【完結】召喚失敗された彼がしあわせになるまで

ちかこ

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 それなのに、遥陽までおれは向こうに帰るべきだと言う。
 ……皆優し過ぎる。
 もっと、おれみたいに、さみしいって心の中を見せてくれたらいいのに。おれのことばっかり。
 おれなんか周りに迷惑掛けてもわかりやすく拗ねたっていうのに。
 残す側だって、残される側だって辛いのは一緒じゃないか。

「だって、僕が手を伸ばさなければ……ゆ、優希はこっちに来ることなかっ、たし……!」
「前も話したじゃん!遥陽の手を掴んだのはおれだし、おれはそれを後悔してない、遥陽がいて良かったし、遥陽をひとりにしないで良かったって思ってるんだよ」
「でも……でも!」
「でもじゃないよ、遥陽はおれがいない方が良かったの」
「そんな訳ないじゃん……ばかあ」
「遥陽だってそんな良い子ぶっちゃってさ、ばかじゃんかあ……良い子だけどぉ」

 ふたりしてぼろぼろ泣きながら抱き合う。
 楽しいことも嬉しいことも、いやなこともたくさんたくさんあった。
 こっちに残ったって、未来がどうなるかなんてわからない。
 魔女に何されるかわからないし、そんなのは関係なしに死んじゃったりするかもしれない。
 それでも、おれは遥陽とジルの手を取ることを選んだ。
 それが叶えられるかはわからない、こんなに泣いて、結局おれだけ戻されるのかもしれない。
 それでもおれは、最後までふたりの手を取って魔女に対抗したい。
 魔女の気まぐれに賭けて。


 ◇◇◇

「泊まっていいっていったのにふたりじゃないの……」

 むす、と不満そうに口にする遥陽に、こんな時でも油断はしないぞ、とジルは返し、それにまた大人気なーい、と遥陽が煽り返す。
 ……あれ、いつの間にかベッドの上が修羅場だ。
 唇を尖らせておれの手を引く遥陽と、真顔でおれを胸に抱こうとするジル。
 広過ぎるベッドは三人で横になってもまだまだ余裕である。
 余裕ではあるんだけど。
 ……うーん、この三人で寝るのは。
 気まずいし、おれはどんな顔でここに居れば……

「僕の方がずっと優希と居るんだから!」
「一緒に居た時間は関係ないだろう、ユキのことをすいてる男とふたりきりで寝させる訳にはいかないよ」
「もう寝たし!」
「あの頃とは状況が違う」

 うううん、そ、そうなんだけど。
 遥陽がおれのことが恋愛対象だと言うのなら、この状況でおれとふたりで寝させるのは普通にだめだと思う、浮気じゃんね、って、おれだって思う。
 でも遥陽は本当に本当にだいじで、ともだちで親友で幼馴染で、きょうだいみたいなもので、大切で、ぎりぎりまで一緒に居たいとも思う相手でもある。
 もう二度と会えなくなるかもしれない、だからこそぎりぎりまで一緒に居たいふたり。
 そうなんだけど。
 間に挟まれるの、有難いけどもちょっと心臓が。

「優希のことをいちばん知ってるのは僕だし」
「ハルヒが知らないユキを俺だって知ってる」
「優希のファーストキスは僕だし!」
「ふぁっ」
「俺だってユキの初めてを」
「ぎゃっ、やめてやめてやめて!ふたりともななな何言ってんの!」
「だって!マウント取ってくんだもん!」
「ハルヒは強かだぞ、俺にはわかる」

 ヒートアップしていくふたりを止める。
 なんで遥陽はおれがあれがファーストキスだって知ってんだ、いや、ずっと一緒に居たんだから付き合ってたひととか居ないの知ってるけど。
 それにやり返すように更にとんでもないことを言おうとするジル。
 ばれてるとはいえ、なんちゅーことを言おうとしてんの!
 そ、そんなこと、ともだちに話されるのは恥ずかしいに決まってるじゃないか。
 恥ずかしいし、一応その、おれが振ったような感じになってるのに、そんな、遥陽を傷付けるようなこと。
 ……ジルを煽ってるのも遥陽なんだけど、いやでも遥陽が強かなんてそんなこと、こんなに天使のような遥陽が。
 いや思い返せば結構この顔でおれをある意味従わせてきてはいるんだけど。
 でも命令されてきた訳ではないし。おれがしてあげたかったっていうか。

「えーん、やっぱりジルに盗られんのやだ!」
「あっまた油断も隙もない!」
「うぐ……」

 甘えるように抱き着いてくる遥陽と、むきになって遥陽を引き剥がそうとするジル。
 コントのようで、あれ、ふたりってこんなキャラだったっけ。

「もう!仲良くしないとおれソファで寝るから!」
「やだ!」
「それじゃユキがゆっくり寝れないだろう」
「じゃあもうふたりとも大人しくして!」
「顔真っ赤にしてても優希かわいい」
「ユキはいつもかわいいぞ」
「知ってますう~、ちっさい頃から優希はめちゃくちゃかわいかったんだからね!」
「ほう」
「キャロルくらい小さかった時はキャロルよりも舌っ足らずでえ、」
「今でもたまに回らない時があるな」
「それなのに僕にはお兄さんぶるのがかわいくてかわいくて」
「口も舌も小さいからな」
「やめ……やめて……」

 会話になってるんだかなってないんだか、喧嘩を売り買いしてなくてもこんなになっちゃうの、居た堪れないんですけど。
 おれを挟んでする会話じゃなくない?
 だからおれはどういう顔でここに居れば……
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