【完結】召喚失敗された彼がしあわせになるまで

ちかこ

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「痕……?」
「……うん」

 以前少しつけてもらった痕は、怪我と一緒に遥陽に綺麗に治されてしまった。
 それがちょっと、さみしかった。いつか消えるものだとわかっているけど。
 もし……もし、向こうの世界に戻ってしまっても、夢じゃなかった証拠になるかなって。
 どうせすぐに消える。でも欲しい。ジルに想われてた証拠が欲しい。
 思い出してさみしくなると思う。でも欲しい、辛くなっても、かなしくなっても、それでも。

「ジル、あんまり痕つけないけど……だ、だめかな、その、ちょっとでいいから……」
「……嫌がるかと思ってた」
「……見えるとこは困るけど……やじゃない、ほしい」

 そうか、欲しいのか、とふと笑う声がして、首元にちりっとした熱と痛みが走る。
 前は気付かない間につけられていた。今はお願いしてつけて貰っている事実に、恥ずかしいんだけど、受け入れてもらったことが嬉しかった。

「っん、……つい、た?」
「……うん、これでいいのかな」
「見えないからわかんない」
「……他にもつける?」
「他?」
「ユキが自分で確認できるところ……こことか、こことかかな」

 そう言いながら、胸元と足の付け根に触れた。
 服の上からだというのに、期待するようにびく、と腰が揺れる。

「そ、そんなとこ、痕、つける、の」
「ここならそのまま視認出来るでしょう、他でもいいよ」

 他ってどこだ。心臓がばくばくする。
 ユキのすきなところを教えて、と言われて、答えられない。
 どこでもいい、もうどこだっていいから、全部ジルのものにしてほしい。

「どこでもいいだと困るなあ、教えてほしい」
「え、あ……」
「どこに欲しい?」
「う……く、くち……」
「口?」

 そこには痕つけられないよ、と言われて、ついむっとしてしまった。
 わかってるよ、ジルだってそんなの当然わかってる癖に意地悪だ。

「いつの間にかお強請りも上手くなってしまって」
「んう……」

 お強請りというか、今のは誘導されたと思うんだけど。
 そんなことは言い返さず、瞳を閉じる。自分から唇を開いて、ジルを受け入れた。

「ふぁ、う、ん……うぅ」

 息をするのが下手くそで、すぐに息苦しくなってしまう。
 その癖、すぐに離れられるのが嫌で、首元に腕を回す。
 それに気づいたジルは更に深く唇を重ねる。言葉がなくてもわかってもらえるのが嬉しくて、回した腕に力が入ってしまった。

「は……ンぅ、ふ、じぅ……」
「……他には?」
「んえ……?」
「してほしいこと、場所、教えて、全部してあげる」
「……え」
「ユキの言う通り、全部」
「や……」

 確かに、たまにそこはだめ次どこ、とか言っちゃうけど、全部に指示を出したい訳ではない。というか出せと言われても困る。
 しどろもどろになるおれに、ジルは笑って、意地悪だったかな、と言った。そうだよ、今のは意地悪だった。

「じ、ジルの、すきなように……」
「俺のすきにしてもいいの?」
「うん……」
「止めてって言っても止めなくても?」
「そ、それはだめ……」
「じゃあそんなこと軽々しく言っちゃだめだよ」
「……ジルにしか言わない」
「……当たり前でしょう」

 口の端を指で拭って、瞳を細める。
 その表情に堪らなくなって、ジルの肩口に額を寄せると、すぐに頭を撫でてくれた。
 ジルの顔も見たいけど、溶けきった自分のみっともない顔は見せたくない。まだキスしかしてないのに。いつもすぐこんなになってしまう。

「っう!」

 少し冷たい指先が直に肌に触れて、思わず声を出してしまう。
 一瞬、ジルの手は止まるけど、すぐにまた動き出す。
 お腹の方から上の方へ。
 背中がぞくぞくして、うう、と呻くような声が漏れる。
 何度目かの行為で、されることすることは大体わかってきた。
 わかってきたからといって慣れるものではなくて、触れられる度に反応してしまうのだけれど。

「ふ……っう、うあ……」
「ごめん、指冷たかったかな」
「……ッ、う、ら、ぃじょぶ……っく」
「唇噛まないで」
「んうう……!」

 指先で唇を少し開かされて、指を噛まされる。歯を立てる訳にもいかず、ただ咥えさせられてるだけ。
 舐めてと言われた訳ではないけど、生理的に舌でその指を押し返してしまう。
 おれが声を我慢してしまうのが悪いんだろうけど、ジルはいつもそれを気にする。
 跡がつく、血が出てる、声を出した方が楽、
 それはそうなのかもしれないけど、おれ自身からしたら自分の声が違和感あるのと、特別意識して声を噛み殺してる訳ではなかったから、こうして意識をさせられる方が、その……頭がぐつぐつしてしまう。
 漏れた唸り声と吐息がぐるぐる巡って、自分で自分を追い詰めてるみたい。

「んぐ」
「……苦しい?」
「ん、んう」
「もう噛まない?」
「んうう」
「良い子」
「ふあ」

 べたべたにしてしまった指が引き抜かれて、そのまま胸元へと運ばれた。
 その為に濡らした訳じゃない。
 べと、とした感触とあたたかさに、声にならない声が出た。

「……っ!」

 そんなとこ、気持ちよくなる予定なんてなかったのに。
 ジルのせいで、女の子みたいになってしまった。

「ぅあ……っん、う、ぅ」

 でもそれでもいい、ジルが与えてくれるものなら、おれ、どうなっても。
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