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「どうしたのハルヒは……食事は?」
「今日は帰るんだって」
「でも……」
いいのか?とジルの瞳には心配だと映っている。
残りはずっとさんにんで過ごすものだと思っていたんだろう。おれだってそう思ってた。だって遥陽もジルも選べないから。
どうなっても後悔しないように、ふたりと過ごしたかったから。
だから遥陽から引いてくれたんだと思う。それがいちばん丸く収まるから。遥陽とは日中一緒に過ごせるから。
ごめん、遥陽、ごめんね、ありがとう、そんな気を遣わせてしまうことが情けなくて恥ずかしくて、でも嬉しくもある。
ジルとふたりで過ごせるのが、初めてでもないのにどきどきする。
「……おなかすいた」
「……じゃあ食事にしようか」
「うん」
ジルの手を握って俯くおれに、ジルも遥陽の意図がわかったのか、少し……気のせいかな、照れたような声で部屋に入ろうと言う。
「寒かったろう、手が冷たい」
「んー、大丈夫、雪が降る程じゃないし……遥陽体温高いし」
「それは妬かせようとしてる?」
「えっ?あ、ちが、っうわ」
「俺は結構嫉妬深いぞ」
「し、知ってる……」
おれからしたらなんでもないいつも通りの答えだったんだけど、ジルからしたら違ったようだ。
急におれを抱えるものだからちょっと焦ったけれど、でも見下ろす顔は笑っていたからこれは冗談なのだろう。
確かに失言だ、おれのことをすきだと言う遥陽の名前を出すのはそれはだめだった。
意識してないよと言うようで、遥陽にも失礼だった。
「……おれ無神経だった、ごめん」
「謝れるユキは良い子だ」
「もう、子供扱いする」
「子供だと思ってたらこんなことはしない」
「!」
ちゅっと一回唇を重ねて、おれを下ろすと、頬を撫でて愛しそうに瞳を細める。
こんなんじゃ足りない、と言いそうになってしまって、でもそれを遮るように、アンヌが待ってる、と背を押された。
……どうしよう、おれ、いつの間にか大分その、欲望を抑えられなくなってしまったみたい。
◇◇◇
遥陽とさんにんで寝たのは昨日だけだというのに、静かな部屋は何故か久しぶりな気がした。一日しか空けていないのに。
別にやらしいことをすると話してない、決めてない。
それなのにこんなにどきどきするなんてやっぱりおれは随分おかしくなってしまったようだ。
だって、多分、これで最後。
魔女から逃れられたらいいけど、失敗して帰らせられてしまったら、もう、ジルとくっつくことは出来ない。
最後になんてしたくないけど、でも後から今日やっとけば良かった!なんてなったら困るから、だからそのつもりで、お風呂でだってごしごしからだを洗ってしまった。
お陰でちょっと紅くなってしまっている。
「ユキ」
「……!」
ベッドが軋む。
もう何回ジルと、躰を重ねたか。それなのにまだ慣れない。
びく、と竦んでしまい、その躰をジルは抱き締めて、それから耳元で、俺に話したいことがあるんでしょう、と言う。
「ん、え……え?えっと、え……す、すき……?」
「あ、そっち?いや、嬉しいけど……うん、俺もユキのことすきだよ」
「えっ、ちが……え?話したい、こと……え?」
空気的にこれかと思ったんだけど。え、違うの?え、恥ずかしい、こんなことばっかり考えててって思われちゃう、こんなことばっかり考えてるんだけど。
仕方ないじゃん、ベッドにふたりで並んだらそんなことしか頭に浮かんでこないんだもん。
「魔女のことで訊きたいことあるのかと」
「あ、ある、けどお……」
やらしいことする前に母親の話とか大丈夫?萎えない?あ、余計なお世話か。
やらしいことしたらおれの体力が持たなくて落ちちゃうから、その前に済ませておこうってことかな?
いや単純に気になるから、かな。
「えっと……あの、気にさせてしまったらごめん、なんだけど」
「うん?」
「……ジルは、ロザリー様の夢、見る?」
「……最近は見ない、かな」
「子供の頃は見てた?」
「……まあ」
最近は見ないということにショックを受けつつ、でも子供の頃は見てたことには少し安堵した。
全く見たことないと言われたら、おれの夢には出ます!なんて言えないところだった。
「どんな夢?」
「普通だよ」
「教えて」
横になったジルの腕に頭を乗っけて、御伽噺を強請る子供のようにお願いをする。面白くないと思うけど、とジルは口を開いた。
こっちにおいでと優しくされる夢、何度呼んでも振り返って貰えない夢、一緒にいたのに気が付いたら他のひとになっていた夢。
どれもまあよくあるといえばよくあるもので、声は聞こえていたか訊くと、首を傾げて、聞こえていたよ、と言う。
ということは、ロザリー様側の問題ではなく、おれの問題なのかもしれない。
「他には?」
「他に?ううん……ない、かな。普通のものだと思うよ、幼い時の恋しさから見る夢ってだけで」
少し考えて首を振る。
おれのものとは違う。
おれにはロザリー様に特に思い入れはない訳で、だから……
「……ユキも夢を見るの?」
「え、あ、う……」
逆に問われて、動揺してしまった。
「今日は帰るんだって」
「でも……」
いいのか?とジルの瞳には心配だと映っている。
残りはずっとさんにんで過ごすものだと思っていたんだろう。おれだってそう思ってた。だって遥陽もジルも選べないから。
どうなっても後悔しないように、ふたりと過ごしたかったから。
だから遥陽から引いてくれたんだと思う。それがいちばん丸く収まるから。遥陽とは日中一緒に過ごせるから。
ごめん、遥陽、ごめんね、ありがとう、そんな気を遣わせてしまうことが情けなくて恥ずかしくて、でも嬉しくもある。
ジルとふたりで過ごせるのが、初めてでもないのにどきどきする。
「……おなかすいた」
「……じゃあ食事にしようか」
「うん」
ジルの手を握って俯くおれに、ジルも遥陽の意図がわかったのか、少し……気のせいかな、照れたような声で部屋に入ろうと言う。
「寒かったろう、手が冷たい」
「んー、大丈夫、雪が降る程じゃないし……遥陽体温高いし」
「それは妬かせようとしてる?」
「えっ?あ、ちが、っうわ」
「俺は結構嫉妬深いぞ」
「し、知ってる……」
おれからしたらなんでもないいつも通りの答えだったんだけど、ジルからしたら違ったようだ。
急におれを抱えるものだからちょっと焦ったけれど、でも見下ろす顔は笑っていたからこれは冗談なのだろう。
確かに失言だ、おれのことをすきだと言う遥陽の名前を出すのはそれはだめだった。
意識してないよと言うようで、遥陽にも失礼だった。
「……おれ無神経だった、ごめん」
「謝れるユキは良い子だ」
「もう、子供扱いする」
「子供だと思ってたらこんなことはしない」
「!」
ちゅっと一回唇を重ねて、おれを下ろすと、頬を撫でて愛しそうに瞳を細める。
こんなんじゃ足りない、と言いそうになってしまって、でもそれを遮るように、アンヌが待ってる、と背を押された。
……どうしよう、おれ、いつの間にか大分その、欲望を抑えられなくなってしまったみたい。
◇◇◇
遥陽とさんにんで寝たのは昨日だけだというのに、静かな部屋は何故か久しぶりな気がした。一日しか空けていないのに。
別にやらしいことをすると話してない、決めてない。
それなのにこんなにどきどきするなんてやっぱりおれは随分おかしくなってしまったようだ。
だって、多分、これで最後。
魔女から逃れられたらいいけど、失敗して帰らせられてしまったら、もう、ジルとくっつくことは出来ない。
最後になんてしたくないけど、でも後から今日やっとけば良かった!なんてなったら困るから、だからそのつもりで、お風呂でだってごしごしからだを洗ってしまった。
お陰でちょっと紅くなってしまっている。
「ユキ」
「……!」
ベッドが軋む。
もう何回ジルと、躰を重ねたか。それなのにまだ慣れない。
びく、と竦んでしまい、その躰をジルは抱き締めて、それから耳元で、俺に話したいことがあるんでしょう、と言う。
「ん、え……え?えっと、え……す、すき……?」
「あ、そっち?いや、嬉しいけど……うん、俺もユキのことすきだよ」
「えっ、ちが……え?話したい、こと……え?」
空気的にこれかと思ったんだけど。え、違うの?え、恥ずかしい、こんなことばっかり考えててって思われちゃう、こんなことばっかり考えてるんだけど。
仕方ないじゃん、ベッドにふたりで並んだらそんなことしか頭に浮かんでこないんだもん。
「魔女のことで訊きたいことあるのかと」
「あ、ある、けどお……」
やらしいことする前に母親の話とか大丈夫?萎えない?あ、余計なお世話か。
やらしいことしたらおれの体力が持たなくて落ちちゃうから、その前に済ませておこうってことかな?
いや単純に気になるから、かな。
「えっと……あの、気にさせてしまったらごめん、なんだけど」
「うん?」
「……ジルは、ロザリー様の夢、見る?」
「……最近は見ない、かな」
「子供の頃は見てた?」
「……まあ」
最近は見ないということにショックを受けつつ、でも子供の頃は見てたことには少し安堵した。
全く見たことないと言われたら、おれの夢には出ます!なんて言えないところだった。
「どんな夢?」
「普通だよ」
「教えて」
横になったジルの腕に頭を乗っけて、御伽噺を強請る子供のようにお願いをする。面白くないと思うけど、とジルは口を開いた。
こっちにおいでと優しくされる夢、何度呼んでも振り返って貰えない夢、一緒にいたのに気が付いたら他のひとになっていた夢。
どれもまあよくあるといえばよくあるもので、声は聞こえていたか訊くと、首を傾げて、聞こえていたよ、と言う。
ということは、ロザリー様側の問題ではなく、おれの問題なのかもしれない。
「他には?」
「他に?ううん……ない、かな。普通のものだと思うよ、幼い時の恋しさから見る夢ってだけで」
少し考えて首を振る。
おれのものとは違う。
おれにはロザリー様に特に思い入れはない訳で、だから……
「……ユキも夢を見るの?」
「え、あ、う……」
逆に問われて、動揺してしまった。
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