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 食後、勿論今日も泊まっていきますよね!と圧をかけるように確認され、まあ本当に出て行く必要等ないので頷く。
 またリアムは椅子を飛び降りると、昨日は一部屋しか用意出来なかったので、もう一部屋用意します、とまたこっちの言葉を聞かないままてってってと走り出した。
 くう、仔熊ちゃんの動きがかわいくて止められない……!まだ早朝だよ、後でもいいよ!

「リアム喜んじゃってまあ」
「余計な仕事増やして申し訳ない……」
「嬉しそうだから気にしないで下さい」

 奥の部屋がどたん、あっ、がちゃん、うわあ、ばったん、わわわ、びたん、ひゃあ!と騒がしい。
 ……本当に大丈夫かな。
 先程の、怜くんと一緒に料理をしてるのを見る限り、とても危なっかしい。
 あまりの小ささに踏み台は必須だし、刃物を持つ手も見てられなかった。火元もこわい。
 よくあれで昨日ひとりで料理をしてたな、と思うけれど、なんというか、この家にはやたらと魔力が散漫している気がする。
 最初は怜くんが魔力の制御を出来ていないのかと思った。それが違うと思ったのはついさっき。
 例えば高いテーブルや棚の角張ったところ、扉、それこそ刃物や火元、そういったところにある魔力は明らかにリアムの為のものだ。
 赤ちゃんが角っこに頭を打たないようにコーナー部分にクッションをつけるような……なんという過保護仕様。
 成程、魔法使いと言われることはある、俺なんかよりずっと魔力を使いこなしているようだ。
 俺はそういう細かいの無理、それこそ結界とか攻撃魔法のような大雑把なものの方が得意、だからこそこの家がやさしい家だというのはわかる。

「そういえば昨日お風呂も案内してなかったですよね、宜しければどうぞ」
「朝風呂……!」
「気に入ってくれたら何日いてくれてもいいですからね~」

 この男、俺たちを囲いこもうとしてる。
 でも結構居心地がいいのも事実。
 雪山にあるとは思えないあたたかい家も、華美過ぎず落ち着く室内も、話しやすい怜くんも、ちょこまか動くかわいいリアムも、安心する家庭料理も、全てが穏やかでやさしい。
 これならいつまでだって……
 いやいや、そんな訳にはいかない。
 行く宛てがないからといってそんな訳には……
 でもここを出て行く理由もないんだよな……
 いや、ない訳でも……ううん。

「シャルルさま、タオル、ここ、置いときますね!」
「うお、あ、リアムか、ありがと」

 急な声掛けに驚いた。
 至れり尽くせりだ。
 宿のものより少しだけ広めの浴槽はとても綺麗で落ち着く。この家自体がそうなんだけど、見た目こそ絵本の世界のような外観だったけれど、中身は日本のものに近いような。
 俺が空き家を少し補修したように、この家もかなり怜くんの手が入ってるのかもしれない。
 くそう、こんなとこでも怜くんに掴まれている。

「お湯あったかいですか、きもちいいですか?」
「うん、丁度良いよ、リアムも入る?」
「いいんですか、昨日入れなかったので入りたいです!」
「えっ」

 冗談のつもりだった。おっさんみたいな冗談だな。
 やです!って断られるか、後で入りますってすり抜けていくか、どっちかだろうなって。
 なのに、すぐにすっぽんぽんになったリアムが突撃してきた。

「前、おぼれちゃったことがあって、それからひとりで入るのはメッて!」
「そっ、そっかあ」
「?」
「……?」

 浴槽の前でじっと待つリアムに『?』を飛ばしていると、中に入る前にきれいきれいしないと、と言う。
 確かにそうなんだけど……あ、俺に洗えってことか。こんなとこまで過保護だった訳ね、怜くん。
 まあいいや、こんなに小さな子とお風呂だなんてどれだけ振りだろう。見せつけてやるぜ、お兄ちゃん力を。

「全身泡だらけにしてやるからなァ」

 きゃっきゃと喜ぶリアムに、久し振りに父性本能が働いてしまった。


 ◇◇◇

「えっ、一緒に入れてくれたんですか」
「うん、楽しかったな~?」
「きもちかったです!」

 髪をきっちり乾かして、もふもふの耳を見せつけるようにリアムは怜くんに飛び込んで行った。きれいになりました!と。
 そのふかふかする耳を撫でて、本当だねえ、良かったねえと怜くんもにっこり。
 俺の方を見て、すみません、というものだから、大丈夫、弟妹いるから慣れてるんだ、と返しておく。
 ちょこんとあったポンポンみたいな尻尾もかわいかったな、破壊力すごい。

「ひとりで入ると危ないって散々言ってたものだから……」
「いいのいーの、昨日は寝落ちしちゃったもんね、俺も久し振りに一緒に入れて楽しかったし」
「あわあわいっぱいつくってくれました~!」

 全身泡だらけにして、しゃぼん玉のように飛ばしてみたり、浴槽でじっくり躰をあたためたり、くすぐってみたり、怜くんのどんなとこがすき?内緒ですよ、おししょーさまはぜーんぶだいすきです!なんてかわいいお話をしたり。
 入ってきた時は驚いたけれど、楽しい時間だった。
 弟妹達にもこんなに小さい時があったんだよなあって。

 ほんの少し、まだぶすくれてるように見えるノエにも、あたたかいよ、入っておいでと言うと、うるさい、と怒ったように風呂場へ向かって行った。
 かわいくない。
 リアムと比べてかわいげがない。
 けれどそれが自分のせいだなんて気付くのは、振り返った先の怜くんの、あーあ、ってかおを見てからだった。
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