サキュバスの作った料理をつまみながら、お酒はあるか確認するとありますよ、という。流石だ、俺だってまだ残ってるけど、慣れたものと違う酒を呑むのも楽しい。
どういうものがお好みで?とずらりと並べたサキュバスは、やはりサキュバス以外の仕事向いてるぞ、と思う。いっそ魔力がなくなってしまった方が丸く収まるのではないか。
ひとり、外でぼんやり呑んでると、その内怜くんが来て、暫くして莉央くんも。
成人してれば自然と一緒に呑まない?って流れになってしまうのは当然だろう。やっぱり怜くんは莉央くんに嫌なかおをしたけど。
「呑み過ぎじゃないの、少しって言ってたじゃん!」
うつらうつらとしていたリアムを部屋に連れて行ってたノエが呆れたように俺の腕を掴む。
俺はまだ酔ってないぞ、怜くんと莉央くんがかおを紅くしてるだけで。
怜くんがどれくらい呑めるかは先日で大体わかっていた。
意外だったのは莉央くんがあまり強くなかったこと。
そしてそれを止めなかったサキュバスたち。
まあ、程々で済ませてくれたら良いのだけれど。
「なんか今の、娘に怒られる父親みたいで良かったです、ノエさんもっかい」
「レイの言ってる意味わかんない」
「わかんなくていいぞ」
「ねえ、おれものみたい、こないだの甘いの」
「ノエは駄目~」
「なんでえ!」
頬を膨らませるノエに、もう一度、だめ、と言うと、怜くんが揶揄うように、ノエさんは色っぽくなるから駄目です、なんて横から口を挟む。
そして更に横から来たのは莉央くんだった。
オレの方が色っぽいよ、と胸元を開いて言うものだから、本気なのか笑いを取りに来てるのかがわからない。怜くんは笑ってるけど。
でも確かにピンクになった肌と、少しとろんとしたかおは色っぽい。
危ないな、女の子にお持ち帰りとかされなかったんだろうか。こんなイケメン、呑みに行けば女の子に興味ないと言っていても狙われてそうだけど。
そんなことを考えながらグラスを煽る。
少し前まではあんなに警戒していた筈のサキュバスがいることで、怜くんと莉央くんが潰れてもまあ大丈夫だろうと思う程度には彼女たちへの信頼感が出てしまった。
だってメイドとしての仕事は完璧なんだ、やることはやる。
「魔王さま、オレと勝負しようよ」
「止めろって、もうどっちも負けだよ」
「負けてない!」
「さんにんとも負けだよ」
「さんにんてだれですかあ!」
いつの間にかノエもグラスを持っていて、俺にくっついたまままたちびちびぺろぺろ酒を舐めていた。相変わらず飲み方が猫。
考えてみれば、この世界に来てからこんな大人数での呑みというか騒ぎ方は初めてかもしれない。
ひとりふたりで呑むか、静かな席かしかなかったから。このノリもたまにならば楽しい。
この感じで怜くんと莉央くんも少し打ち解けてくれたら……そう思って、サキュバスの思惑に気付いた。
さり気なく莉央くんのアシストをしている気がする。
怜くんに話し掛けたり、莉央くんに答えを求めたり。
反発していた怜くんも、お酒が入ることで肩の力が抜けたのか、意外とちゃんと莉央くんと話をしている、ような。
怜くんは専門学生だったとか、莉央くんは意外にも営業をしていたのだとか。ホストとか刺されそうな職じゃなくて安心した。
趣味は読書やゲームだと言う怜くんに、特に趣味はないかなあ、と莉央くん。
今度おすすめ貸しますよ、なんて手元にあるわけもないものの貸し出しの約束をする辺り、怜くんはもう大分酔っている。
莉央くんの整った唇が、かわいいな、と動いたのを俺は見逃さなかった。
その声は相手には届いてないようだけれど。
俺はこの恋を応援していいものか。
ノエに続いてサキュバスたちは莉央くんを手伝う気満々だ。ノエが上手くいったことだし、じゃあ次、となったのだろう。
流石に俺にあんな話をしておいて、まさか薬なんて盛らないだろうけれど。
そこら辺の常識はサキュバスと違って、莉央くんにはまだ残ってるよね?
莉央くんの恋路を邪魔しようとは思わない。
けれど、怜くんの嫌がることを見ているだけ、という訳にもいかない。
「ストップ、そこまでね?」
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