98 / 161
98
しおりを挟む
「これが魔力をコントロール……というか、わかりやすくするものね」
「わかりやすく……」
「魔力の感じ方はひとによるのだけど。ユキは何もわからないのよね」
「はい」
「これを飲んだらどういう動きをするかがわかる筈。どういうものかわかれば使い方も多少わかるでしょう」
「はあ……」
「こっちはそれを抑えるもの。さっきのがちょっと強いから、限界だと思う前にこっちを飲みなさい」
「むずかし……」
「ひとりだと何かあったら困るから誰かいた方がいいわね、今飲むならあたしが見ててもいいけど」
……それはちょっと怖いな、なんか研究の為とか言ってまじで限界まで放っておかれそうで。
そんなおれの視線に気付いたのか、死にゃしないわよ、ととんでもないことを言う。
「まあ今日は止めときましょ、そうねえ、後は……こっちは睡眠薬」
「すいみんやく」
「魔力の回復は寝るのがいちばんと言ったでしょう?でも無理に力を使うと躰が興奮して寝れないこともあるから……貴方よく寝るみたいだから大丈夫だと思うけど」
「……」
ばれてる。誰だ、ジルが話したのか?
「魔力が暴走した時にもこれで眠らせるといいかもしれないわ」
「暴走とかあるんですか?」
「強い魔力と魔力がぶつかればそりゃあね、まあユキとハルヒみたいなタイプはそうそうそんなことは起こり得ないけれど、あそこはジル様の魔力が濃いから、念の為」
「あそこ?」
「貴方が住んでるところよ」
「……?」
別館のことだろうか。
ジルの魔力が濃い?ひとの魔力どころか自分の魔力すらわかってないおれにそんなのは感じ取れなかった。
セルジュさんと練習した時はおれの魔力が濃いとしか言われなかったし、ジル自体が何か言ったこともない。
「……っていうか、ジルの魔力の話とかしたことないかも」
「呆れた」
肩を竦めるシャノン様に、本当だよ、なんで話したことないんだよ、と自分でも呆れてしまう。
なんだかもう、存在自体がきらきらしてるから、それが眩しくて、魔法に馴染みのない自分にはジルがもう魔法みたいなものなんだよなあ。
……という惚気はおいておいて、よく今まで気にしなかったもんだ。
遥陽のことばっかり考えてたから。
「魔力が濃いってなんで?住んでるとこがそうならお城周りも濃いんじゃないんですか?」
「……綺麗に咲いてるでしょう?お庭」
「庭……花?」
「そうよ、あれがジル様の魔法。綺麗よね」
基本的にジルに興味がなさそうなシャノン様だけど、そこだけはふわりと笑った。
花……花?
花を綺麗に咲かせる魔法?そんなお花屋さんみたいな。
「あの庭はロザリー様が世話してたんじゃ?」
キャロルがぽつりと言っていた、ジルにいさまのおかあさまはおはなをそだてるのがおじょうずだったのね、という言葉を思い出す。
それもあって、呪いのせいで別館に引き籠っていたロザリー様が育てたのだと思っていた。
花に全く詳しくないおれでもわかるような綺麗な薔薇や、名前も知らない甘いかおりのする色とりどりな花たち、風が吹いて、さわさわ揺れる木々と、そこに佇むジル。
「うわ絵になるな」
「惚気はどうでもいいのよ、あのね、ロザリー様が亡くなられてから何年経ったと思ってるのよ」
「あ……」
そうか、じゃああの庭は、ロザリー様が慰みに作ったものではなく、ロザリー様の為に幼いジルが作った庭だったんだ。
だからあんなに優しくて、少し落ち着く居心地のいいあたたかい場所なんだ。
そっか、だから……
ロザリー様が亡くなっても、ジルの力がずっとずっと守っていた庭。
「でもなんでキャロルは……キャロルもジルの力を知らないのかな」
「この国では10歳になると王族は魔力を鑑定してもらうの、それまではあまり子供には魔力の話をしないから」
「なんでですか?」
「魔力が強くても弱くても気になるでしょう?自分の力が強ければ周りを見下したり、自分の力が弱ければ悩んでしまうし嘘も吐く、捻くれてしまうことも多いの、子供は残酷な面もあるから過保護にもなるわね」
「キャロルはそんな子じゃないけど……」
「まあ隠さないひともいるけどね、キャロルはだいじに育てられてるから」
そのだいじに育てられてる王女をとっ捕まえて訳わからん薬を飲ませようとしてたシャノン様がよくいう……
「じゃあキャロルにはまだ内緒にしておいた方がいいんだ……あの庭、キャロルも来たがってたんだけど」
「そうね、そっちの方が面倒はないんじゃないかしら」
だいすきなお兄ちゃんの作った庭に立つキャロルはそれはそれはかわいいと思うんだけど。
ひとは余計な力を持つといらん心配も増えるんだなあ。
まさに今のおれらでもあるんだけど。
「シャノン様から聞いたって言っていいですか?ジルに」
「いいわよ、隠してることでもないし……嬉しそうね」
「え、嬉しそうです?」
「ええ」
「ジルの知らないことたくさんあるからかなあ……おれ、あの庭すきだし、それをジルが作ってるって知って嬉しいのかな」
「……そう」
ついでれっとしてしまったけど、幾ら口ではお互いの肩書き以外に興味無いとはいっても、婚約者のこんな惚気は少しくらい嫌な気持ちになったりしないのだろうか、と今更ながら気付いてしまう。
でもそんなものは杞憂だとばかりに、シャノン様は仲良くしてるのね、と微笑んだ。
……そんな顔も出来るんだ。
「わかりやすく……」
「魔力の感じ方はひとによるのだけど。ユキは何もわからないのよね」
「はい」
「これを飲んだらどういう動きをするかがわかる筈。どういうものかわかれば使い方も多少わかるでしょう」
「はあ……」
「こっちはそれを抑えるもの。さっきのがちょっと強いから、限界だと思う前にこっちを飲みなさい」
「むずかし……」
「ひとりだと何かあったら困るから誰かいた方がいいわね、今飲むならあたしが見ててもいいけど」
……それはちょっと怖いな、なんか研究の為とか言ってまじで限界まで放っておかれそうで。
そんなおれの視線に気付いたのか、死にゃしないわよ、ととんでもないことを言う。
「まあ今日は止めときましょ、そうねえ、後は……こっちは睡眠薬」
「すいみんやく」
「魔力の回復は寝るのがいちばんと言ったでしょう?でも無理に力を使うと躰が興奮して寝れないこともあるから……貴方よく寝るみたいだから大丈夫だと思うけど」
「……」
ばれてる。誰だ、ジルが話したのか?
「魔力が暴走した時にもこれで眠らせるといいかもしれないわ」
「暴走とかあるんですか?」
「強い魔力と魔力がぶつかればそりゃあね、まあユキとハルヒみたいなタイプはそうそうそんなことは起こり得ないけれど、あそこはジル様の魔力が濃いから、念の為」
「あそこ?」
「貴方が住んでるところよ」
「……?」
別館のことだろうか。
ジルの魔力が濃い?ひとの魔力どころか自分の魔力すらわかってないおれにそんなのは感じ取れなかった。
セルジュさんと練習した時はおれの魔力が濃いとしか言われなかったし、ジル自体が何か言ったこともない。
「……っていうか、ジルの魔力の話とかしたことないかも」
「呆れた」
肩を竦めるシャノン様に、本当だよ、なんで話したことないんだよ、と自分でも呆れてしまう。
なんだかもう、存在自体がきらきらしてるから、それが眩しくて、魔法に馴染みのない自分にはジルがもう魔法みたいなものなんだよなあ。
……という惚気はおいておいて、よく今まで気にしなかったもんだ。
遥陽のことばっかり考えてたから。
「魔力が濃いってなんで?住んでるとこがそうならお城周りも濃いんじゃないんですか?」
「……綺麗に咲いてるでしょう?お庭」
「庭……花?」
「そうよ、あれがジル様の魔法。綺麗よね」
基本的にジルに興味がなさそうなシャノン様だけど、そこだけはふわりと笑った。
花……花?
花を綺麗に咲かせる魔法?そんなお花屋さんみたいな。
「あの庭はロザリー様が世話してたんじゃ?」
キャロルがぽつりと言っていた、ジルにいさまのおかあさまはおはなをそだてるのがおじょうずだったのね、という言葉を思い出す。
それもあって、呪いのせいで別館に引き籠っていたロザリー様が育てたのだと思っていた。
花に全く詳しくないおれでもわかるような綺麗な薔薇や、名前も知らない甘いかおりのする色とりどりな花たち、風が吹いて、さわさわ揺れる木々と、そこに佇むジル。
「うわ絵になるな」
「惚気はどうでもいいのよ、あのね、ロザリー様が亡くなられてから何年経ったと思ってるのよ」
「あ……」
そうか、じゃああの庭は、ロザリー様が慰みに作ったものではなく、ロザリー様の為に幼いジルが作った庭だったんだ。
だからあんなに優しくて、少し落ち着く居心地のいいあたたかい場所なんだ。
そっか、だから……
ロザリー様が亡くなっても、ジルの力がずっとずっと守っていた庭。
「でもなんでキャロルは……キャロルもジルの力を知らないのかな」
「この国では10歳になると王族は魔力を鑑定してもらうの、それまではあまり子供には魔力の話をしないから」
「なんでですか?」
「魔力が強くても弱くても気になるでしょう?自分の力が強ければ周りを見下したり、自分の力が弱ければ悩んでしまうし嘘も吐く、捻くれてしまうことも多いの、子供は残酷な面もあるから過保護にもなるわね」
「キャロルはそんな子じゃないけど……」
「まあ隠さないひともいるけどね、キャロルはだいじに育てられてるから」
そのだいじに育てられてる王女をとっ捕まえて訳わからん薬を飲ませようとしてたシャノン様がよくいう……
「じゃあキャロルにはまだ内緒にしておいた方がいいんだ……あの庭、キャロルも来たがってたんだけど」
「そうね、そっちの方が面倒はないんじゃないかしら」
だいすきなお兄ちゃんの作った庭に立つキャロルはそれはそれはかわいいと思うんだけど。
ひとは余計な力を持つといらん心配も増えるんだなあ。
まさに今のおれらでもあるんだけど。
「シャノン様から聞いたって言っていいですか?ジルに」
「いいわよ、隠してることでもないし……嬉しそうね」
「え、嬉しそうです?」
「ええ」
「ジルの知らないことたくさんあるからかなあ……おれ、あの庭すきだし、それをジルが作ってるって知って嬉しいのかな」
「……そう」
ついでれっとしてしまったけど、幾ら口ではお互いの肩書き以外に興味無いとはいっても、婚約者のこんな惚気は少しくらい嫌な気持ちになったりしないのだろうか、と今更ながら気付いてしまう。
でもそんなものは杞憂だとばかりに、シャノン様は仲良くしてるのね、と微笑んだ。
……そんな顔も出来るんだ。
82
お気に入りに追加
3,564
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います
雪
BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生!
しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!?
モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....?
ゆっくり更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる