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その晩も当然のようにジルはおれのベッドに入ってきた。
いつものベッドが比べ物にならないくらいでかいせいで、普通なら充分過ぎる程のベッドでさえ狭く感じてしまう。
まあふたり並んで寝るなんて考えてもないだろう。
おれはまあ大丈夫だけど、生粋の王族であるジルには寝苦しいんじゃないかと確認してみれば、ユキを抱き締める言い訳が出来て嬉しい、なんぞ返される。甘過ぎて甘過ぎておれはもうどうしたらいい、砂糖菓子でも作ればいい?
「どうだった?今日は上手くできた?」
「出来た……と思う、けど」
「けど?」
「やっぱりコントロール、てか、気を失っちゃうのがなあ、そこはもうどうしようもないのかなあ」
魔力を回復するのにいちばん効果的なのは眠ること。
そのタイプがいちばん多いという。
食事、というか栄養で補うタイプもいるし、少しこわい話だと、寿命が縮むタイプもあるとのこと。
だから寝るだけのおれはまだましだと思うんだけど、それにしてもころっと気を失うのはどうにも困ってしまう。
だからこそジルたちがいる時にしかこの力を使わないよう言われているんだろうけど。
「そうだ、おれ、わかりやすくなったらいいなと思って、遥陽みたいに目に見えたらいいなって思って真似してみたんだけど、それが上手く出来たんだよ!」
「ああ、言っていたね」
「ジルにも見えた?綺麗だったでしょ?」
「綺麗?」
「ジルの瞳の色と一緒だったでしょ」
「……俺の?」
「うん、この色が世界を包んだら優しくなるんじゃないかなって思って」
すごい殺し文句だね、とジルが呟いて、おでこに唇を寄せた。
殺し文句?と自分の言葉を思い出して、確かに小っ恥ずかしいことを言ったと自覚してしまう。
これはその、眠いのと空気に当てられてだ、だめだ、頭がぽやぽやしていて、余計なことを言ってしまうんだ。
「わ、忘れて……」
「忘れないよ、ユキから貰ったものは全部」
「ひぇ……」
一歩間違えたら恐ろしい台詞なんだけど、この整った顔と甘い声で許されてるところがある。
くっそー、イケメンずるい。簡単に満点を超えてくる。
「ありがとう」
「……?」
「疲れたでしょう、ゆっくり寝て」
お礼を言うのはおれの方だ。
でもその言葉を言わせないように、瞼にあたたかいものが覆う。ジルの手のひらだ。
子供騙しのような寝かしつけに、それでもおれの意識は簡単に沈む。
この体温にはもう慣れた。
◇◇◇
翌日は街のお偉いさんからまた小さな子たちまで揃って送迎をされてしまう。
皆にこにこしていて、少し不思議な感覚だった。
今まで限られたひとの前でしかこの力を使ってなかったから、昨夜の神様発言も相まって、おれのことが認められたような、擽ったい気持ちと、たいしたことはしてないのにって少し逃げたくなる気持ちと。
ここに来ていちばん得たものは、力の使い方より、覚悟の方なのかもしれない。
「あの」
「はい」
「セルジュさんはこのまま帰っちゃうんですか?」
「ええ」
「じゃああの、ちょっと、話とか……出来ませんか、また暫く会えないだろうし」
セルジュさんはちらりとジルを見て、それからまたおれに向き直り、良いですよ、と微笑んだ。
相変わらず美人の笑顔は破壊力がすごい。いや今はそんな話ではない。
取り敢えず一旦馬車に乗り込み、走らないまま話だけさせてもらうことにした。
当然というか、ジルも一緒に乗り込むものだから、恐れていた顔面偏差値激高空間になってしまった。
前を見ても横を見ても、外を見ても窓に映る美形に目がやられそうだ。
おれが望んだこととはいえちょっとやりづらい。
「話とはなんでしょうか」
「えっと、あの、セルジュさんなら知ってるかなって……その」
「はい」
「呪い、のことなんだけど……」
「キャロル様の?」
「キャロル……っていうか、うん、それも、だけど……根本的っていうか」
「解きたいのですか?」
「……そりゃ、出来たら」
「無理だと思います」
きっぱりと言われてしまった。
そんなはっきり……
「何十代も続いてきたものです、恐らくもう」
呪いを掛けた人物は亡くなってる。
解呪する方法がない。
だからこそ神子様を召喚しているのだと。
「そもそもなんで呪われてるんですか」
「まだ聞かれてなかったので?」
「……ジル知ってたの?」
気まずそうに顔を背ける。
どうやら知ってるようだ。
「ジル」
「……セルジュより詳しくはない、御伽噺のようなものだとしか」
「教えてよ」
すぐ隣のジルの膝に手を置き、ぐいと頭を寄せる。
顔は見ない。そっちの方が話しやすいかと思って。
「……知っている範囲だよ」
前置きをしてジルが口を開く。
内容としてはまあその、呪われてる王族自らは言いたくはないだろう最低の御伽噺だった。
ある国に魔女がいた、空を飛び、不思議な力を使い、人を癒す力を持った綺麗な女性だった。
王様は彼女が欲しかった。彼女の力も欲しかった。
どうにかこうにか彼女を娶り、子を成した。
子に彼女の血が力が流れても王様は満足しなかった。
もっともっと強い力を。
魔女の使い魔の猫を殺した。何匹も何匹も。新しい使い魔も、その度に。
彼女の力は段々と弱まり、それでも望む力を持った子が生まれるまで何人も子を産ませ、それが愛ではないと知った魔女に激怒され、哀しまれ、最終的にはその魔女をも殺してしまう。
そんな、御伽噺として伝えるには最低の物語。
そして王族だけが魔力を持つ理由でもあった。
いつものベッドが比べ物にならないくらいでかいせいで、普通なら充分過ぎる程のベッドでさえ狭く感じてしまう。
まあふたり並んで寝るなんて考えてもないだろう。
おれはまあ大丈夫だけど、生粋の王族であるジルには寝苦しいんじゃないかと確認してみれば、ユキを抱き締める言い訳が出来て嬉しい、なんぞ返される。甘過ぎて甘過ぎておれはもうどうしたらいい、砂糖菓子でも作ればいい?
「どうだった?今日は上手くできた?」
「出来た……と思う、けど」
「けど?」
「やっぱりコントロール、てか、気を失っちゃうのがなあ、そこはもうどうしようもないのかなあ」
魔力を回復するのにいちばん効果的なのは眠ること。
そのタイプがいちばん多いという。
食事、というか栄養で補うタイプもいるし、少しこわい話だと、寿命が縮むタイプもあるとのこと。
だから寝るだけのおれはまだましだと思うんだけど、それにしてもころっと気を失うのはどうにも困ってしまう。
だからこそジルたちがいる時にしかこの力を使わないよう言われているんだろうけど。
「そうだ、おれ、わかりやすくなったらいいなと思って、遥陽みたいに目に見えたらいいなって思って真似してみたんだけど、それが上手く出来たんだよ!」
「ああ、言っていたね」
「ジルにも見えた?綺麗だったでしょ?」
「綺麗?」
「ジルの瞳の色と一緒だったでしょ」
「……俺の?」
「うん、この色が世界を包んだら優しくなるんじゃないかなって思って」
すごい殺し文句だね、とジルが呟いて、おでこに唇を寄せた。
殺し文句?と自分の言葉を思い出して、確かに小っ恥ずかしいことを言ったと自覚してしまう。
これはその、眠いのと空気に当てられてだ、だめだ、頭がぽやぽやしていて、余計なことを言ってしまうんだ。
「わ、忘れて……」
「忘れないよ、ユキから貰ったものは全部」
「ひぇ……」
一歩間違えたら恐ろしい台詞なんだけど、この整った顔と甘い声で許されてるところがある。
くっそー、イケメンずるい。簡単に満点を超えてくる。
「ありがとう」
「……?」
「疲れたでしょう、ゆっくり寝て」
お礼を言うのはおれの方だ。
でもその言葉を言わせないように、瞼にあたたかいものが覆う。ジルの手のひらだ。
子供騙しのような寝かしつけに、それでもおれの意識は簡単に沈む。
この体温にはもう慣れた。
◇◇◇
翌日は街のお偉いさんからまた小さな子たちまで揃って送迎をされてしまう。
皆にこにこしていて、少し不思議な感覚だった。
今まで限られたひとの前でしかこの力を使ってなかったから、昨夜の神様発言も相まって、おれのことが認められたような、擽ったい気持ちと、たいしたことはしてないのにって少し逃げたくなる気持ちと。
ここに来ていちばん得たものは、力の使い方より、覚悟の方なのかもしれない。
「あの」
「はい」
「セルジュさんはこのまま帰っちゃうんですか?」
「ええ」
「じゃああの、ちょっと、話とか……出来ませんか、また暫く会えないだろうし」
セルジュさんはちらりとジルを見て、それからまたおれに向き直り、良いですよ、と微笑んだ。
相変わらず美人の笑顔は破壊力がすごい。いや今はそんな話ではない。
取り敢えず一旦馬車に乗り込み、走らないまま話だけさせてもらうことにした。
当然というか、ジルも一緒に乗り込むものだから、恐れていた顔面偏差値激高空間になってしまった。
前を見ても横を見ても、外を見ても窓に映る美形に目がやられそうだ。
おれが望んだこととはいえちょっとやりづらい。
「話とはなんでしょうか」
「えっと、あの、セルジュさんなら知ってるかなって……その」
「はい」
「呪い、のことなんだけど……」
「キャロル様の?」
「キャロル……っていうか、うん、それも、だけど……根本的っていうか」
「解きたいのですか?」
「……そりゃ、出来たら」
「無理だと思います」
きっぱりと言われてしまった。
そんなはっきり……
「何十代も続いてきたものです、恐らくもう」
呪いを掛けた人物は亡くなってる。
解呪する方法がない。
だからこそ神子様を召喚しているのだと。
「そもそもなんで呪われてるんですか」
「まだ聞かれてなかったので?」
「……ジル知ってたの?」
気まずそうに顔を背ける。
どうやら知ってるようだ。
「ジル」
「……セルジュより詳しくはない、御伽噺のようなものだとしか」
「教えてよ」
すぐ隣のジルの膝に手を置き、ぐいと頭を寄せる。
顔は見ない。そっちの方が話しやすいかと思って。
「……知っている範囲だよ」
前置きをしてジルが口を開く。
内容としてはまあその、呪われてる王族自らは言いたくはないだろう最低の御伽噺だった。
ある国に魔女がいた、空を飛び、不思議な力を使い、人を癒す力を持った綺麗な女性だった。
王様は彼女が欲しかった。彼女の力も欲しかった。
どうにかこうにか彼女を娶り、子を成した。
子に彼女の血が力が流れても王様は満足しなかった。
もっともっと強い力を。
魔女の使い魔の猫を殺した。何匹も何匹も。新しい使い魔も、その度に。
彼女の力は段々と弱まり、それでも望む力を持った子が生まれるまで何人も子を産ませ、それが愛ではないと知った魔女に激怒され、哀しまれ、最終的にはその魔女をも殺してしまう。
そんな、御伽噺として伝えるには最低の物語。
そして王族だけが魔力を持つ理由でもあった。
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