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心臓が爆発すると思った。俺はどこで間違えたんだろうと。
実際は一箇所ではなく、幾つも間違いを犯してるんだろうけれど。
良かれと思ってやったことが、ノエのことを考えてやってたことが、あの子を追い込んでしまっていた。
あの幼くてかわいらしいかおを歪ませたかった訳ではないのに。
ドラゴンと会ってからずっとおかしいなとは思っていたけれど、それはドラゴンの死からくるものだと思っていた。
向こうの世界で俺が触れたことのある死は少ない。
だから魔王であるノエの方がよっぽど誰かの死に触れたことがある筈で、落ち込んではいるけれどまあその内……卵のこともあるし、元気になるかと。
でも実際、ノエは出会ったばかりの元気な少年には中々戻らなかった。
しおらしいというか、大人しくなったというか。
元気な弟らしさが少しなりを潜めて、あの時のような妙な色気をたまに出したりして。
あれ食べたいこれして、というようなこどものような素直さが、我慢をするようにそっとシャツを引くような控えめなものになったりして。
でも、まさかあんなこと考えてるとは思わなかった。
魔王さまが、俺に依存してるだなんて。
正直に言うと、まだやっぱりかわいい、とても。
仔猫のように、ととと、と後を着いてきてはぎゅうと裾を掴み置いていかれないようにする姿は庇護欲を唆る。
魔力のないか弱くかわいそうな魔王さま、そんなの守ってあげるしかないじゃないか。
でもそれは、俺の『兄』としての部分であって、ノエのことを思えば、人権を考えれば、俺がかわいいね、って満足して終わりで良い訳がない。
四六時中一緒に居れる訳がない。
こうやって風呂に入る時や寝る時、その内ノエを置いてどこかに出掛けないといけないこともあるだろう。
赤ちゃんであってもお母さんが四六時中見ているのは難しい、意思のある大きな子なら尚更。
卵さえ孵ってしまえば、あとはノエの魔力を奪われることはないだろう。
ノエが特殊なだけで、ドラゴンなら産まれたら自分で魔力はどうにか出来る筈。
そうしたら後はノエが無茶をしなければ、魔力は俺が与えてから数日は持つと思う、本当に、無茶をしなければ。
本当はノエが自分でどうにか出来るようになるのがいちばんなんだろうけれど、そうなったらそうなったで今度は俺がノエから離れることが出来なくなる。
魔力を持った魔王さまは見張り対象だ。
でもなあ。
やはり難しいと思う。
いやでしょ、ずうっと一緒ってのは。自分の時間も欲しいでしょ。
それは俺だってノエだって。
ノエがくっついてくるのは不安からだ。
不安がなくなれば、あの子はもう少し自由に出来る。
無理に俺に選んでもらおうなんてしないでいい。
そんなのお互いしあわせになんかなれっこない。
「……ほんとこどもみたいなんだけどなあ」
実年齢以外は。
枕を抱えて、泣き腫らした目元ですうすう眠る姿はまんまこどもだ。
同年代にも見える聖女さまや弟妹たちよりずっと幼い。
その幼いかおで、頭で、サキュバス譲りの無茶苦茶をするものだから堪らない。結果その通りには出来てないんだけれど。
かわいいなあ、かわいい。
ほおんと、かわいい。
かわいすぎてかわいすぎて俺、君に手を出すことなんて出来ないよ。
◇◇◇
「今日はシャルルさんが卵持ってんだ?何なに、交互に面倒見てんの?」
「いやまあ色々あってねえ」
「ノエっちは……すっげいやそうなかおしてるね?」
「あー……」
わざわざ聖女さまが宿まで迎えに来た。ひとりで。
昨日の、ふたりで行動してたのもやばいと思ったけれど、幾ら自分のテリトリーとはいえ、聖女さまがひとりでうろうろするのは危ないんじゃないか。
そう訊くと、余裕余裕、わたし最強だから、とまたピース。
確かに魔法を使えるひとが少なくなった世界で、俺や聖女さまのような存在はそりゃあ最強敵無し、だろうけれど。
でも聖女さまみたいな狙われそうな立場の女の子を心配しない、なんてこともないでしょうが。
少しくらい危機感持った方がいいぞという俺に、聖女さまは満足そうに、やっぱりお兄ちゃんって感じ!と笑った。
「そんなにいやかあ、まあそうだよねー、わたしだって面倒なことしたくないもん、お上品にするのも疲れるもんね」
「よく猫被れるな」
「慣れてるからね~」
ノエのいやそうなかおの理由を話すと、大丈夫、食事会だけで解散出来るようにわたしが助け舟出すから、と聖女さまは頼りになるのかならないのか、ぱちんと下手くそなウィンクをして、さあ行きましょか、と促した。
聖女さまが話すには、本当にただの食事会、王様と王妃様、七人の王子王女のご家庭の食事に邪魔をするだけ。
それを断ると大掛かりなパーティに招待されるかもしれないよ、そっちの方が面倒でしょ、と半ば脅された形での招待だった。
確かにパーティは更に面倒くさい。
ノエも連れて行く手前、関わるひとは少ない方がいいってのもある。
行きたくないと言っていても、ノエを留守番させるのはまだ少し心配だった。
最終的にはノエの方から一緒に行く、と言い出してくれて助かったけれど。
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