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残ったものを詰めて、はいシャルルさん、ボックスにでもいれといて、と渡される。
ノエはまた後で食べる、とたくさんの甘い物に少し興奮しているようだった。そうだよね、散々甘い物食べてると思うけど、今日のは壮観だったよね、良かったねえ。
「ここ来るのいやそうだったけど、これでちょっといい思い出になってくれたら嬉しいな」
「……」
「ノエ、返事」
「……ありがと」
「また作るね!」
最後まで幼児のようだった。
また宿まで送ると言う聖女さまを駄目ですと叱り、門のところでまたね、と手を振る。
ノエも、心持ち手を振ってるかな、くらいの小さい振り方だったけれど、一応挨拶はしている模様。
その手を下ろすとすぐに俺の手を掴んで来るものだからびっくりしてしまった。
離すまではいかなくても、その挙動にノエもあれ、と思ったらしく、だめだった?と窺うように訊いてくる。
昨日まではぐれないようにね、と手を平気で握っておいて今更駄目とも言えない。
ぐ、と呑み込んでいいよ、とだけ返した。
これは『見返り』を求めてるものではなく、単にノエの中でははぐれないように手を握ることが普通になってしまっただけだ。
別にそれならいい。
こうしたら自分は捨てられない、ではなく、純粋にノエがしたいというのなら、ベッドに潜り込んできたりキスをしてくることに比べたらこどもらしくてそれくらい構わないと思う。
「……」
「……」
「……手もだめ?」
「……いいって言ってるでしょ」
「……」
離そうとされた手をきゅうと握って引き止める。
全部に遠慮してもらいたい訳じゃない。
変なことさえしなければ、ノエには自由に明るく楽しく騒いで笑って欲しいのだ。
◇◇◇
「これからどうしよっか」
「これから?」
宿に戻り、ぎし、とベッドを軋ませながら腰掛ける。鞄に入れた卵もそっと置いた。
そんなことを訊きながら、俺としてはもう北の情報通とやらに会いに行く気でいる。
ただ一応、ノエの意見も聞いておかなきゃと思って。
まああの森に戻りたいなんてまた言っても、それが本心ではないのもわかってる。
そこくらいしかノエが思い浮かぶ場所がないのだ、それだけ。
結局ノエが選べる居場所なんて今のところ俺の近くだけ。そうわかっていながら訊いてしまう。
ノエに、俺に依存してるだけと言いながら、俺もノエに依存してしまっている。
ノエも聖女さまもかわいくて守ってあげたくて、でも聖女さまには愛される聖女という役目があって、王都に居場所がある。
でも力のない魔王さまにはそんな場所はない。こんなにかわいらしいのに、魔王だなんてばれたら処刑されてしまってもおかしくない立場。
だって皆からしたら魔王は恐ろしい存在で、ノエのことを知らないから。厄災そのものの魔王を赦すことはないだろう。
だから俺が守ってあげなくちゃ。俺にしか出来ないことだから。
「……一緒、いていいって」
「うん、ノエが嫌って言わなきゃ一緒にいるよって言った」
「じゃあ」
一緒、いる、と唇を噛んだノエに、なんでそんなに思い詰めたような表情するかなあ、と思ってしまう。
俺そんなに酷い言い方だったかな。
「急いでる訳ではないけど、北の方に行こうと思って」
「北の方……」
少し考えて、あの森からまた遠くなる?と訊いてくる。
だからもう、あそこに帰れなんて言う気はないというのに。そうまた伝えたところでどうせしょぼくれてしまうんだろう。
「……ノエも一緒、行くでしょ」
「う、うん……!」
そう確認することで安堵するかのような笑顔に罪悪感が湧く。
めちゃくちゃトラウマになってるじゃんか。止めてよ、俺すっげー酷い奴みたいじゃん、こんなにノエのこと考えてるというのに。
北の方はこっちより寒いぞ、明日にでも服買いに行こう、と言うと、またうんと頷いて、それからへへ、と笑うノエが、そんなに遠慮がちに笑わせてしまう俺が、無性に腹が立った。
◇◇◇
「ねえねえ、船に乗りたくなーい?」
ノエを連れて北の方へ行くと決め、準備をしつつ、いつ出発しようかと思っていた時だった。
何かを含んだような聖女さまに警戒をするとそれがまあ当たり、仕事を引き受けて欲しいという。
どのような内容かというと簡単な話、また護衛だった。
今度は聖女さまの護衛ではない、王室の従者が同じ方に荷物を運ぶので、ただ同乗してくれればいいというだけの。
船を襲う魔獣が出る訳でもない、海賊船が出る訳でもない。どえらいやばい荷物を運ぶ訳でもない。
勇者が出る幕など本来ないくらいの仕事だった。
それなら何故俺達が選ばれたか。その理由はこれまた簡単、ノエがいるからだ。
ノエっち馬車もすごく楽しそうにしてたでしょ、だから船も海も喜ぶんじゃないかって。初めてでしょ?
そんな聖女さまの心遣いだった。まあついででもある訳だけれど。
その話を聞いた魔王さま、う、海!なんて、まあまたこどものように瞳を輝かせるものだから、そんなに喜ぶなら列車じゃなくて船でもいいかあ、と了承するしかなかった。
二泊三日の船旅だ。よく考えなくても俺も船旅なんてしたことなかった、折角だ、俺も一緒に楽しめばいいか。
ノエはまた後で食べる、とたくさんの甘い物に少し興奮しているようだった。そうだよね、散々甘い物食べてると思うけど、今日のは壮観だったよね、良かったねえ。
「ここ来るのいやそうだったけど、これでちょっといい思い出になってくれたら嬉しいな」
「……」
「ノエ、返事」
「……ありがと」
「また作るね!」
最後まで幼児のようだった。
また宿まで送ると言う聖女さまを駄目ですと叱り、門のところでまたね、と手を振る。
ノエも、心持ち手を振ってるかな、くらいの小さい振り方だったけれど、一応挨拶はしている模様。
その手を下ろすとすぐに俺の手を掴んで来るものだからびっくりしてしまった。
離すまではいかなくても、その挙動にノエもあれ、と思ったらしく、だめだった?と窺うように訊いてくる。
昨日まではぐれないようにね、と手を平気で握っておいて今更駄目とも言えない。
ぐ、と呑み込んでいいよ、とだけ返した。
これは『見返り』を求めてるものではなく、単にノエの中でははぐれないように手を握ることが普通になってしまっただけだ。
別にそれならいい。
こうしたら自分は捨てられない、ではなく、純粋にノエがしたいというのなら、ベッドに潜り込んできたりキスをしてくることに比べたらこどもらしくてそれくらい構わないと思う。
「……」
「……」
「……手もだめ?」
「……いいって言ってるでしょ」
「……」
離そうとされた手をきゅうと握って引き止める。
全部に遠慮してもらいたい訳じゃない。
変なことさえしなければ、ノエには自由に明るく楽しく騒いで笑って欲しいのだ。
◇◇◇
「これからどうしよっか」
「これから?」
宿に戻り、ぎし、とベッドを軋ませながら腰掛ける。鞄に入れた卵もそっと置いた。
そんなことを訊きながら、俺としてはもう北の情報通とやらに会いに行く気でいる。
ただ一応、ノエの意見も聞いておかなきゃと思って。
まああの森に戻りたいなんてまた言っても、それが本心ではないのもわかってる。
そこくらいしかノエが思い浮かぶ場所がないのだ、それだけ。
結局ノエが選べる居場所なんて今のところ俺の近くだけ。そうわかっていながら訊いてしまう。
ノエに、俺に依存してるだけと言いながら、俺もノエに依存してしまっている。
ノエも聖女さまもかわいくて守ってあげたくて、でも聖女さまには愛される聖女という役目があって、王都に居場所がある。
でも力のない魔王さまにはそんな場所はない。こんなにかわいらしいのに、魔王だなんてばれたら処刑されてしまってもおかしくない立場。
だって皆からしたら魔王は恐ろしい存在で、ノエのことを知らないから。厄災そのものの魔王を赦すことはないだろう。
だから俺が守ってあげなくちゃ。俺にしか出来ないことだから。
「……一緒、いていいって」
「うん、ノエが嫌って言わなきゃ一緒にいるよって言った」
「じゃあ」
一緒、いる、と唇を噛んだノエに、なんでそんなに思い詰めたような表情するかなあ、と思ってしまう。
俺そんなに酷い言い方だったかな。
「急いでる訳ではないけど、北の方に行こうと思って」
「北の方……」
少し考えて、あの森からまた遠くなる?と訊いてくる。
だからもう、あそこに帰れなんて言う気はないというのに。そうまた伝えたところでどうせしょぼくれてしまうんだろう。
「……ノエも一緒、行くでしょ」
「う、うん……!」
そう確認することで安堵するかのような笑顔に罪悪感が湧く。
めちゃくちゃトラウマになってるじゃんか。止めてよ、俺すっげー酷い奴みたいじゃん、こんなにノエのこと考えてるというのに。
北の方はこっちより寒いぞ、明日にでも服買いに行こう、と言うと、またうんと頷いて、それからへへ、と笑うノエが、そんなに遠慮がちに笑わせてしまう俺が、無性に腹が立った。
◇◇◇
「ねえねえ、船に乗りたくなーい?」
ノエを連れて北の方へ行くと決め、準備をしつつ、いつ出発しようかと思っていた時だった。
何かを含んだような聖女さまに警戒をするとそれがまあ当たり、仕事を引き受けて欲しいという。
どのような内容かというと簡単な話、また護衛だった。
今度は聖女さまの護衛ではない、王室の従者が同じ方に荷物を運ぶので、ただ同乗してくれればいいというだけの。
船を襲う魔獣が出る訳でもない、海賊船が出る訳でもない。どえらいやばい荷物を運ぶ訳でもない。
勇者が出る幕など本来ないくらいの仕事だった。
それなら何故俺達が選ばれたか。その理由はこれまた簡単、ノエがいるからだ。
ノエっち馬車もすごく楽しそうにしてたでしょ、だから船も海も喜ぶんじゃないかって。初めてでしょ?
そんな聖女さまの心遣いだった。まあついででもある訳だけれど。
その話を聞いた魔王さま、う、海!なんて、まあまたこどものように瞳を輝かせるものだから、そんなに喜ぶなら列車じゃなくて船でもいいかあ、と了承するしかなかった。
二泊三日の船旅だ。よく考えなくても俺も船旅なんてしたことなかった、折角だ、俺も一緒に楽しめばいいか。
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