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ごじゅうご

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 ◆◆◆

 ぴいぴいと鳥のような鳴き声と、何かが頬を突くような感覚。
 なに、なに、うう、舐めてる?おれ食べられる?食べるなら死んでからにしてほしい……
 ひえ、噛み出した、いた、い、いたい……痛い……?あれ、痛くは……

「がぶがぶしないで……」
「恐ろしい夢見てんなあ」
「……?」

 視界に映るのは、頬をぺろぺろがぶがぶするソフィ。そしてその向こうに、少し呆れたかおのシャルル。
 ……どこ、ここ。

 回らない頭で考える。
 えっと、船を降りて、買い物して、山を登って……いっぱい登って、それから、の、記憶がない。

「……」
「倒れたの。魔力切れ。わかる?」
「……ん」
「ここは情報通さんのおうち。入れてもらったの」
「ごめんなさい……」
「食事も用意してくれてるし、今日泊まっていいって。ちゃんとお礼言えるよね?」
「……うん」

 魔力切れという割には、そんなに魔力がからからになった感じがしない、いや、倒れた時は限界だと思った気がするんだけど。
 今だって、そんなに……
 そこまで考えてはっとする。シャルルは血を摂取する、とか言っていた。
 口の中にそんな味は残っていない。じゃあ、と口元を押さえてシャルルを見上げると、違うよ、と返された。

「ほんの少しだけど、触ったりするだけでも魔力はあげられるから。ほんとに少しだけど、ノエが寝てる間だけね」
「そう……」

 口じゃなかった、キスじゃなかった。
 もうしないと言われても、シャルルからはもう貰わないとおれ自身も拒んだくせに、期待してしまった。寝てる時じゃなくて、起きてる時にしてくれたらよかったのに、とか思ってしまった。
 未練がましいものだな、とも思うけれど、仕方ないじゃないか。
 まだ手を伸ばしたら届く距離にいるんだもん、もしかしたらって、期待、してしまうんだ。

「ほら、ノエが起きるのを待って貰ってるんだ、行こう」
「わかっ、た」

 シャルルが手を出して、ソファからおれを立ち上がらせる。
 船を降りた時もそう、手を掴まえようと出していた。いつもと変わらないように。
 おれだけが意地になってるのかな?
 そんなことはない、シャルルだって……そう思いたいのに、腹が立つ、何でもないようなかお、しやがって。


「あ、やっと来た」
「お待たせしました~、ほらノエ」
「……あ、り、がと、ございます」

 あっちだって、とシャルルに連れていかれた先には、テーブルに着く、少しぎこちなく笑うひとがいた。彼が魔法使い、だろうか。
 そしてその隣に、かおが見えないくらいすっぽりとフードを被ったこどももいる。随分と小さい。
 シャルルに促されるまま、よく理解出来ない内に頭を下げる。
 座って座って、と席を指され、挨拶もしない内にずらりと料理を出される。
 戸惑っていると、こどもが、おくちにあえばいいのですが!と言う。
 まるで自分が作ったかのような。……まさかこんな小さいのが作ったのか?こいつも魔法が使えるのか?

「シャル……」
「ああ、ごめんね、ノエが寝てる間にもう自己紹介すませてしまったから」
「ぼくはまだです!」
「あっ、あー、そうだね、ごめんね」

 シャルルが大きい方をレイくん、と紹介し、小さい方をリアムと紹介した。
 それから自分を指してシャルル、おれをノエ、いつの間にかテーブルに上がり、既に果物にかおを突っ込んでいるのをソフィとこちらも紹介する。
 魔法使いはにこにこしていて、宜しくね、と言った後、おれのかおを覗き込んで、うわ、と声を漏らした。

「ごめん、さっき寝てたからわからなくて……うわあ、すごい、成程……」
「な、なに……」
「綺麗な紅い瞳だ、飴みたい」

 シャルルの魔法が通じてない!と思わずシャルルの方を向いてしまった。
 大丈夫だよ、と返されて、そうか、魔法使いなんだった、と思い出す。そうだ、全てわかってる……全てかはわかんないけど、色々筒抜けなのかな。

「ごはん冷めちゃいますよお!」

 ぷく、と頬を膨らませたこども……リアムに注意されて、シャルルとレイは苦笑いして、そうだね、先に食事だ、とスプーンを手にした。
 おれは目の前に置かれたスープに手をつけられない。

「……冷まそうか」
「いい……」
「こんな時まで意地張らないの。お腹空いてるでしょ、朝から食べてないもんね」

 ほら、もういいよ、と程良く冷まされたスープを促され、そっとスプーンを沈めた。
 それを見ていたリアムが、お外寒そうだったので熱いスープを作ったのですが、としょんぼりしたように言い、おれより先にシャルルが熱いものだめなんだごめんね、でもあったかいのを頂いてるよ、と謝る。
 ……そうか、あの雪山を歩いてきたから……おれは気を失っていたけど、だから考えて作ってくれたんだな。

「おいしい……」
「おかわりは!いっぱいありますので!」
「うん……これ食べたらほしい」
「はいっ」

 フードの下がぱあっと明るくなったのがわかる。
 おれよりずっと小さくて、まだ生まれて何年だ、そんなに経ってないだろうに、随分しっかりとしている。
 すごいな、おれは未だになんにも、出来ないのに。
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