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「ノエがいない?」
「お風呂上がったら何処にも!」
ごめん、あんな表情見たのに、ちゃんと見ておかなかった!と謝る怜くんを責める気なんて毛頭ない。
謝るなら俺の方だ、あ、やばい、と思いながらも、まあなんも起きないでしょ、と高を括っていた。
ソフィはくうくう丸くなって寝ている。つまりノエはたったひとりで出て行った。
魔力だって残り少ない、怜くんだって魔力をあげたりなんかしてない筈、ここに来る時だって魔力切れで倒れたってのに、なんだってそんな自殺行為をするかなあ。
「ぼくたちを探しにいったんでしょうか」
「ここら辺ぐるっとしてただけだったじゃん、そんなのすぐわかるし……あ」
「え」
「思ったより進んでるかも、結界破られてる」
「危な」
そう、危ない。
外側ではなく内側だからまだ大丈夫だと思うけど、怜くんが言うにはここには侵入者が多いんでしょ、中には獣人を攫いにくるような奴もいるんでしょ、そんな奴がノエを見つけてしまったら。
しかも魔力切れで倒れてる状態で見つけてしまったら。
あんなに弱くて綺麗な子、連れ去られてしまうに決まっている。
「俺!ちょっと連れ帰ってくるわ!」
「僕も、」
「いやひとりのが多分早い、ソフィ宜しく」
「上から見ようか」
「気にしてなかったけど、これくらいの雪なら多分足跡のこってる、いけるいける」
こんな早い時間に家出するなんて思わないじゃないか、いや、暗くなってから家出されても困るけど。そっちの方が困るけど。
だから一々家の前の足跡なんて気にしてなかった。
外に出てちゃんとよく見てみれば、薄く足跡は一直線に伸びていたというのに。
ちゃんと見てあげてたらよかった。
気付いてたのに。
今朝のあの驚いたようなかおも、朝食の時の不機嫌なかおも、お風呂を急かした時の怒ったような、傷付いたかおも。
気付いてない振りをした。面倒なことにならないようにって。
いつまでも引き摺ったって、ノエの為にもならないからって。
そんなの、俺の勝手なエゴだ。ちゃんと話をしなきゃいけなかった。
これくらいわかるよね、あんまりこういう話何回も聞きたくないでしょ?藪蛇を突きたくないんだ、ノエにはきっと難しいよね、あんまりノエを傷付けたくないよ、きっともっと良い奴がいるよ、ノエが間違ってる、
そんなことばかり言って、思って、逃げた。あの子から。
きらわれたくなかった。近くの気楽な頼れるお兄さんポジションでいたかった。間違えたくなんかなかった。
俺は一歩引いたところから見守るのが正しいと思っていた。
ノエからしたら、それがどんな気持ちになるかなんて考えずに。
寒いかなあ、寒いだろうな。
俺だって寒い。体温が低めで、魔力も殆ど残ってないノエはもっと寒いに決まってる。
心も落ちてる。その状態でひとりとぼとぼ歩く雪道は心細くて堪らないだろう。
抱き締めてあげたい、あたためてあげたい。その先を考えずにそう思うのは間違ってるんだろうか。そんなことを考えることが烏滸がましいんだろうか。
どういう気持ちで出ていったのかな、今何を考えてるのかな、これからどうしたいのかな。
弟妹の気持ちだってわかってたつもりだった。
でもずっと面倒を見てたあの子たちも個として色々な経験や考えがあって、違うよ、あの時はこう思ってたの、なんて擦れ違いも多かった。
仲の良い肉親ですらそうなのに、まだほんの少ししか一緒にいないノエのことを知った気でいた。
心なんて読めないんだから、拓かないとわかる筈なんてないのにな。
「ノエ……」
俺が軽い気持ちでつけた名前を呼ぶ。
犬や猫程簡単にはつけられない、でもちょっと意味があって、響きがかわいくて、そんなことで満足していた。
呼ぶ毎に自分の名前だとノエも意識していって、呼ばれることが嬉しい、というように振り返るノエがかわいかった。
呼ぶ時も、怒る時も、諌める時も、食事の時も、魔力をあげる時も、名前を呼んで、返事をする時もしない時も。
少し期待をするような瞳がこわくて、かわいくて、俺だって少し罪悪感があった。
勝手なんだよ、わかってんの。だけどあの子には手を出したらいけないの。
かわいい、抱き締めたい、ノエがいたい、と言うくらい強く。
でもあの子は魔王で、俺は勇者で、人間で。
あの子の精神は幼くて、俺はお兄ちゃんで。
守ってあげなきゃいけなくて、本来なら倒さないといけない相手で。
いつかさよならが来るかもしれない、もっと酷いことをしないといけないかもしれない。
そうなったら?
傷付けて傷付くのは目に見えてる。
弟みたいだから、弟でいてほしいから、そんなことでノエから距離を置こうとする。
馬鹿みたいだ。
あの子は弟じゃない。血の繋がりなんかない。
倫理観とか精神面がなんて、そんな尤もらしいことをいっておいて、結局誰にやる気もないじゃないか。
怜くんに、魔力供給であってもキスすら許したくないくせに。
それでもその気持ちを隠したい封印したいだなんて、誰にその上っ面を見せる気でいるのだろう。
年齢?見た目?誰もみてやしない、気にするのは己だけ、勝手にすればいいのだ。
こんなになった世界で、勇者が魔王をすきになって何が悪い?
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