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 ◇◇◇

「明日街に行くんですけど、何か欲しいものとかあります?」

 四人と一匹揃った夕食の席で怜くんが口を開く。
 小さく切られた肉を、小さなお口を大きく開けて放り込み、むぐむぐ口を閉じて噛むリアムが、ちゃんと食べる時はお口を閉じる!と言われてるんだろうな、ごくんと飲みきるまで待ってから、ぼくも!と言う。
 ああ~、かわいいなあ、こどもの大袈裟な動きが癒される。ぴこぴこ動く耳も相まってぬいぐるみのよう。お風呂の後の耳も尻尾もふかふかで気持ち良かったんだよなあ……
 そんなことを考えて、またノエが嫉妬するのでは、とはっとして横を見る。
 そんなことなく、ノエは大人しくフォークを口元まで動かしていた。
 その頬はほんの少しだけ、まだ紅い気がするけど。取り敢えずは怒ったり拗ねたりはしてない模様。

「俺たちも行こうか」
「いえ、時間掛るのでひとりで行こうかと……その間リアムお願いしてていいですか」
「ふえっ」

 がーん!とした表情で、手にしていたフォークを落とすリアム。ぼくは一緒だめなんですか!?と絶望したかおで言うのが……悪いけど面白い。ショックだったんだねえ。
 最近街も治安悪いみたいだし、この間も獣人の話していたひといたでしょ、出来ればリアムを連れて行きたくないんだよ、と怜くんが一生懸命説明をしている。
 それなら俺が行くよ、買い出しとかでしょ、と言うと、それもあるんですけど、と口篭る。

「一応……その、前も言ったけど、薬とかを売ってるんですよ、冬は材料の問題で少ししか作れないけど。いや作れるんですけど。それはその体でっていうか……だからそれを卸に行くのもあるし、その、必要としてくれるひともいるし。僕飛んで行くんで、山を降りるのにそんな時間掛からないんです」
「ああ」

 そういえば、船で見た、山で何かが飛んでるのを。
 それを見て、あそこら辺か、なんて目算を立てたものだ。
 やっぱり魔法使いは箒で飛ぶのかな。……いいな、乗ってみたい。
 そんなそわそわした気持ちがばればれだったらしい、怜くんには、同乗はリアムくらいで限界ですよ、と釘を刺されてしまった。

「まあだから、そんなに時間掛けずにぱっと行ってぱっと帰ってきますよ……リアムも留守番の練習しなきゃね?」
「……おししょーさまと一緒がいいです」
「ちょっとだけだよ、シャルルさんたちいるから大丈夫でしょ?」
「だいじょーぶだけど、さみしいです……」
「ンッ……」
「かっわい」

 流れ弾を喰らってしまった。
 似たようなことは俺にもあった。沢山あった。
 おれも兄ちゃんと、いっしょにいく!わたしもおにーちゃんといっしょじゃなきゃや!やだやだつれてって!
 そんな弟妹の我儘を何回も聞いては置いてった。
 学校や部活やバイト、友人との遊びに行く約束でもふたりはよく駄々を捏ねたから、母さんに任せて置いていくのも大変だった。
 駄々を捏ねる幼子ってだけでかわいいのに、さみしいなんて言われちゃったら、ねえ。怜くんが言葉を失ってしまうのもよくわかる。

「すぐ帰ってくるよ、リアムのすきなはちみつとチーズを買ってくるね、塩ってまだストックあったかな」
「ぜんぶいらないです、だからすぐかえってきてください」
「んんんん」
「連れていかない方が怜くんにダメージすごくない」
「でもやっぱり心配なので留守番でお願いします……!」

 破壊力の高い上目遣いのいじらしいお願い。用事をすぐ切り上げて帰るしかない。
 悶える俺たちの横で、ノエはじゃああれが欲しいこれが欲しいとすらすらリストアップしていく。殆どが甘いものやソフィのすきな果物だった。
 ……食い意地の張ったノエもかわいいよ。

「ううう、一緒いくの、がまんします……あっ、じゃあ!」
「なあに」
「きょう、一緒ねていいですか」
「……いいよ」

 かわいいお願いに、怜くんもでれでれだ。そりゃそうだ。
 代わりのお願いがあまりにもかわいいんだもの。
 でもこどもの攻撃はそれだけでは終わらなかった。
 ノエの方を向いて、だからきょうはノエさんと一緒ねれないです、ノエさんこわいのだいじょーぶですか?と、まさかの追撃だった。
 おれ?と一瞬ぽかんとしたノエは、俺の方をちらりと見て、そのまま、おれとはシャルルが一緒に寝てくれるよ、と返した。

「ねえ?」
「えっ、う、あ、そう……そうね」
「じゃあみーんなこわくないですね!」
「そうだねえ……」

 今日くらいはそうなるかな、と思っていた。
 一緒に寝たいを繰り返していたノエだ、そうお願いされるかなって。でもこんな、皆の前で約束させられるとは思ってもみなかった。
 俺から言質を取ったノエはえへへ、と嬉しそうに笑って食事を続ける。
 胸がきゅう、として、まあそうだ、うん、今日くらい、一緒に寝たって罰は当たらない、なんて自分への言い訳をする。両思い、そんなふたりが一緒に寝ても悪いことなんて何もない。

 怜くんを見ると、じと、とした瞳でこっちを見ていた。
 わかってます、リアムの前でいちゃつきません。ひとのおうちでえっちなことは致しません。そこら辺の倫理観はまだ捨ててません。
 本当に、言葉通り一緒に寝るだけ。
 ……ぎゅっとしたり、キスくらいはするかもしれないけれど。
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