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 ◇◇◇

 夕飯後、片付けをして、デザートまで平らげて、もう一度お風呂に入って。
 お子様のリアムの就寝に合わせて解散。各自部屋へ。酒を飲む暇もない。いや俺は勝手に飲めばいいんだけど。
 部屋に入るなりぎゅうと腕に抱き着いて、肩へ頭を擦り付けてくるノエを無下には出来なかった。
 ソフィと同じ行動をしてるのに愛しさの度合いが違う。

「眠い?」
「眠くはない、けど」
「がっつり昼寝したもんなあ」

 ソフィはもう眠そうだけれど。
 ちちち、と鳥のような鳴き方をして、ノエの肩に止まった。

「……眠れなかったら、背中、とんとんして」
「ふ……うん、いいよ」

 こどもの言い方に笑みが零れてしまう。
 そういうとこが駄目だと思うのに。
 このかわいいはリアムたちへと同じかわいい、だ。

 ノエは腕に抱き着いていた手を下に下ろし、今度は指を絡めてくる。
 少し冷たい指先は、俺の体温が移るかのようにすぐに気にならなくなって、それを待ってからすり、とその指先を滑らせた。
 ……そういうの、本当にどこで覚えてくるのかな、サキュバスのお姉さんたちかな、煽るのを知っていてやってるのかな。

「……嬉しい」
「え」
「シャルと一緒寝れるの、嬉しい」

 ぐ、となりながらも、なんだかんだ一緒に寝てるじゃないかと言うと、違うよ、全然違う、とノエは首を振った。

「……だって全部、おれが勝手にしてた。シャルはだめって、いうし……でも、今日は、いいってゆってくれたから」
「ノエ」
「だから嬉しい、シャルが良いって言ってくれて、嬉しい」

 本当にそんな気はなかった。
 人様のおうちでやらしいことをする気も、両思いだね、お付き合いしようね、なんてなったその日に手を出すつもりも。
 いつものように勝手にノエが入ってきて寝るような、その延長。
 ノエが言うように、こども相手のように背中をとんとんして、寝かしつけるような、ただお互いの体温を分けるような、それだけ。

 なんもしない。本当に、誓って何も。
 でもそれはノエのしあわせそうな表情によって地獄の我慢大会に変わる。
 ……こんなかわいいこと言う子に手を出さないとかある?
 いや、多分ノエはそんなこと考えてない、本当に一緒に寝るだけ、それを純粋に願ってるだけ。無意識にしたことが結果俺を煽ってるだけ。
 流石魔王さま、人間を堕落させようとするのが上手い。

 少し後悔してきた、怜くんに暫くここに泊まると快諾したことを。
 ここにいる間は、俺はノエに手を出すことは出来ない。

「……シャル怒った?」
「え?怒ってない、けど」
「かおこわい」
「……ごめん、ノエのことじゃないよ」

 ノエのことだけれど。
 でもそう言うしかないでしょ、手を出せなくて苛々するなんて、そんなの。脳みそ下半身男みたいなこと。
 お付き合いをしてから三ヶ月は何もしません、なんて言う気はないけれど、相手が相手だ、俺はまだ我慢をしたい。
 ……敷地内に俺たち用の小屋でも家でも建てるのもアリ?
 いやねーわ、こうやって部屋もあるのに、そんな欲望丸出しの家建てるなんて、リアムに顔向け出来ないわ。

 そんな訳で我慢、我慢、我慢。
 ノエがどれだけかわいくても、俺は大人。理性を働かせて、ノエが安心して甘えられるように、そんな格好良い大人でいたいのだ。

 完全に瞳を閉じてしまったソフィをノエの肩から下ろして、リアムの用意してくれたクッション(ソフィ用のベッドのつもりらしい)に置く。
 起きることもなく、すうすう寝ている姿は、飛べるようになってもまだ赤ちゃんだ。種別問わず、赤ちゃんはたくさん寝るものである。

「ノエもほら、横になりな」
「んー……」
「まだ寝ないの?」
「もうちょっとぎゅうしたい」
「……」

 どストレートの甘え方は、こどもと恋人の良いとこ取りだと思う。
 やらしさを感じない甘え方。でもそれは恋人に効く。
 柔らかい髪を撫でると、石鹸の甘いにおいがする。
 今夜だけで何回胸をきゅうきゅうさせる気だろう。

 腕を引いて、ノエを抱き締めて、そのままベッドに横になった。
 腕の中で少し固まったノエは、すぐにほうと息を吐くと、また俺にしがみついてくる。
 かわいいなあ、本当、かわいい。
 堪らなくなって頭のてっぺんにキスをすると、今何かした?と見上げてくる。
 何かした?なんて訊きながら、わかっているかおだ。期待してる。かおに書いてある。頭じゃなくて、口にもしてよ、と。
 そのまま額にすると、一瞬ほわっと笑顔になり、それからすぐに唇を尖らせた。そこじゃない、と言うように。

「ふは」
「なんで笑うの、いじわる」
「意地悪でしたんじゃないよ、ノエがかわいいから」
「……どっちのかわいい」
「これはノエだけのかわいい、かな」
「じゃあそっちじゃないでしょ、」

 ちゃんと覚えてたようだ。
 その言い方にまたきゅんとして、そうだね、とノエの小さな唇にひとつキスを落とした。
 触れただけのキスに、少し躊躇うように、もっかい、とノエからのアンコール。
 はあ、かわいい。溜息を吐いてしまいそうな程。

 薄い唇をぺろりと舐めて、口を開かせて、小さくて薄い舌を突いた。
 華奢な肩が跳ねて、その様子を見て、昼と同じだ、と思ってしまう。変な知識はあるのに慣れない躰が愛おしい。

 お互いの欲を掻き立てないように、今夜はそれで終わり。それだけでノエの息は上がっている。
 そのまま内容のない話をしながら、背中を撫で続けていると、すぐにノエは寝てしまった。
 ……寝つきのいい子で助かっちゃう。
 まだノエには、俺が熱くなってるかおを見せたくなかったから。
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