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名ばかりの『護衛』の仕事は荷物と従者を無事に目的の店まで運ぶこと。
船に同乗するだけで良かったんです、そこまでして頂かなくても大丈夫ですよと言われたけれど、中身は知らないけれど、王室からだなんて、どんな高価なものが入ってるかわからない。
船旅は楽しめなかったけれど、仕事は仕事としてきちんとさせて頂きたいという忘れかけていた社畜心。
お礼を言われ、買い物も済ませ、さあさて山を登ります。
……そんな体力魔力がノエにあるとは思えない、というか、ない。
普段なら魔力くれ魔力くれと騒いでるくらいなのに、ふらふらしながら歩いて、そのくせ俺の手を掴まない。
掴んでくれたら、少しくらい、は魔力も渡せるというものだけれど、それすら嫌らしい。
吐きそうになる溜息を呑み込む。
頑固だ、意地っ張りだ、そういうところがかわいくて、そういう対象に見れないの。
いっそ魔力切れで倒れてしまえばいい。
その方が運びやすい。
ゆっくりゆっくり、雪に足を取られながら歩いていく。
この調子じゃ森を抜けた時のように、また今日中に着くことは出来ない。
気温の穏やかだったところと違い、こんな雪山で野宿なんて無理な話。お断りしたい。
街のど真ん中か、ちょっと離れた村とかでひっそり暮らしてるとかかな、と思っていた情報通さんは、魔法使いと噂されるだけあって、山奥に住んでるらしい。
なんてところに、と思ったけれど、船から見る感じ、どうやら俺と違って飛べるようだ。街に降りたり戻るのも苦ではないのだろう。
あたたかい服をと用意してきたつもりだったけど、流石に雪山は……と更に防寒具を買い足す羽目に。
おかげで幾らかましにはなっただろうけど、動きにくくて仕方ない。ノエなんて俺が着せまくってしまったせいで雪だるまのように着膨れてしまっている。
歩くのが遅いのは俺のせいか。
はあ、ふう、と息を漏らしながら、頬を林檎のようにしてノエは進んで行く。
真冬に風邪をひいたこどものようなかお。かわいくてかわいそうで、助けてあげなくちゃ、俺がどうにかしてあげなくちゃ、そう思うのに、俺もノエも、どちらも意地を張ってしまっている。
……本当に、北の魔法使い、に魔力を貰う気なんだろうか。
俺と同じ方法で貰う、違う方法では貰わない、と言った。
つまりキスで貰う、ということ。
俺がそれがいちばん手っ取り早いと言っていたから。
多分、俺への怒りとか、やけになってるとか、そういうのだと思う。
そうわかるけれど、胸がざわざわする。
そりゃあそうだろう、かわいい弟のような子が、見ず知らずの、会ったことすらない、性別もかおも声も、何もわからないひととキスをすると宣言してるのだ、複雑な心境になるのは仕方ない。
止めろと言いたい、俺以外から貰うなと。でもそんなことを言う資格は俺にはない。
ノエを傷付けた俺には。
シャルからもらいたくない、シャルなんかいらない、きらい。
きらいなんて言われたらかなしくなるんだけど、そう伝えた俺にも、きらい、と重ねた。
思ってた以上のダメージだった。
家族に言われても、誰に言われても、こんなにダメージは負わなかったと思う。
家族なら、そんなのただの勢いで、ちゃんと俺のことを愛してるのはわかっているし、他人なら別に自分のことをきらいだと言う奴は自分も気にしなければいいと思ってた。
でもノエは家族のように愛しいと思っているけど実際家族ではない、絶対の愛情がわかる訳でもなく、ただ傷付いた。
そうさせたのは俺自身なのに、どう考えたって悪いのは自分なのに、ノエからそんな言葉は聞きたくなかった。
勝手だと思う、ノエを連れてきたのも自分、魔力をあげたのも自分、そのノエからの好意を蹴ったのも自分。
そのノエが他を探して何が悪い、自分を愛してくれる対象を探して何が悪い。
俺がその愛を同じように返せないなら、保護者面してる自分から頼むと相手に頭を下げるべきでは?
ノエが他のひととキスしてるのも、血を貰うのも、手を繋ぐことすらいやだと思ってしまう。
俺にしたように夜中にベッドに潜り込むのだろうか。
猫のように丸くなって、ぎゅうと腕を抱き締めて、あったかい、と溶けたように言うのだろうか。
俺以外に、あのかおを見せてしまうのだろうか。
◇◇◇
雪山に登り初めて、何時間経っただろうか。
少し前を歩くノエがゆらゆら揺れ始めて、そのままばたんと積もった雪に頭から倒れた。
……漸くだ。
何度俺から気絶させた方が楽だと思ったか。
思ったより頑張ったな、と変に感心しながらノエを背負う。
一応ソフィもいるのだ、早く辿り着くに越したことはない。
ノエの件さえどうにかなれば、こんな雪山、俺にはなんてことない。なんてことないは言い過ぎか。
細かい魔法は苦手だけれど、自分に関するものなら多少大雑把で構わない。他人への怪我や影響の心配がないなら。
足元を軽くしてしまえば直ぐに進める、疲れも出ない。
本当は魔法使いのように飛べたらいいんだけど。ゲームみたいに目的地まで移動出来たりとか。流石に出来ないか。
方向は間違ってない、幾重にも結界のようなものが張られ、如何にもこっちに来んなと言いたげなものが、余計にこっちであってるぞと教えてくれてるようなもの。
段々と強くなるそれに、もう少しだ、と足を動かし、空気の違いを感じる頃には、こぢんまりとした家が見えてきた。
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