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ろくじゅうに
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困らせてやろうとか、そんなことを思った訳じゃない。
でも少しくらい、後悔してくれたらいいなとは思った。
昨日は降ってなかったと思う、今日は薄らとだけ雪が降っていた。
不思議だ、同じ空の下の筈なのに、雪が降るところとあたたかい地域があるなんて。
はあ、と吐いた息が白くなる。つんと刺すように空気が冷たい。
ソフィを連れてこなくて良かった。おれはレイやシャルルみたいにあたためてあげるような魔法も体温もないから。
本当に、何にもできないんだ、おれ。
前だって、魔力くらいしか誇れるものはなかったけれど、魔力がなくなった今、そこらのニンゲンよりずっと弱くて、何にもできない邪魔な奴なんだ。
性格だって良くなくて、シャルルみたいに強くなくて、レイみたいに魔法も上手く使えない、ソフィみたいに自分の分の魔力すら補えなくて、リアムでも出来る家事も出来やしない。
シャルルが褒めてくれたのはかわいいねってことくらい。
そんなのも、ソフィやリアムに取られちゃった。
そんな奴、誰が一緒にいてくれる?
いや、一緒にはいてくれるよ、だって皆優しいから。
でも楽しくないでしょう、嫌な気分にしかならないでしょう、おれ、そういうことしか出来ないの。
暗くして落ち込ませて、かなしいかおをさせるのが得意なんだ、魔王だから。きっと。
でもそれってだめなことでしょ、そんなの嬉しくないでしょ、そしたらその原因はいない方がいいでしょう。
だって全部おれの我儘だ。
シャルルといたいだけ。
それだけで、シャルルの迷惑になるの。
優しいニンゲンは、そんなことはないって言う。
そんなことあるんだよ、おれがいなければ、シャルルはあんなに困ったかおしないでいいし、怒ることだって少なくなって、楽しくて、嬉しくて、優しい笑顔が増えると思う。
おれが、いなければ。
全部おれに向けてほしいなんて我儘。
一緒にいたいだけなんていって、全部欲しがるなんて我儘。
寒い。ここに来た時って、こんなに風強かったっけ。
指先が痛い。分厚いブーツの中の爪先も。
行くとこなんてない。
雪山を降りて、その後どうするかなんて考えてない。
お金だって、食べ物だって何にもない。
ニンゲンを襲う魔力すらない。
どう考えたって、ひとりで行動するなんて出来る訳ないのに。
それでもあの家にいたくなかった。
皆あったかくて優しくて、だから、きらいになるのがいやだった。
あんなに良くしてもらって、そのくせ、いなくなればいいのになんて思ってしまうのがいやだった。
シャルルのことがすきだって気持ちはおれのものだ。
シャルルにだってもう否定されたくない。
あそこにいたら、皆優しくしてくれる。心配してくれる。
でもシャルルは皆に優しくして、おれにだけ線を引く。
おれがなんて言っても、おれの気持ちが間違ってるって言う。
そう言われて、納得なんてもうしたくなかった。
シャルルに否定されるなら、存在を否定される前に消えてしまいたかった。
そしたら、シャルルの中ではきらわれる前のおれでいられるかもしれないなって。
「はあ……は、ッふ、は、……っは、」
頑固だなって、シャルルは言った。
そうなんだ、それは、その通りなんだ。
そう思ったら、ずっと引き摺っちゃうの。
シャルルにきらわれたら生きてけないって、じゃあいなくなっちゃおって思っちゃったの。
魔王なんか、いない方がいいんだって。
なんでここにこれたのかわからない。
勇者の魔法なのか、何かの間違いなのか、償いなのか。
でもシャルルに会ってしまった。
おれだけ嬉しい思いをしてしまった。それはだめなことだったんじゃないかな。
勇者だって、この世界を創った奴だって、そんなこと考えてなかったんじゃないかな。
魔王が勇者をすきになるなんて。結ばれたいと願ってしまったなんて。
そんなの全部、間違ってるって。
「……っう、うぅ、う、ふ、うあ……」
迷惑を掛けても、自分のことしか考えられないんだもん、そんな勝手な奴、シャルルに相応しい訳ないでしょう。
でもおれが離れない限り傍にいると約束させてしまった。
だからおれから、離れなきゃだめなんだ。
「っ、う、ひッ、うぐ、ぅ……ふ」
そう決めたのに、泣いちゃうなんてなんて弱い魔王なんだろう。
魔王城にいた頃はそんなことなかったのに。
優しくされて、甘やかされて、弱くなってしまった。
肉体的にも精神的にも。
ぐずぐず泣いて、本当は、シャルルに迎えに来てもらいたい。
大丈夫だよって、迷惑なんかじゃないよって、すきだよって、そんな都合の良いことばかり。
ぎゅうってして、あたたかいベッドで一緒に寝たい。
だめだよって言ったこと、撤回してほしい。
狡いでしょ、こんなことして、そんなこと思っちゃうの。
優しいからそうしてくれるでしょって思ってるの、心のどこかで。
でもそんな優しいだけの嘘で、心は満たされるのか。
虚しくなるだけだ、苦しくなるだけ。だから優しくしてくれるところから逃げたんでしょう。
そう、逃げなきゃ。
シャルルから。
自分のことばっかり。
そうだよ、おれは、自分が楽になりたいから、シャルルから逃げるの。
おれは、すきになってもらう方法なんて、知らないから。
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