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 俺のこと、もう嫌になっちゃった?きらいになっちゃった?
 もう一緒に寝たいとか言わない?シャルがいちばんあったかい、なんてかわいいこと、もう言ってくんないの?

 全部自業自得、そうなんだけど。わかってるけど。
 でもすぐにそれを受け入れることなんて出来ない。
 え?え?え?
 俺のこと、すきなんじゃなかったの、ねえ。

 ずっ、と鼻を啜りながら、もういいんだ、と言う。
 もういい?何が?もういいって、何がいいの?
 諦めるの、諦めたの、俺のことを。

「待っ……待って、ねえ、俺もちゃんと話そうと思って」
「もういい……」
「なんで、俺の話も聞いてよ」
「もういっぱいきいたもん、お、おれ、シャル、に、すきになってもらう、方法、も……諦めかた、も、わかんないっ、からぁ……だか、だからっ……ひ、ひとり、で、いいってえ……うう、かえるう」
「なんで諦めるの!」
「シャル、もう、見たく、ない……」
「え」

 なんて言った?シャルルを、俺を、もう見たくないって?
 そんなに嫌われちゃったの、俺。
 嫌われたっておかしくないことばっかりしてるけど、でも、嫌われちゃったの?ひとりの方がましだと思われる程?出ていってもう会いたくないと思われる程?

「……俺はすきだよ、ノエのこと」
「おんなじ、じゃ、ないって、同じすきには、ならないって……ゆっ、たぁ」

 ……言いました、ノエに恋することはないと。言いました。はっきり言わなきゃって。そっちの方がきっとノエの為だって。
 そんな、独り善がり、大人の自分勝手なこと、言いました。何がノエの為、だ。こどもの為、ノエの為じゃない、自分の為の予防線だったくせに。

「ごめん、ごめんね、あの時はああ言ったけど」
「ほらあ!」
「違う、今はちゃんと、おんなじすきだよ、ノエとおんなじ」
「そんな嘘いらない、そ、そんなの、や、さしくない、ごまかしてるだけ、だっ……」

 誤魔化してない、嘘じゃない、優しさで言ってるんじゃない。
 勝手な判断ですきにならないと言っておいて、やっぱりすきでしたなんて間違いを認めただけ。これだって、ノエの為じゃなくて、自分の為にノエにぶつけてるだけ。

 思わず抱き締めようとして、どうにかその手を止めた。
 目の前で泣いてるノエに、無許可で抱き締める資格がない。
 傷付けた相手に、俺が抱き締めたら喜ぶでしょなんてあまりにも勝手すぎることは言えない、ただ、ぎゅってしていい?と確認することしか。

 ノエの肩が少し後ろに逃げて、そんなことにまたショックを受ける。
 ノエはこういう思いを何回もしただろうに、人間ってのは自分の痛みには敏感で繊細だから。
 その立場になって気付くことが多い。情けないことに。

「……もういや?ぎゅってするの」
「いっ、いや……いや、いやじゃ……う、ぅう」
「ノエが嫌ならもうしない、ノエが嫌なことはしない、から……」
「もうしてくんないの……」

 か細い声がまたぽつりと零れて、それと同時に、ぽたぽたと落ちていた涙がつう、と流れていく。
 大きな紅い瞳に俺が映って、瞬きをする度にその影が大きくなる。
 そんなことが確認出来るくらい、お互いをじっと見ていた。
 ノエの四回目の瞬きで、その華奢な躰を抱き締めた。ノエが少し、手を伸ばしたように見えたから。
 ……勝手に躰が動いた。

「ごめん、遅くなってごめん、あんなこと言ってごめん、俺が悪かった、全部、全部謝るから。だからもう帰るとか、離れるとか、……諦めるとか、きらいとか、言わないで、俺のこと見たくないとか、そんなこと、言わないで」

 ノエに言われたら胸が痛くなる、苦しくなる。
 冗談でだって言われたくない、よくわかった。わかりました、いやって程。
 君に嫌われたら死んでしまう。

「ごめんね、ノエに酷いことばっか言ったよね、傷付けたよね、かなしいかおさせてごめんね」
「……ほ、ほんとに、いってるの」
「うん、ごめんね……」
「おれ……シャルのこと、すきでいいの……」
「そうしてくれたらいいなって思うよ、でもノエが嫌だなって思ったら……それは全部俺が悪いから。ノエが許してくれるまで頑張るよ、信じて貰えるまで」

 固まったままだったノエの腕がおずおずと伸ばされて、俺の服をぎゅうと掴む。
 すり、と頬を胸元に擦り寄せてくる。
 これ、大丈夫?と消えるような声で訊くものだから、腕の力を込めることで答えた。

「……やっぱりシャルが、いちばんあったかい」
「っ、あ、ありがと……」
「す、すきになってくれる?もう、すきにならないとか、……いっ、いわ……言わない?」

 泣きそうな、というか泣いているけど、その弱い声は胸がぎゅうとなる。
 そんなこと言わせてごめん。そんな不安そうなかおさせちゃってごめん。

「……言わない。もうそんなこと、言わないから。ちゃんとすきだよ、ノエのこと。ごめんね、ほんと、遅かったね、ノエとおんなじすきだよ、ちゃんと。つきあいたいって意味で」
「ツキアイタイってなに……」
「えっそこ、えっと、愛情……これだとわかりにくいか……恋……恋人……んー……あっそう、そう、キスしたいなって……魔力あげるとかじゃなくて、頬とかじゃなくて、口に、単純に、愛しいなって、意味で……」

 しどろもどろになって説明をしていると、かおを上げたノエと視線が合った。
 それはそれはもう、期待をしている潤んだ瞳で。
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