131 / 161
131
しおりを挟む
ユキは強い子だね、と呟いて、ジルがまた近付いた瞬間だった。
ううん、と真横で遥陽の伸びる声がした。
慌ててジルから少し距離をとる。ベッドの上じゃそんなに離れられないんだけど。
まだどきどきしてるから、遥陽からは顔を逸らしたまま。
……まだ起きないでほしい。多分おれ、まだ紅いと思う。
遥陽にそんな顔を見られるのが恥ずかしいって気持ちと、その、こんなことしといてなんだけど、一応はその、振った相手の前で他のひとといちゃいちゃするなんて酷いことしちゃだめだってことくらいわかってるっていうか。
ふたりとも、敢えてふざけてくれてるところもあるんだと思う。
有難いけど、完全にそれに乗っかる訳にもいかない。
おれだって気を遣わない訳にはいかないんだ。
ずるいけど、ふたりには最低な奴って思われたくないんだもん。
きらわれたくないし……好意を持ってもらいたい、ずっとすきでいてもらいたい。
「ジル……えと、ジルは?どうする?……暫く空けてたし、仕事、溜まってるよね」
「……そうだね、ユキと一緒にいたいけど」
「城内だし大丈夫だよ」
「何かあったらすぐ連絡して」
「う、うん」
ぎし、と動いたジルが、唇ぎりぎりの口許にまたキスをして、頭を撫でた。
その動きで、遥陽が仔猫のようにもぞもぞと動き、むにゃむにゃとおれの名前を呼びながら頭を上げる。
慌てておはようと遥陽に向かうおれのすぐ後ろで、ジルの笑う声がした。
◇◇◇
「買い過ぎじゃない?」
「おれもそう思う……」
キャロルへのお土産の箱を見て、げんなりしたように遥陽が言う。
その気持ちはおれならわかる。
お土産の量じゃないよな……でも色々プレゼントしたくなる気持ちもわかる。
あの無邪気な笑顔に、嬉しいありがとうと言わせたいのだ。
「女の子だしね……服はいっぱい買ってあげたくなるよね……」
「あれくらいの子なんてすぐ着れなくなっちゃうだろーに」
「おれたちの感覚とは違うんだよ……」
「お金の感覚ほんっと慣れない」
モーリスさんが運んでくれても尚持ちきれない箱をおれと遥陽も抱えながら廊下を歩く。
そういえばおれへのお土産もすごい量だったんだよな、とまだ数ヶ月しか経ってないのに懐かしさを感じてしまう。
思い出し笑いをするおれを怪訝そうに見ながら、遥陽も、昨日貰ったお土産、僕もだいじにするね、と照れたように笑う。
昨日はすぐに話をしちゃったから、遥陽に中身を見てもらうまではしてないんだよな、似合うだろうなと思って選んだから、そこまで確認すれば良かった。
こっちの方はそこまで雪とか降らないっていうから選んだ薄手のコート。でもふわふわの白いファーが遥陽に似合うだろうなって思って。
……着てくれたら嬉しい。そして出来ればそれを見たい。
「いらっしゃい!」
扉を開けて貰うと、キャロルの鈴のようなかわいらしい声が響く。
おれたちの顔と両手に抱える箱を見て、ぱあっと顔を輝かせた。
箱を開けては小さな躰に運び、かわいい?にあう?と訊いてくる。
かわいいに決まってる。
頷くとくるくると回って喜びを表現する幼い女の子に、皆揃って目尻を下げてしまう。
「ゆき、いっぱいふるんでしょう?きれいだった?」
「……うん、綺麗だったよ」
「キャロもげんきになったらみてみたいなあ」
怖いくらい綺麗で静かな昏い世界を思い出して、少し足が震えた気がした。
すぐに持ち直して、なんでもない話をしていると、お祭りは楽しかったか訊かれる。
……こんなことがあったから、お祭りなんて見ずに帰ってきた。
でもそんなことキャロルには言い辛くて、でも良かったよと嘘も言えなくて、ジルの仕事が忙しくてすぐに帰ってきたと変な嘘を吐いてしまった。
ジルにいさまおいそがしいのね、と心配そうに言うキャロルにちょっと罪悪感。
本当のことはこんな小さな子には言えなかった。もしかしたらもう最後かもしれないなんて。
「ジルにいさまいそがしいと、ユキにいさまもさみしいでしょう?」
「えっ、あ、うん、そうだね」
「さみしかったらキャロのとこきてもいいのよ」
「……うん、ありがと」
おれの頭を撫でながら言うキャロルに泣きそうになってしまう。
お兄ちゃんの真似のつもりなんだろうな。ちょっと似てる。
「……ユキにいさまも、ハルヒにいさまもげんきがないの、キャロにもなにかできたらいいのに」
ぷくぷくとした小さな手がおれの手を掴む。
普通にしてるつもりでも、わかってしまうことなんだろうか。
情けないな、キャロルよりもずっとお兄さんなのに。
「キャロルはそのままで大丈夫だよ」
「でも」
「キャロルがキャロルなのがいちばん元気出る!」
「ほんとお」
「ほんとほんと!」
ぷくっと膨らませた柔らかいほっぺたを両手で挟む。小さくてあったかくてさらさらしていて気持ちいい。
キャロルにはまたお菓子を作る約束や、別館に来る約束が残っている。
庭を見せると、シャノン様から逃げてきていいと。
だからその約束を守らなきゃ。
約束は増える程ここに縛ってくれる気がする。
ううん、と真横で遥陽の伸びる声がした。
慌ててジルから少し距離をとる。ベッドの上じゃそんなに離れられないんだけど。
まだどきどきしてるから、遥陽からは顔を逸らしたまま。
……まだ起きないでほしい。多分おれ、まだ紅いと思う。
遥陽にそんな顔を見られるのが恥ずかしいって気持ちと、その、こんなことしといてなんだけど、一応はその、振った相手の前で他のひとといちゃいちゃするなんて酷いことしちゃだめだってことくらいわかってるっていうか。
ふたりとも、敢えてふざけてくれてるところもあるんだと思う。
有難いけど、完全にそれに乗っかる訳にもいかない。
おれだって気を遣わない訳にはいかないんだ。
ずるいけど、ふたりには最低な奴って思われたくないんだもん。
きらわれたくないし……好意を持ってもらいたい、ずっとすきでいてもらいたい。
「ジル……えと、ジルは?どうする?……暫く空けてたし、仕事、溜まってるよね」
「……そうだね、ユキと一緒にいたいけど」
「城内だし大丈夫だよ」
「何かあったらすぐ連絡して」
「う、うん」
ぎし、と動いたジルが、唇ぎりぎりの口許にまたキスをして、頭を撫でた。
その動きで、遥陽が仔猫のようにもぞもぞと動き、むにゃむにゃとおれの名前を呼びながら頭を上げる。
慌てておはようと遥陽に向かうおれのすぐ後ろで、ジルの笑う声がした。
◇◇◇
「買い過ぎじゃない?」
「おれもそう思う……」
キャロルへのお土産の箱を見て、げんなりしたように遥陽が言う。
その気持ちはおれならわかる。
お土産の量じゃないよな……でも色々プレゼントしたくなる気持ちもわかる。
あの無邪気な笑顔に、嬉しいありがとうと言わせたいのだ。
「女の子だしね……服はいっぱい買ってあげたくなるよね……」
「あれくらいの子なんてすぐ着れなくなっちゃうだろーに」
「おれたちの感覚とは違うんだよ……」
「お金の感覚ほんっと慣れない」
モーリスさんが運んでくれても尚持ちきれない箱をおれと遥陽も抱えながら廊下を歩く。
そういえばおれへのお土産もすごい量だったんだよな、とまだ数ヶ月しか経ってないのに懐かしさを感じてしまう。
思い出し笑いをするおれを怪訝そうに見ながら、遥陽も、昨日貰ったお土産、僕もだいじにするね、と照れたように笑う。
昨日はすぐに話をしちゃったから、遥陽に中身を見てもらうまではしてないんだよな、似合うだろうなと思って選んだから、そこまで確認すれば良かった。
こっちの方はそこまで雪とか降らないっていうから選んだ薄手のコート。でもふわふわの白いファーが遥陽に似合うだろうなって思って。
……着てくれたら嬉しい。そして出来ればそれを見たい。
「いらっしゃい!」
扉を開けて貰うと、キャロルの鈴のようなかわいらしい声が響く。
おれたちの顔と両手に抱える箱を見て、ぱあっと顔を輝かせた。
箱を開けては小さな躰に運び、かわいい?にあう?と訊いてくる。
かわいいに決まってる。
頷くとくるくると回って喜びを表現する幼い女の子に、皆揃って目尻を下げてしまう。
「ゆき、いっぱいふるんでしょう?きれいだった?」
「……うん、綺麗だったよ」
「キャロもげんきになったらみてみたいなあ」
怖いくらい綺麗で静かな昏い世界を思い出して、少し足が震えた気がした。
すぐに持ち直して、なんでもない話をしていると、お祭りは楽しかったか訊かれる。
……こんなことがあったから、お祭りなんて見ずに帰ってきた。
でもそんなことキャロルには言い辛くて、でも良かったよと嘘も言えなくて、ジルの仕事が忙しくてすぐに帰ってきたと変な嘘を吐いてしまった。
ジルにいさまおいそがしいのね、と心配そうに言うキャロルにちょっと罪悪感。
本当のことはこんな小さな子には言えなかった。もしかしたらもう最後かもしれないなんて。
「ジルにいさまいそがしいと、ユキにいさまもさみしいでしょう?」
「えっ、あ、うん、そうだね」
「さみしかったらキャロのとこきてもいいのよ」
「……うん、ありがと」
おれの頭を撫でながら言うキャロルに泣きそうになってしまう。
お兄ちゃんの真似のつもりなんだろうな。ちょっと似てる。
「……ユキにいさまも、ハルヒにいさまもげんきがないの、キャロにもなにかできたらいいのに」
ぷくぷくとした小さな手がおれの手を掴む。
普通にしてるつもりでも、わかってしまうことなんだろうか。
情けないな、キャロルよりもずっとお兄さんなのに。
「キャロルはそのままで大丈夫だよ」
「でも」
「キャロルがキャロルなのがいちばん元気出る!」
「ほんとお」
「ほんとほんと!」
ぷくっと膨らませた柔らかいほっぺたを両手で挟む。小さくてあったかくてさらさらしていて気持ちいい。
キャロルにはまたお菓子を作る約束や、別館に来る約束が残っている。
庭を見せると、シャノン様から逃げてきていいと。
だからその約束を守らなきゃ。
約束は増える程ここに縛ってくれる気がする。
61
お気に入りに追加
3,564
あなたにおすすめの小説
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います
雪
BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生!
しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!?
モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....?
ゆっくり更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる