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彼女たちに莉央くんの場所を訊き、船室に向かう。
そこには椅子に座ってぼおっと海を見る莉央くんがいた。
イケメンは何をしててもイケメンである。
何してんの、操縦なんて必要ないでしょ、とサキュバスから渡されたあたたかいお茶を莉央くんの前に置く。
こういう時はお酒の方がいいと思うのだけれど真っ昼間だ、自重。
「んー……流石に海を初めて見たとか言わないけど、船に乗るの初めてだなあって。海の真ん中にいるのが不思議な気分、沈没したら大変だなって考えてた」
「こわいこと考えるなよ……それこそ魔法でどうにかしなきゃ」
ありがとう、とお茶に手を伸ばして、そっと口をつけ、白い息を吐く。
少し変わってはいるけれど、怜くんがいないと普通の青年だよなあと思う、かおが整ってるだけで。
いや、惹き付けるものがあるからこそストーカーなんかに狙われるんだろうけれど。
「本当に旅行とか行かないの?インドア派だった?」
「修学旅行の話?本当だよ、行かなかった」
「へえ……」
「うち、母親しかいなかったんだけど、結構躰弱くてさ、そんなのに金使うなら、病院代とか他に使った方がいいじゃんと思ってさ。勝手にキャンセルして怒られたよ」
「そりゃそうだよ」
母ひとり子ひとりだったのかな、それならお互い心配しているだろう、そう考えていたのを感じ取ったのか、莉央くんはふふと笑って、オレがこっちに来る少し前に亡くなったよ、と言った。
行方不明になって心配させずにすんだから丁度良かったのかもね、と。
「……」
「別に吹っ切れてるよ、覚悟もしてたし平気平気。どうせならシャルルさんの話聞かせてよ、そんなかおするくらいだ、家族と仲良かったんでしょ」
「……普通だよ」
結構乱暴ですぐ物を壊すくせに意外と繊細で甘いものがすきな弟、我儘で甘えん坊で少し気は強いけどこわがりな妹。
料理はすきだけど面倒臭がりで、仕事は出来るが家ではゆっくりする母に、昔は出張が多く家を空けがちだったけれど、今は母の代わりに料理が趣味になった父。
俺が拾って実家に置いてきた、膝にはあまり乗らないくせに頭は撫でろと押し付けてくる甘えたな猫。
他人が聞いて面白い話ではないと思う。俺の家族なんて知らない相手なら尚更。そして家族が亡くなったという相手にしていい話かもわからない。
それなのに莉央くんは嬉しそうに聞く。
それがやはり莉央くんの素なのかわからないけれど、そういうところがストーカーまで出来てしまう彼の魅力なのかもしれない。
「そういう穏やかなところ、怜くんにも見せたらいいのに」
「見せてるでしょ?」
「……」
本当に煽ってるつもりはないのだろうか。つい怪訝なかおをしてしまった。
そんな俺に、にこ、と笑いかける。女性的なものはないのに妖艶な色気を感じてしまうのが不思議だ。柔らかさを感じる。
俺でさえどきどきしてしまうんだから、優しくしたら怜くんだってころっと落ちるだろうに。恋愛感情方面にいくかはわからないだろうけど、少なくとも俺と同じように懐いてくれそうなのになあ。心開くのあの子早かったぞ。
「……なんであんなに怜くん気に入ったの?」
「かわいいから」
即答だった。
サキュバスや女性が苦手だったりするのはもう仕方ないとして、だ。
ノエはもうサキュバスすらかわいいと褒めるような容姿をしている。あまりに美少女然としているから、恋愛対象が男性の莉央くんには響かないのだろうか。
リアムは幼児のかわいさ、ソフィも動物のかわいさ。ここでの話には関係ない、関係あったら困る。
俺、シャルルはなんだろう、莉央くんの求めてるかわいさはないだろう。かわいくはない。
怜くんだってかわいい。弟のようで。
でもこの、綺麗なひとが溢れてる世界で、そこまで執着されるような容姿ではないと怜くんも思っている。だからこそこわい。
洋モノに興味ないと言ってたのは冗談めかした本気だった?日本人のような容姿がタイプだった?でもそれだけで?
「きらきらしてるなあって思ったんだよ」
「?」
「シャルルさんはこっちの方は来たばかりって言ってたから見たことあるかわかんないんだけど、彼、箒でよく飛び回ってて」
「……」
「最初は何してんだろ、すごいなってちょっと魔法使って遠くから見てたんだけど、その内何かと戦ってるんだ、って気付いて、助けに行った方がいいのかな、でも距離もあるし、悪役が助けていいのかなって思って何も出来ずに見てたんだ」
「そう……」
「そんな心配なんていらなくて、すぐに勝ったみたいで、その時の笑顔がすごくかわいくて」
「……それは」
「うん、あの仔熊の子に向けたものなんだけど、それがすごくきらきらしてて、いいなって思ったんだよね、あれが欲しいなって」
「いやこわ」
笑顔に惹かれるなんて少女漫画のよう、と思ってたら。
誰かのものを欲しがるこどもみたいだ、しかも悪質な。
「一目惚れってやつだよ」
「なんかそんな純粋なもので称していいのかな」
「いや正直めちゃくちゃ抱きたいけど」
「純粋だけどやっぱ純粋じゃない」
「でも無理矢理はしないよ、趣味じゃないし。安心していいって言っといてよ」
それを聞きに来たんでしょ、と莉央くん。ばれてる。
嘘吐いてる、と思われるかもしれないけれど、オレだって嫌われたい訳ではないからね、とまた少しさみしそうな表情。
やはり、悪い奴って訳ではないのはわかるんだけれど。なんだかな、すきな子の前では素直になれない的なやつなのだろうか。
こういうことは、意外とおとなの方が拗らせるのだ。
そこには椅子に座ってぼおっと海を見る莉央くんがいた。
イケメンは何をしててもイケメンである。
何してんの、操縦なんて必要ないでしょ、とサキュバスから渡されたあたたかいお茶を莉央くんの前に置く。
こういう時はお酒の方がいいと思うのだけれど真っ昼間だ、自重。
「んー……流石に海を初めて見たとか言わないけど、船に乗るの初めてだなあって。海の真ん中にいるのが不思議な気分、沈没したら大変だなって考えてた」
「こわいこと考えるなよ……それこそ魔法でどうにかしなきゃ」
ありがとう、とお茶に手を伸ばして、そっと口をつけ、白い息を吐く。
少し変わってはいるけれど、怜くんがいないと普通の青年だよなあと思う、かおが整ってるだけで。
いや、惹き付けるものがあるからこそストーカーなんかに狙われるんだろうけれど。
「本当に旅行とか行かないの?インドア派だった?」
「修学旅行の話?本当だよ、行かなかった」
「へえ……」
「うち、母親しかいなかったんだけど、結構躰弱くてさ、そんなのに金使うなら、病院代とか他に使った方がいいじゃんと思ってさ。勝手にキャンセルして怒られたよ」
「そりゃそうだよ」
母ひとり子ひとりだったのかな、それならお互い心配しているだろう、そう考えていたのを感じ取ったのか、莉央くんはふふと笑って、オレがこっちに来る少し前に亡くなったよ、と言った。
行方不明になって心配させずにすんだから丁度良かったのかもね、と。
「……」
「別に吹っ切れてるよ、覚悟もしてたし平気平気。どうせならシャルルさんの話聞かせてよ、そんなかおするくらいだ、家族と仲良かったんでしょ」
「……普通だよ」
結構乱暴ですぐ物を壊すくせに意外と繊細で甘いものがすきな弟、我儘で甘えん坊で少し気は強いけどこわがりな妹。
料理はすきだけど面倒臭がりで、仕事は出来るが家ではゆっくりする母に、昔は出張が多く家を空けがちだったけれど、今は母の代わりに料理が趣味になった父。
俺が拾って実家に置いてきた、膝にはあまり乗らないくせに頭は撫でろと押し付けてくる甘えたな猫。
他人が聞いて面白い話ではないと思う。俺の家族なんて知らない相手なら尚更。そして家族が亡くなったという相手にしていい話かもわからない。
それなのに莉央くんは嬉しそうに聞く。
それがやはり莉央くんの素なのかわからないけれど、そういうところがストーカーまで出来てしまう彼の魅力なのかもしれない。
「そういう穏やかなところ、怜くんにも見せたらいいのに」
「見せてるでしょ?」
「……」
本当に煽ってるつもりはないのだろうか。つい怪訝なかおをしてしまった。
そんな俺に、にこ、と笑いかける。女性的なものはないのに妖艶な色気を感じてしまうのが不思議だ。柔らかさを感じる。
俺でさえどきどきしてしまうんだから、優しくしたら怜くんだってころっと落ちるだろうに。恋愛感情方面にいくかはわからないだろうけど、少なくとも俺と同じように懐いてくれそうなのになあ。心開くのあの子早かったぞ。
「……なんであんなに怜くん気に入ったの?」
「かわいいから」
即答だった。
サキュバスや女性が苦手だったりするのはもう仕方ないとして、だ。
ノエはもうサキュバスすらかわいいと褒めるような容姿をしている。あまりに美少女然としているから、恋愛対象が男性の莉央くんには響かないのだろうか。
リアムは幼児のかわいさ、ソフィも動物のかわいさ。ここでの話には関係ない、関係あったら困る。
俺、シャルルはなんだろう、莉央くんの求めてるかわいさはないだろう。かわいくはない。
怜くんだってかわいい。弟のようで。
でもこの、綺麗なひとが溢れてる世界で、そこまで執着されるような容姿ではないと怜くんも思っている。だからこそこわい。
洋モノに興味ないと言ってたのは冗談めかした本気だった?日本人のような容姿がタイプだった?でもそれだけで?
「きらきらしてるなあって思ったんだよ」
「?」
「シャルルさんはこっちの方は来たばかりって言ってたから見たことあるかわかんないんだけど、彼、箒でよく飛び回ってて」
「……」
「最初は何してんだろ、すごいなってちょっと魔法使って遠くから見てたんだけど、その内何かと戦ってるんだ、って気付いて、助けに行った方がいいのかな、でも距離もあるし、悪役が助けていいのかなって思って何も出来ずに見てたんだ」
「そう……」
「そんな心配なんていらなくて、すぐに勝ったみたいで、その時の笑顔がすごくかわいくて」
「……それは」
「うん、あの仔熊の子に向けたものなんだけど、それがすごくきらきらしてて、いいなって思ったんだよね、あれが欲しいなって」
「いやこわ」
笑顔に惹かれるなんて少女漫画のよう、と思ってたら。
誰かのものを欲しがるこどもみたいだ、しかも悪質な。
「一目惚れってやつだよ」
「なんかそんな純粋なもので称していいのかな」
「いや正直めちゃくちゃ抱きたいけど」
「純粋だけどやっぱ純粋じゃない」
「でも無理矢理はしないよ、趣味じゃないし。安心していいって言っといてよ」
それを聞きに来たんでしょ、と莉央くん。ばれてる。
嘘吐いてる、と思われるかもしれないけれど、オレだって嫌われたい訳ではないからね、とまた少しさみしそうな表情。
やはり、悪い奴って訳ではないのはわかるんだけれど。なんだかな、すきな子の前では素直になれない的なやつなのだろうか。
こういうことは、意外とおとなの方が拗らせるのだ。
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