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ななじゅうよん
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ごはん!ごはんですよお!
どん、とお腹に何かが乗って、う、と瞳を開けて見れば、おはよございます!とリアム。
ちょっと何起きてるかわかんない。
「ふぁ……二度寝しちゃったなあ、おはよ、リアム」
「おはよございます!ごはん!できました!」
「いつもありがとね」
「ぼくのおしごとなので!さめちゃいます、はやくはやくー」
「リアム、おも……」
お腹の上でぱたぱたと足を振るものだから、振動とそのままの体重を感じてしまう。もうこれお客様扱いじゃあないな。
動けないおれの上からひょいとリアムを抱き上げて、ついでにおれを起こして、髪を……整えたのかな、撫でるようにして、ソフィを肩に乗せ、行こうか、とシャルルが笑う。
きゅう、となった。ううう、すき。
◆◆◆
朝食を済ませ、街に行くというレイを見送って、見るからにしょんぼりとするリアムに、こっちにおいで、とシャルルが手を引いてあたたかい家の中に入る。
大丈夫だよ、すぐ帰ってくるからね、一緒に留守番して待ってようね、いい子にしてようね、と背中をぽんぽん撫でるシャルルは見たことがある。
おれにするやつだ。
ほんのちょっとだけ、やだなって気持ちと、もうおれは特別にしてもらったんだから、リアムは小さいんだからそれくらい我慢しなきゃって気持ちと。
なんとも言えなくて、ただ、さみしくなったのは事実なので、シャルルにぶつかるようにくっついた。
当の彼は、ふたりとも甘えん坊だねえ、なんて言いながらソファに沈み、おれたちを撫でたり構ったり。
……これはリアムと同じかわいいのやつだ。
別に少しはそれでもいい筈なんだけど、なんだか無性にリアムと違うとこを見せたくなってしまう。だっておれは特別になったのだから。違うことをしてもいい筈だ。
ええと、ええと、と考えて、それでも思いつかなくて、結局空いたシャルルの腕を掴まえることしか出来なかった。
それはサキュバスから習ったの?
そうシャルルは聞いてくることがある。それは大抵おれがシャルルに触れた時。
夢魔は基本的に男性の夢の中や夜、本人から精力を貰ういきもの。
その為美しく、男性に好まれる姿をしていて、貧相な躰のおれとは全く違う。
かおだけは、魔王さまも綺麗よお、とよく言っては貰えてたけれど。
ちら、と横を見るとシャルルと視線が合った。
ふと笑って、おれの耳元を擽る。
シャルルもよく、おれのことをかわいいという。
それがこのかおのおかげなら、それだけはだいじにしないといけない。
おれには男性に好まれるような、彼女たちの持つ柔らかさがない。……魔力をいっぱい使っていいなら、女体にくらいはなれるけど、多分それはシャルルの思うようなものではない。
どれだけ彼女たちのテクニックがあれど、スタートラインが違うのだ。といっても、おれにそのテクニックなぞないが。
魔王さまはそのままでいいのよお、そうそう、そのままがいちばん素敵よ、そこが魔王さまの魅力よ、よく見せてご覧なさい、
そうやっておれに砕けた話し方をしたり、無遠慮に触れたり、一緒に寝たりするのは彼女たちくらいだった。
あの冷えるような魔王城の中で、体温を感じたのも、孤独を感じなかったのも、やたらと触れてくる彼女たちがいたから。
だからどうにもきらいにはなれなかった。
教わった訳ではない。
勝手におれが、こうしたいなってことを、シャルルにしてるだけ。ただその知識は、どうしてもそのサキュバスがイメージされてはしまうってだけで。
「おししょーさまはぼくがいない方がいいんでしょうか」
「そんなことないでしょ、怜くんすごくリアムのことかわいがってるじゃない」
「ぼくがいっぱいお願いしたからです、でしにしてくださいって」
「それでもお弟子さんにしてくれたのでしょ、じゃあ気にしないでいいよ、俺から見ても、話を聞いてても、怜くんはリアムのことだいすきだよ」
「……ぼくがいなければ、おししょーさま、もっと自由だったんじゃないかなあって。ぼくがいて、がまん、いっぱいしてるんじゃないかなって、」
「違うよ、リアムがいてくれたら嬉しいんだよ、だからそんなこと言ったら駄目。怜くんが傷付くよ、いやでしょ、それは」
優しく優しく、柔らかく、膝の上にいるリアムへ声を声を掛ける。
ね、とおれの方を向いて訊くものだから、急で驚きながらも頷くと、一緒の方が嬉しいよ、と言う。
それは、リアムに言ってるようでもおれにも伝えてるのだ。
おれだってシャルルと一緒の方が嬉しい。
もうシャルルがいなくなることを考えたくないくらい。
だいすき、すき、すき、どうしたらいいかわかんなくなるくらい。そんな気持ちは教えてもらったこと、ない。
どうしよう、いっぱい優しくしてもらってる筈なのに、ぎゅうってしてもらうのも、キスも、魔力をもらうのも、いっぱいしてもらってる筈なのに足りない。
もっとほしい、どうしよう、どうしよう、どうしよう、おれ、なにが欲しいんだろう。
なんだかずっと、胸の奥がきゅうきゅうぎゅうぎゅうして、あったかいのに苦しくて、十分な筈なのに足りなくて。
これ以上我儘言わない方がいいってわかるのに、今以上のものが欲しくて、でも言葉に出来なくて、ただシャルルにくっつくことしか出来ない。
このまんま溶けてシャルルの中に入ってしまえたらいいのに、なあ。
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