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おれって恵まれてるなあ……
そう思ってしまった。
最初はこわかったのに、全てにびびっていたのに、関わるひとが皆優しい。
シャノン様も、何だかんだ泣き腫らした顔のおれを気にしてくれてたんだろう。
何かあったらまたここに来なさい、とおれに大量の瓶を持たせて帰される。
帰路で、ジルに変な香油を持たせるなと文句を言うのを忘れていたことを思い出してしまった。
少し離れたところでまたしても待たされていたモーリスさんがおれの腕の中の瓶を見て苦笑する。
全くシャノン様は、と言いながら半分持ってくれた。
「相変わらずですね、シャノン様は」
「なんかおれ慣れてきたかも、結構はっきり言うから困ることもあるけど助かるっていうか……こういうのを作るのがシャノン様の魔法?」
「のようですね、あの方は幼少期からこういうことばかりで」
「魔法なのに科学みたい、すごいね、今度作ってるとこも見てみたいや」
ただこれ見た目と味どうにかならないのかな。
飲むのを躊躇うようなすごい色してるし、味だって自分でまずいって言ってたし。香油は透明でいいかおりだったのに。
効能しか興味無いんだろうか。
「……モーリスさんは知ってるんだよね?ジルの魔法」
「まあそれは……一応」
「ねえ、ジルって大丈夫なの?」
「……?何がですか?」
「いや、花を綺麗に咲かせます~!って魔法で大丈夫なの?おれてっきり、火を出したりとか攻撃性のある魔法だと思ってたよ、平和過ぎない?」
「そんな」
モーリスさんはくつくつと笑って、それは確かに平和ですねと言う。
それから、心配しなくても大丈夫ですよ、とも。
「花を咲かせるだけが魔法じゃないですからね……ふっ……っくく」
「そんな笑わなくても」
「いや、まるで庭師みたいだと思って……」
「……ジルに言わないでよね」
「まあでも同じようなものですかね」
どうやら、おれが美味しいと言った果物なんかを積極的に作らせようとしたりもしてるらしい。
ジルのことだし、おれの為にとか言って庭にでも植えそうだとも思ったけど、それぞれの地方の特産物にもなる訳で、そんなあほみたいな魔法の使い方はしないようだ。まあ仮にも王太子が私欲でそんなことはしないか。
その土地々々で作られるからこそ美味しい訳で。売りにもなる訳で。
だからこそあの庭は特別だ。
花の種類とか関係なく、綺麗な花々がずうっと咲いてる庭。
ジルがロザリー様の為に作った庭。
本人のいない今となってはもう、ロザリー様の想いは全てわかることは出来ない。
でも、そんな庭の近くで最期を迎えられたのは母親としてしあわせだったんじゃないかなとは思う。
あの庭はロザリー様のものだ。
そこに対して文句や嫉妬はない。
ジルがおれの為に用意した庭じゃなくても、それでいい。
幼いジルが母親の為に作った庭に立ち入らせて貰えるだけでいい。
それでいい。
おれは元気だし、特別花がすきだって訳でもないし、そんな、子供がお母さんに用意したものに対してやきもきする程嫉妬深い男ではないのだ。
それにジルからなら花を貰うより抱き締めて貰った方が……
「ユキ様顔真っ赤ですよ」
「これは……想像の中のジルにつられただけで……」
「想像の中でもジル様はユキ様を甘やかしてまあ」
「……」
「気持ちはわかりますけどね」
「……い、いいのかな」
「なにがです?」
「おれ、ジルに甘やかされてるままで」
「寧ろそうして貰わないとこっちが困ります」
真顔で返されて笑った。
そうだな、いちばん被害を被ってるのはモーリスさんだもんな。
「まあユキ様は見ることはないでしょうね」
「?」
「ジル様の魔法を」
「なんで」
「戦場には連れて行かないでしょう」
「……ジルだって」
行かせない、と言いかけて口を噤んだ。
王子をそんな危ないとこに、と思ったのだけど、王子だからこそ国を守る為に先頭に立つこともあるのか。
そんなこと考えたくない、けど。
「うん、そうなったらおれが護るから、ジルが魔法を使う暇なんてないかもね」
モーリスさんは、眩しいものを見るように目を細めて、頼もしいです、と言ってくれた。
◇◇◇
「そんな訳でこの薬飲みたいです」
「……毎回毎回すごい色してるなあ」
夜、部屋にやって来たジルに早速お願いする。
遥陽でもいいけどさ、まだお願いするのはちょっと気が引ける。
ジルが忙しければモーリスさんにお願いしようと思ったけど、先にジルに話を通しておかないとまたモーリスさんにちくちく言いそうだから、ちゃんと話しておく。
モーリスさんへの嫉妬や八つ当たりに申し訳ないという気持ちと、そんなバカップルみたいなものに巻き込まれるモーリスさんが可哀想って気持ちが半々。
いつもすみません。
「え、今飲むの?」
「だめかな?」
「うーん、寝る前に飲むものではないと思うけど」
色々な意味で、と薬を少し苦々しげに見ながら言う。
この世界のひとたちにもこの薬がやばそうに見えててちょっと安心した。
そうだよな、どうみてもこの色はやばいよな、そりゃキャロルも嫌だよな、てか寧ろこんなのを飲んだシャノン様がやばいと思う。
そう思ってしまった。
最初はこわかったのに、全てにびびっていたのに、関わるひとが皆優しい。
シャノン様も、何だかんだ泣き腫らした顔のおれを気にしてくれてたんだろう。
何かあったらまたここに来なさい、とおれに大量の瓶を持たせて帰される。
帰路で、ジルに変な香油を持たせるなと文句を言うのを忘れていたことを思い出してしまった。
少し離れたところでまたしても待たされていたモーリスさんがおれの腕の中の瓶を見て苦笑する。
全くシャノン様は、と言いながら半分持ってくれた。
「相変わらずですね、シャノン様は」
「なんかおれ慣れてきたかも、結構はっきり言うから困ることもあるけど助かるっていうか……こういうのを作るのがシャノン様の魔法?」
「のようですね、あの方は幼少期からこういうことばかりで」
「魔法なのに科学みたい、すごいね、今度作ってるとこも見てみたいや」
ただこれ見た目と味どうにかならないのかな。
飲むのを躊躇うようなすごい色してるし、味だって自分でまずいって言ってたし。香油は透明でいいかおりだったのに。
効能しか興味無いんだろうか。
「……モーリスさんは知ってるんだよね?ジルの魔法」
「まあそれは……一応」
「ねえ、ジルって大丈夫なの?」
「……?何がですか?」
「いや、花を綺麗に咲かせます~!って魔法で大丈夫なの?おれてっきり、火を出したりとか攻撃性のある魔法だと思ってたよ、平和過ぎない?」
「そんな」
モーリスさんはくつくつと笑って、それは確かに平和ですねと言う。
それから、心配しなくても大丈夫ですよ、とも。
「花を咲かせるだけが魔法じゃないですからね……ふっ……っくく」
「そんな笑わなくても」
「いや、まるで庭師みたいだと思って……」
「……ジルに言わないでよね」
「まあでも同じようなものですかね」
どうやら、おれが美味しいと言った果物なんかを積極的に作らせようとしたりもしてるらしい。
ジルのことだし、おれの為にとか言って庭にでも植えそうだとも思ったけど、それぞれの地方の特産物にもなる訳で、そんなあほみたいな魔法の使い方はしないようだ。まあ仮にも王太子が私欲でそんなことはしないか。
その土地々々で作られるからこそ美味しい訳で。売りにもなる訳で。
だからこそあの庭は特別だ。
花の種類とか関係なく、綺麗な花々がずうっと咲いてる庭。
ジルがロザリー様の為に作った庭。
本人のいない今となってはもう、ロザリー様の想いは全てわかることは出来ない。
でも、そんな庭の近くで最期を迎えられたのは母親としてしあわせだったんじゃないかなとは思う。
あの庭はロザリー様のものだ。
そこに対して文句や嫉妬はない。
ジルがおれの為に用意した庭じゃなくても、それでいい。
幼いジルが母親の為に作った庭に立ち入らせて貰えるだけでいい。
それでいい。
おれは元気だし、特別花がすきだって訳でもないし、そんな、子供がお母さんに用意したものに対してやきもきする程嫉妬深い男ではないのだ。
それにジルからなら花を貰うより抱き締めて貰った方が……
「ユキ様顔真っ赤ですよ」
「これは……想像の中のジルにつられただけで……」
「想像の中でもジル様はユキ様を甘やかしてまあ」
「……」
「気持ちはわかりますけどね」
「……い、いいのかな」
「なにがです?」
「おれ、ジルに甘やかされてるままで」
「寧ろそうして貰わないとこっちが困ります」
真顔で返されて笑った。
そうだな、いちばん被害を被ってるのはモーリスさんだもんな。
「まあユキ様は見ることはないでしょうね」
「?」
「ジル様の魔法を」
「なんで」
「戦場には連れて行かないでしょう」
「……ジルだって」
行かせない、と言いかけて口を噤んだ。
王子をそんな危ないとこに、と思ったのだけど、王子だからこそ国を守る為に先頭に立つこともあるのか。
そんなこと考えたくない、けど。
「うん、そうなったらおれが護るから、ジルが魔法を使う暇なんてないかもね」
モーリスさんは、眩しいものを見るように目を細めて、頼もしいです、と言ってくれた。
◇◇◇
「そんな訳でこの薬飲みたいです」
「……毎回毎回すごい色してるなあ」
夜、部屋にやって来たジルに早速お願いする。
遥陽でもいいけどさ、まだお願いするのはちょっと気が引ける。
ジルが忙しければモーリスさんにお願いしようと思ったけど、先にジルに話を通しておかないとまたモーリスさんにちくちく言いそうだから、ちゃんと話しておく。
モーリスさんへの嫉妬や八つ当たりに申し訳ないという気持ちと、そんなバカップルみたいなものに巻き込まれるモーリスさんが可哀想って気持ちが半々。
いつもすみません。
「え、今飲むの?」
「だめかな?」
「うーん、寝る前に飲むものではないと思うけど」
色々な意味で、と薬を少し苦々しげに見ながら言う。
この世界のひとたちにもこの薬がやばそうに見えててちょっと安心した。
そうだよな、どうみてもこの色はやばいよな、そりゃキャロルも嫌だよな、てか寧ろこんなのを飲んだシャノン様がやばいと思う。
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