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「これが魔力をコントロール……というか、わかりやすくするものね」
「わかりやすく……」
「魔力の感じ方はひとによるのだけど。ユキは何もわからないのよね」
「はい」
「これを飲んだらどういう動きをするかがわかる筈。どういうものかわかれば使い方も多少わかるでしょう」
「はあ……」
「こっちはそれを抑えるもの。さっきのがちょっと強いから、限界だと思う前にこっちを飲みなさい」
「むずかし……」
「ひとりだと何かあったら困るから誰かいた方がいいわね、今飲むならあたしが見ててもいいけど」

 ……それはちょっと怖いな、なんか研究の為とか言ってまじで限界まで放っておかれそうで。
 そんなおれの視線に気付いたのか、死にゃしないわよ、ととんでもないことを言う。

「まあ今日は止めときましょ、そうねえ、後は……こっちは睡眠薬」
「すいみんやく」
「魔力の回復は寝るのがいちばんと言ったでしょう?でも無理に力を使うと躰が興奮して寝れないこともあるから……貴方よく寝るみたいだから大丈夫だと思うけど」
「……」

 ばれてる。誰だ、ジルが話したのか?

「魔力が暴走した時にもこれで眠らせるといいかもしれないわ」
「暴走とかあるんですか?」
「強い魔力と魔力がぶつかればそりゃあね、まあユキとハルヒみたいなタイプはそうそうそんなことは起こり得ないけれど、あそこはジル様の魔力が濃いから、念の為」
「あそこ?」
「貴方が住んでるところよ」
「……?」

 別館のことだろうか。
 ジルの魔力が濃い?ひとの魔力どころか自分の魔力すらわかってないおれにそんなのは感じ取れなかった。
 セルジュさんと練習した時はおれの魔力が濃いとしか言われなかったし、ジル自体が何か言ったこともない。

「……っていうか、ジルの魔力の話とかしたことないかも」
「呆れた」

 肩を竦めるシャノン様に、本当だよ、なんで話したことないんだよ、と自分でも呆れてしまう。
 なんだかもう、存在自体がきらきらしてるから、それが眩しくて、魔法に馴染みのない自分にはジルがもう魔法みたいなものなんだよなあ。
 ……という惚気はおいておいて、よく今まで気にしなかったもんだ。
 遥陽のことばっかり考えてたから。

「魔力が濃いってなんで?住んでるとこがそうならお城周りも濃いんじゃないんですか?」
「……綺麗に咲いてるでしょう?お庭」
「庭……花?」
「そうよ、あれがジル様の魔法。綺麗よね」

 基本的にジルに興味がなさそうなシャノン様だけど、そこだけはふわりと笑った。
 花……花?
 花を綺麗に咲かせる魔法?そんなお花屋さんみたいな。

「あの庭はロザリー様が世話してたんじゃ?」

 キャロルがぽつりと言っていた、ジルにいさまのおかあさまはおはなをそだてるのがおじょうずだったのね、という言葉を思い出す。
 それもあって、呪いのせいで別館に引き籠っていたロザリー様が育てたのだと思っていた。

 花に全く詳しくないおれでもわかるような綺麗な薔薇や、名前も知らない甘いかおりのする色とりどりな花たち、風が吹いて、さわさわ揺れる木々と、そこに佇むジル。

「うわ絵になるな」
「惚気はどうでもいいのよ、あのね、ロザリー様が亡くなられてから何年経ったと思ってるのよ」
「あ……」

 そうか、じゃああの庭は、ロザリー様が慰みに作ったものではなく、ロザリー様の為に幼いジルが作った庭だったんだ。
 だからあんなに優しくて、少し落ち着く居心地のいいあたたかい場所なんだ。
 そっか、だから……
 ロザリー様が亡くなっても、ジルの力がずっとずっと守っていた庭。

「でもなんでキャロルは……キャロルもジルの力を知らないのかな」
「この国では10歳になると王族は魔力を鑑定してもらうの、それまではあまり子供には魔力の話をしないから」
「なんでですか?」
「魔力が強くても弱くても気になるでしょう?自分の力が強ければ周りを見下したり、自分の力が弱ければ悩んでしまうし嘘も吐く、捻くれてしまうことも多いの、子供は残酷な面もあるから過保護にもなるわね」
「キャロルはそんな子じゃないけど……」
「まあ隠さないひともいるけどね、キャロルはだいじに育てられてるから」

 そのだいじに育てられてる王女をとっ捕まえて訳わからん薬を飲ませようとしてたシャノン様がよくいう……

「じゃあキャロルにはまだ内緒にしておいた方がいいんだ……あの庭、キャロルも来たがってたんだけど」
「そうね、そっちの方が面倒はないんじゃないかしら」

 だいすきなお兄ちゃんの作った庭に立つキャロルはそれはそれはかわいいと思うんだけど。
 ひとは余計な力を持つといらん心配も増えるんだなあ。
 まさに今のおれらでもあるんだけど。

「シャノン様から聞いたって言っていいですか?ジルに」
「いいわよ、隠してることでもないし……嬉しそうね」
「え、嬉しそうです?」
「ええ」
「ジルの知らないことたくさんあるからかなあ……おれ、あの庭すきだし、それをジルが作ってるって知って嬉しいのかな」
「……そう」

 ついでれっとしてしまったけど、幾ら口ではお互いの肩書き以外に興味無いとはいっても、婚約者のこんな惚気は少しくらい嫌な気持ちになったりしないのだろうか、と今更ながら気付いてしまう。
 でもそんなものは杞憂だとばかりに、シャノン様は仲良くしてるのね、と微笑んだ。
 ……そんな顔も出来るんだ。
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