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よんじゅうさん

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 おれがケーキを口に詰め込んでる間ドラゴンはベッドの上でシャルルに果物を貰っていた。
 小さな口でしゃくしゃくと音を立てながら。
 あの果物は、おれも貰ったことがある。甘くて酸っぱいやつ。
 それを美味しそうに食べてる姿に、いいな、と思ってしまった。いいな、いいなあ。
 そんな視線に気付いたのか、シャルルが食べるかと訊いてくる。頷くと、それを投げて寄越した。
 そうだけど、そうじゃない。
 おいしいのしってるけれど、そうじゃなくて、……おれは近くにいけないのにっていう、そういうの。

「この子の名前さあ」
「……!」

 急に話を振られてびっくりした。
 思わず受け取った果物をぎゅっと握ってしまう。

「ソフィってどうかな、俺昔大学……っと、習ったのうろ覚えだし、この子男の子か女の子かもわかんないけど」
「そふぃ……」
「ドラゴンは賢いんでしょ、そのまま安直に頭のいいっていう……捻りもなんにもないんだけどさ、動物の名付けってそんなものかなって」
「いっ、いい、と思うっ」
「そっか、じゃあお前は今日からソフィだ、宜しくな、ソフィ」

 ソフィ、がきゅうと鳴く。名前だとわかったのかどうか。
 おれが散々言ったことだ、ドラゴンは頭がいいと。
 それを使って名前を付けてくれた。嬉しい。
 嬉しい、筈なんだけれど。もやもやする。

「まだ食べるのか?お前、ノエに似てるなあ、よく食べる食べる。ほら、これはどうだ?」
「……」
「すごいな、歯ももう生えたんだ、流石ドラゴン、昨日は全然だったのに。でもまだ歯ァちっちゃいな~、猫の歯もちっちゃいんだよな、かわいいなお前。頭も手も爪も小さい、待て待て待て、ちぎってやるから、ほら、指噛まないで……甘噛みかわいいな」

 もやもやする。
 聖女はいないのに。
 シャルルとドラゴンしかいないのに。どっちもすきなのに。
 もやもやする、もやもやする、もやもやしていやだ、いや、なんで、なんで、なんでなんでなんで、おれだっているのに。
 ううん、果物くれたし、話し掛けてくれる、おれが名前つけてって言ったからつけてくれてし、意味だって教えてくれた。
 おれがいることをわからない訳ない。
 なのに、なのに、なんで、

「おれも、」
「え」
「おれも、そっち行きたい……」

 かおを上げたシャルルは少し驚いた表情をして、それからにこりと笑い、ノエもソフィと遊びたいもんな、と言った。
 かわいい。
 シャルルの言う通り、ソフィは頭から爪先までとても小さくてかわいい。格好良いドラゴンを小さくしたような、でもやっぱりかわいい。
 きゅうきゅうぴいぴい鳴く声も、頑張って小さな口で大きな果物を齧る姿も、シャルルの指先に頭を擦り付ける仕草も、おれの方を向いて、まだ飛べないのに翼を広げるのも。
 だけど違う、違うんだ、ソフィとも遊びたい、話をしたい、そうちゃんと思ってるけど、でも。

「おれはずっとシャルルのとこいっちゃだめ……?」

 聖女もソフィもいいのに、おれはだめ?
 依存してるから?
 おれはシャルルの傍にいっちゃだめ。いつまで?ずっと?
 依存って、どうしたら治るの?
 シャルルの言ってること、難しくてわかんない。
 いつまで我慢してたらいい?
 ずっと一緒にいてくれるって言った。頑張ろうって思ったし、きらわれたら意味ない、だからシャルルの言う通りにしようって。
 優しくしてくれる、食べ物も美味しい、ソフィも無事生まれて、約束通りちゃんと生まれた後も一緒にいてくれてる。
 はぐれないようにって手を握ってくれるし、魔力もくれる。でもそれだけ。
 それより近付こうとすると、シャルルのかお、少しこわくなるから。
 あ、だめなんだって、こわくなる、かなしくなる。シャルルならって思ってたから、余計に。

 聖女にはにこにこしてたし、ソフィが指を噛んでも怒らず優しく笑う。
 でもおれには少し……少し、なんか、違う。
 前まではしつこいくらい頬に触れたり、頭を撫でてきたりしていたのに、この間からそれもずっと、もう、ない。
 もうシャルルのあたたかさを感じるのは魔力を貰う時以外は外で手を繋ぐ時だけ、それすらもう、なんだかいやそうで、だからおれ、もっと我慢しなきゃって。
 いつも通りでいよう、でもシャルルのいやなことはしないでおこうって、一応、ちゃんと考えた、つもりだった。

 ……我慢するのって、苦しくなる。
 もやもやして、ぎゅうってなって、息をするのも痛くなるような。
 ずっとそうなのかな、シャルルが他の誰に優しくするのを、触れるのを、もう見ているだけしか許されないのかな。
 おれだって、もっと近くにいたかったのに。

「……だめなんて言ってないでしょ」
「いやそうだもん……」
「そんなつもりは……」

 あるってかおしてる。誤魔化そうとしてる。
 そういうのがいやだ。
 聖女にもソフィにもしないのに、おれにだけ。
 おれにだけ、困ったかおするの。おれだってそんなかお、してほしい訳じゃないのに。みたくなんかないのに。
 おれが近付いたらそんなかおするんだもん、それくらいわかってしまう。

 おれだけがだめなんだって。
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