上 下
23 / 143
2

23

しおりを挟む
 遅いぞ!と急かすように俺の腕を引くノエに、少し歩みを早める。
 確かに早く済ませてしまわないと、また野宿になってしまうかもしれない、駄目です、それは駄目だ。ちゃんと宿に戻りたい。

 暫くそのまま歩き続けて、歩き続けて、まだ歩き続けて、開けた土地なのに、未だドラゴンは姿を見せない。
 気配は薄らと感じる。確かにいる。多分、想像しているのよりもずっとでかいのが。
 隠れているのか、俺たちに姿を見せないだけか。

 観光客で賑わう花の街。気温と土壌に恵まれた街。
 そこを出て少し歩くだけで、目の前には枯れた土地が広がる。
 そういうところも魔法のある世界だなって思う。なんて両極端な世界。
 そのお陰で視界が広くて探しやすいんだけれど。

「もう少しだ!」
「……全然見えなくない?」
「あっち!」

 森を抜けた時とは逆に、ノエが俺を引く構図がちょっと面白い。
 腕を引くといっても力は全然篭ってないし、どちらかというと声で急かすという方が正しい。
 余程ドラゴンに会えるのが嬉しいようだ、と考えて、それもそうかと思い直す。
 まだここに来て数日とはいえ、魔王城は崩れ、魔族もほぼいなくなったのはわかっているようだ、その中で自分の味方がいるとわかったら会いたくなるのは普通だろう。
 俺だってそんな存在が居たら会いたくなる。話が出来るだけで安心する、嬉しくなる、癒される。
 凶暴なドラゴンだったらと少し心配してはいたけれど、そうでもなさそうだ。今の力のないノエであっても少しは……
 …………
 大丈夫か?魔王だってわかってもらえるのか?すぐ殺されたりしない?えっこわ、ドラゴンがってより無力なノエがこわい!
 弱いくせに突っ込むこどものようでめちゃくちゃこわい!その通りなんだけど!

「あそこだ」
「えっ、え、どこ、いないけど、地面と空しか見えないけど、えっ擬態でもしてる?」

 興奮気味にノエが指差すところには何もない。やはり気配はするのだけれど。
 首を傾げる俺に、下だよ、下、とくいと指を下に降ろす。
 下。
 足を進めて、そこが崖のように地割れしているのを確認する。
 この下にいるって?ドラゴンが?
 恐る恐る、興味本位、初めて見るドラゴンに少し浮かれて、見たい、見たくない、まだ夢見てたい、本物が見てみたい。ノエがドラゴンを格好良いというが、俺だってそう思うよ、男はすきでしょ、ドラゴンとか恐竜とかさ。
 好奇心と危機感、どちらもわかりながら、それでもここまで来てドラゴンと対峙することを止めることも出来る訳がない。

 いる、と声を漏らすノエの横で、俺はその姿に目を丸くしていた。
 予想通りの、昔ゲームや漫画で見たようなフォルム、保護色なのか土と同化しているような所々苔のような皮膚の色、硬そうな鱗、ちらりと見える鋭い爪、畳まれた翼、こちらを見てなくてもわかる大きな黒い瞳。
 そしてとんでもない巨躯。
 鷲だとか虎だとか象だとか鯨だとか、そんなのとは比べられなかった。あんなの、生き物じゃなくて、船とかそういうのと同じくらいの……

「シャル!」
「わっ馬鹿声でっけ」
「魔力!ちょうだい!」

 今朝魔力を渡さなくて済んだと思った。あんな空気で渡すのもどうかと。
 でもこんな元気に言われてしまうと、そんなこと考えてる俺の方が意識し過ぎだと思ってしまう。
 ただの魔力供給、性的なものは何もない。かわいそうな魔王さまに魔力を渡してあげるだけ。
 わかっているのに。
 この子自体が色気を出したりこうやって無邪気に言ったりするから、どういう気持ちで言ってるのかわからない。

「ねえ早く!早く下行きたい!そこ!もうすぐそこいる!」

 ぴょこぴょこ跳ねるようにして腕を掴むノエ。
 おにいちゃんあれ買ってえ!とせがむ小さい頃の妹にそっくりだ。かわいい。強請ってるものがかわいくないけど。
 そうなってしまうくらい興奮してるようだ。

「……」
「お願い、残ってるだけの魔力じゃ話出来ない」
「ドラゴンと話出来んの」
「うん!」
「……やばくない?あのでかさ、ノエなんて息するだけで吹っ飛ぶよ」

 大丈夫だから!早く!ねえねえねえ!と、もうここまで来たら駄々っ子の域だ。
 がくがくと俺を揺らし始めたノエに、もう駄目とも言えない。こんなに瞳をきらきらさせられては、魔力をあげないなんてもう意地悪じゃないか。
 ひとつ溜息を吐いて、少しだけだからね、と言うが早いが、俺の首元に飛びつき、頭を下げさせ、柔らかい唇を重ねてくる。
 ……この子は物覚えが悪いな、俺が渡そうとしなければ魔力を渡すことは出来ないと伝えてるのに。

 一瞬で終わったキスに、あれ、とノエは首を傾げる。
 それからあっと口を開いて、間抜けなかおで、力ちょうだいよ!と頬を膨らませた。
 馬鹿、そんなタイミング良く渡せる訳ないだろ、リズムゲームかよ、と突っ込みたいところをぐっと堪えて、腰を曲げた。

「今の一瞬じゃ無理だよ、ほらどうぞ」

 俺も馬鹿なんだよ、自分の首を絞めてるのはわかるのに、そんな意地悪言っちゃうの。背伸びしてキスするノエかわいいななんて思っちゃうの。
 だって所詮弟のようで弟ではない、シャルルよりも、生前の俺よりも大分歳上なんだし、おとなと未成年の危ない関係ではない、多分。
 ちょっとくらい、キスくらい、と魔が差してしまうのは仕方がない。
 だってもう、信じらんないくらいかわいいんだもんこの子。
 何も手入れしてない筈の唇がふわふわしてるんだもん、そんなの欲望に抗えなかった。
 俺は悪くない。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。

龍の逆鱗は最愛の為にある

由佐さつき
BL
転生と聞くと奇跡のようなイメージを浮かべるかもしれないが、この世界では当たり前のように行われていた。 地球から異世界へ、異世界から地球へ。望んだものが自由に転生の出来る世界で、永藤逸瑠は生きている。生きて、転生を望んで、そうして今は、元の世界で死んだ人間として生きていた。 公にされていない事実として、転生に失敗する場合もある。もしも失敗してしまった場合、元の生活に戻ることは出来ない。戸籍を消されてしまった者たちは、脱落者として息を潜めて生活することを余儀なくされた。 そんな中、逸瑠は一人の転生者と知り合う。水が溶けたような水色とも、陽かりを浴びて輝く銀色ともとれる長髪。凪いだ水面を連想させる瞳には様々な色が滲んでいて、その人とは呼べない美しさに誰もが息を飲んでしまう。 龍の国から転生してきたアイラ・セグウィーン。彼は転生に関する研究に協力するという名目で、逸瑠の暮らす寮にたびたび足を運ぶようになった。少しずつ話すうちにアイラがいかに優しく、穏やかな気性を持っているのかを知る。 逸瑠は純粋に懐いてくるアイラに、転生したいと思ったきっかけを話す。きっと気持ち悪がられると思っていた逸瑠の話に、アイラは自分もそうだと同意を示してくれた。 否定されないことが嬉しくて、逸瑠はアイラを信用するようになる。ころころと変わる表情に可愛いという感想を抱くようになるが、仲睦まじく育んでいた関係も、アイラのたった一言で崩壊を迎えてしまった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi
ファンタジー
前世は日本で超絶貧乏家庭に育った美樹は、ひょんなことから異世界で覚醒。そして姫として生まれ変わっているのを知ったけど、その国は超絶貧乏王国。 美樹は貧乏生活でのノウハウで王国を救おうと心に決めた! ※エブリスタさん版をベースに、一部少し文字を足したり引いたり直したりしています

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

ミロクの山

はち
BL
山神×人間 白い蛇の神様の伝承が残る巳禄山にやってきた人間が山神様(蛇神)に溺愛される話。短編集です。 触手と擬似排泄、出産・産卵があります。 【宗慈編】 巳禄山で遭難した槙野宗慈は雨宿りした門のような構造物の下でいつの間にか眠ってしまう。 目を覚ました宗慈はミロクという男に助けられるが……。 出産型のゆるふわなミロクさま×従順な宗慈くんのお話。 【悠真編】 大学生の三笠悠真はフィールドワークの途中、門のようなもののある場所に迷い込んだ。悠真の元に現れた男はミロクと名乗るが……。 産卵型のミロクさま×気の強い悠真くん 【ヤツハ編】 夏休みに家の手伝いで白羽神社へ掃除にやってきた大学生のヤツハは、そこで出会ったシラハという青年に惹かれる。シラハに触れられるたび、ヤツハは昂りを抑えられなくなり……。 蛇強めのシラハさま×純朴なヤツハくん。 ※pixivにも掲載中

ボクに構わないで

睡蓮
BL
病み気味の美少年、水無月真白は伯父が運営している全寮制の男子校に転入した。 あまり目立ちたくないという気持ちとは裏腹に、どんどん問題に巻き込まれてしまう。 でも、楽しかった。今までにないほどに… あいつが来るまでは… -------------------------------------------------------------------------------------- 1個目と同じく非王道学園ものです。 初心者なので結構おかしくなってしまうと思いますが…暖かく見守ってくれると嬉しいです。

処理中です...