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ごじゅう
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詰め込むように食事をして、シャルルと話をしないようにずっと横になっていた。
いつまで経ってもベッドはあたたかくならないし、寝づらい。
あたたかいソフィは元気で、あまりおれと一緒に寝てくれない。ぴいぴい鳴いて、うろうろしたり、シャルルに果物を強請ったりしていてベッドに来てくれない。
寒いなあ、指先も爪先も冷たくて、でもシャルルのベッドには入れない。
急な温度の低下、自分の体温の低さ、魔力が残り少ないのを実感する。
夜になって、シャルルもソフィも静かになって、暫くして寝息が聞こえてきた頃、自分の情けなさに涙が出た。
シャルルひとり魅了出来ない魔力も、生命を維持する魔力も、ソフィを従える魔力もない。
なんで勇者に殺されて終わりじゃなかったんだろう。ここに来てしまったんだろう。
消えてしまえば、誰にも迷惑も掛けなかったし、こんなにさみしくなんかなることもなかった。
魔王だから?罰なのかな?まだもっと苦しくなるのかな。
おれは魔王になりたてで、まだニンゲンを殺してなかったけど、生きてたらきっと殺してた。
だから勇者にも赦されなかったのだろう。
◆◆◆
翌朝は頭もあまり回らなかった。シャルルが話し掛けてきたけど、それもよくわからなかった。
魔力がなくなりそう。寝ている間でさえ自分の躰から出ていってしまう。最後に貰ったのはいつだっけ。
卵の頃は魔力を吸う一方だったソフィは、生まれてしまえばシャルルと一緒で、吸わなくても自分でどうにか出来るようだ。
おれの近くにいても、魔力が減ることはない。ほんのりとあたたかいが、おれに魔力を与えることは出来ない。少なくとも今は。
だからおれは食事でどうにかすることしか出来ない。
昨晩も今朝もたくさん食べた。周りはびっくりしていたけれど、もうどうでも良かった、どうせもう会うことはないし、シャルルに悪いと気を遣うのも止めた。
船を降りるよと声を掛けられて、頷いて着いていく。楽しみだったのに、結局殆ど外に出られなかったな。
まだほんの少し、霧がかかった状態で船を降りようとした時、なんだか周りが騒ついて、その方向を見ると、あれは山かな、白いのは多分雪だ、雪の積もった山。
そこで何かが飛んでいた。
おれも、ただのニンゲンでもわかる、それが鳥なんかではない、魔力を持った何かだというのに。
本当に魔法使いがいるのかしら、まあ物騒ねえ、あれは何をしてるのかね、でもひとに危害はないのでしょう?
そんな声に、やっぱりあそこに居るっぽいね、探す手間が省けた、とシャルルが呟く。
わかりやすくて有り難い。
反面、シャルルといれるのはあそこまでか、と思ってしまう。勝手にそう決めたのは自分だけど。
それと同時に、あそこまで登らないといけないの、とぞっとした。持たないと思う、おれの魔力。
行くよ、と出された手は掴めなかった。
うん、って、掴んでしまったら昨日のあれはないことになったかもしれない。そうしてくれたかもしれない。
でも掴めなかった。
だってそんなことしたら、これから先ずっと苦しいまんまでしょ、と手を引っ込めて、ソフィを入れた肩掛け鞄の紐をきゅっと両手で掴んだ。
◆◆◆
雪山の天辺になんでも知ってる魔法使いがいる、
船を降りてから、一応と周りに訊いたところ、同じようなことを皆口にしていた。
何をしてるかはわからないけど、薬を作ってるらしいわよ、たまに上が騒がしいわねえ、変なひとがよく登っていくのを見るわよ、何をしてるかはわからないけど。
同じようなことを、皆口にする。
特に恐れているようには見えないし、話してる間に不思議そうな表情はしても、迷惑だわ、というようなこともなかった。
たまに買い物なんかで降りてくるわよ、何も話さないけれど、という言葉から、微妙な関係で成り立ってはいるようだった。
誰かがこわがったら終わり、でも不思議と誰もその魔法使いがそこにいるのを嫌がりはしない。
シャルルは魔法使い、のような、と言っていたけど、飛んだり出来るならやはり魔法を使えるんじゃないか。
シャルルですら出来ないことを出来るような。
ということは、もしかしたらやっぱり、何かおれのことを知ってるかもしれない、魔力の問題もどうにか出来るかもしれない。
自分で魔力をどうにか出来るようになったら、シャルルと対等になれる?
どうにか出来るならシャルルのことはいらないよねって捨てられちゃうかな、それとも危ないってまた見張られちゃうかな。
……自分から離れると決めたくせに、そうやってシャルルといられる理由を考えてしまう。
だめだ、一緒にいたって苦しいだけだってわかってるのに。
おれのこと、すきにならないって言われたのに。
なんでおれ、こんなにばかなんだろ。何回か言われないとわからないのかな。
まだ一緒にいたいって思っちゃう、手ぇ繋ぎたいし、ぎゅってしてほしいし、一緒に寝たい。
やっぱりおれにはシャルルがいちばんで、シャルルしかいやなのに。
そう思う度に、でもシャルルにはおれはすきになってもらえないから、と泣きそうになってしまう。
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