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大人しく話を聞いて、と言われ、確かに今のおれは頭に血が上ってる、大人しく会話をするべきだ、と頷いた。
大丈夫、一回落ち着け、このままじゃ話し合いになんてならない、おれだけ暴れて終わり。
「確かにシャノンは婚約者になるけど、お互いそれを意識したことはないよ」
「……嘘ならもっと上手いものを」
「あの子は俺に興味ないよ、キャロルにだけ」
「……ん?」
「呪いのことを調べたいだけ」
「……んん?」
やばいひとなのには変わりないけど、でもあの綺麗なひととこの目の前の整ったひとがお互い興味がないって?
「それはない」
「え」
「だって婚約者っていつかは結婚して子供産んで王様と王妃様になっておれは邪魔で」
「ユキが邪魔になることはないよ」
「邪魔なんだよ!普通は!王太子様でしょうが!」
「でも俺はユキがいいし」
「えっ」
「え」
「……な、なんで」
「なんでも何も、ずっとユキに伝えてるつもりだけど」
「えっ、え、待っ、え?」
「かわいいだけじゃ足りないか……」
ソファに倒されて、近付いてくる顔をどうにか止める。
今はだいじな話し中だ、流されるな。
心臓煩い!止まれ!
「待って、おれ、ほんとにだめだって思ったんだから!こ、こっちの世界ではわかんないけど、おれたちの感覚では浮気とか不倫とかだめなんだから!」
「それはこっちでもだめだと思う」
「じゃあなんで!」
「俺とシャノンは形だけだし……」
「……?」
「今日どういう会話をしたのかわからないけど……」
どうやら小さい頃からシャノン様には並々ならぬ興味が呪いの件に向いていて、家柄とかもそりゃあもちろん関係あるけど、そこがいちばんの婚約者への抜擢ポイントだったらしい。
変わり者で、研究者気質で、それでいてジルには対して興味をみせない。
そんなものだから、ジルもシャノン様の話をしなかったと。
「……普通するよ、婚約者の話なんて、最初に」
「それは俺も……ユキにそれを理由に避けられたくなかったのかも」
「……」
「すっごい悩んだのに……」
「すまない」
「おれ、ここ、出て行く気もあったのに」
「えっ」
「それくらい悩んだのに……」
「……申し訳ない」
「じゃあ、ジルの傍に居ても誰の迷惑にもならないってこと……?いや待って、跡継ぎ、跡継ぎ必要でしょ」
「そんなのどうにでもなる」
ふざけた話だ。なんて都合の良い。
……力が抜けた。
この数日間のおれの悩みと覚悟はなんだったんだ。
「迷惑になんてならないよ」
「だってだめだって思ってたのにい……」
「なのに俺と一緒に居たかったんだ?」
「がまんできなかった……」
「そう」
「ジルがそうしたんじゃん……おれ、もうジルじゃなきゃやだもん……」
「そうかあ……」
強く行こうと思ったのに、力が抜けてふにゃふにゃになってしまう。絶対揉めると思ったのに。
そんなおれを見下ろすジルは酷く嬉しそうだ。
やめてほしい、そういうのが、そういう顔が、そんなにおれのことすきなんだなって思わせちゃう。
「ここを出て行くなんて言わないで」
「んっ……」
「俺だってもうユキじゃないとだめなんだ」
「んう、」
「婚約者だって跡継ぎだってどうでもいい、ユキが傍にいないなら意味がない」
「んん……」
「だからずっと一緒にいて」
「う」
髪を梳いて、頬に触れて、唇を落として、瞳をみつめて、甘い声が降る。
何度も何度も経験して、それでも尚慣れないこの雰囲気。
頭がどろどろになってしまいそうで、何にでもうんと頷いてしまいそうになる。
おれだってジルの傍にいたい、一緒にいたい。
王様になんてならなくていい、どっか小さな街でもいい、一緒にいたい。
……実際はそんなことにはならないんだろうけど。
「ユキ、愛してるよ」
耳が、脳が、溶けてしまいそう。
また変な声が出た。
いつもの甘ったるい言葉、視線。
でもいつものように視線を逸らすことが出来なかった。
ここは逃げたらだめなところだ、だいじなところ。間違えたらいけない。
「お、おれも……」
慣れない言葉に、声も伸ばす腕も震えた。
いつものかわいいとかすきとかよりも重い言葉だと思う、だからこんな格好悪くなってしまっても仕方ない。
受け入れる方も口にする方も真剣なんだ。
ジルがしあわせそうに笑うなら、これが正解。
誰がなんと言おうと、これはハッピーエンドの大正解なのだ。
「……だめだと思ってたから、なんか……なんか、安心、しちゃった……」
「ユキ?」
「あったかい、し……」
「ユキ、ここじゃなくて、ベッドに」
「うごけない……」
その言葉を最後に、視界が暗くなってしまった。
◇◇◇
「…………嘘でしょ」
……寝るかね、あそこで!有り得なくない!?
我ながら酷いと思う。
絶対あそこはいちゃいちゃするところだった。キスのひとつもないとか。
なのに寝落ち。正直ない。ないです。
逆の立場ならがっかりしてる。
つまりジルに呆れられてもおかしくないということ。
しかも起きたのはゆっくりたっぷり眠った後、もう隣にジルはいない。
夜も朝も何にも出来ないなんてお前の愛情はそんなもんかと責められたら何も言えない。
倒れる程何に魔力を使ったというのだ、まさかまただだ漏れだったのか。
これは本当におれはこの魔力の垂れ流し状態をどうにかしないといけない。
大丈夫、一回落ち着け、このままじゃ話し合いになんてならない、おれだけ暴れて終わり。
「確かにシャノンは婚約者になるけど、お互いそれを意識したことはないよ」
「……嘘ならもっと上手いものを」
「あの子は俺に興味ないよ、キャロルにだけ」
「……ん?」
「呪いのことを調べたいだけ」
「……んん?」
やばいひとなのには変わりないけど、でもあの綺麗なひととこの目の前の整ったひとがお互い興味がないって?
「それはない」
「え」
「だって婚約者っていつかは結婚して子供産んで王様と王妃様になっておれは邪魔で」
「ユキが邪魔になることはないよ」
「邪魔なんだよ!普通は!王太子様でしょうが!」
「でも俺はユキがいいし」
「えっ」
「え」
「……な、なんで」
「なんでも何も、ずっとユキに伝えてるつもりだけど」
「えっ、え、待っ、え?」
「かわいいだけじゃ足りないか……」
ソファに倒されて、近付いてくる顔をどうにか止める。
今はだいじな話し中だ、流されるな。
心臓煩い!止まれ!
「待って、おれ、ほんとにだめだって思ったんだから!こ、こっちの世界ではわかんないけど、おれたちの感覚では浮気とか不倫とかだめなんだから!」
「それはこっちでもだめだと思う」
「じゃあなんで!」
「俺とシャノンは形だけだし……」
「……?」
「今日どういう会話をしたのかわからないけど……」
どうやら小さい頃からシャノン様には並々ならぬ興味が呪いの件に向いていて、家柄とかもそりゃあもちろん関係あるけど、そこがいちばんの婚約者への抜擢ポイントだったらしい。
変わり者で、研究者気質で、それでいてジルには対して興味をみせない。
そんなものだから、ジルもシャノン様の話をしなかったと。
「……普通するよ、婚約者の話なんて、最初に」
「それは俺も……ユキにそれを理由に避けられたくなかったのかも」
「……」
「すっごい悩んだのに……」
「すまない」
「おれ、ここ、出て行く気もあったのに」
「えっ」
「それくらい悩んだのに……」
「……申し訳ない」
「じゃあ、ジルの傍に居ても誰の迷惑にもならないってこと……?いや待って、跡継ぎ、跡継ぎ必要でしょ」
「そんなのどうにでもなる」
ふざけた話だ。なんて都合の良い。
……力が抜けた。
この数日間のおれの悩みと覚悟はなんだったんだ。
「迷惑になんてならないよ」
「だってだめだって思ってたのにい……」
「なのに俺と一緒に居たかったんだ?」
「がまんできなかった……」
「そう」
「ジルがそうしたんじゃん……おれ、もうジルじゃなきゃやだもん……」
「そうかあ……」
強く行こうと思ったのに、力が抜けてふにゃふにゃになってしまう。絶対揉めると思ったのに。
そんなおれを見下ろすジルは酷く嬉しそうだ。
やめてほしい、そういうのが、そういう顔が、そんなにおれのことすきなんだなって思わせちゃう。
「ここを出て行くなんて言わないで」
「んっ……」
「俺だってもうユキじゃないとだめなんだ」
「んう、」
「婚約者だって跡継ぎだってどうでもいい、ユキが傍にいないなら意味がない」
「んん……」
「だからずっと一緒にいて」
「う」
髪を梳いて、頬に触れて、唇を落として、瞳をみつめて、甘い声が降る。
何度も何度も経験して、それでも尚慣れないこの雰囲気。
頭がどろどろになってしまいそうで、何にでもうんと頷いてしまいそうになる。
おれだってジルの傍にいたい、一緒にいたい。
王様になんてならなくていい、どっか小さな街でもいい、一緒にいたい。
……実際はそんなことにはならないんだろうけど。
「ユキ、愛してるよ」
耳が、脳が、溶けてしまいそう。
また変な声が出た。
いつもの甘ったるい言葉、視線。
でもいつものように視線を逸らすことが出来なかった。
ここは逃げたらだめなところだ、だいじなところ。間違えたらいけない。
「お、おれも……」
慣れない言葉に、声も伸ばす腕も震えた。
いつものかわいいとかすきとかよりも重い言葉だと思う、だからこんな格好悪くなってしまっても仕方ない。
受け入れる方も口にする方も真剣なんだ。
ジルがしあわせそうに笑うなら、これが正解。
誰がなんと言おうと、これはハッピーエンドの大正解なのだ。
「……だめだと思ってたから、なんか……なんか、安心、しちゃった……」
「ユキ?」
「あったかい、し……」
「ユキ、ここじゃなくて、ベッドに」
「うごけない……」
その言葉を最後に、視界が暗くなってしまった。
◇◇◇
「…………嘘でしょ」
……寝るかね、あそこで!有り得なくない!?
我ながら酷いと思う。
絶対あそこはいちゃいちゃするところだった。キスのひとつもないとか。
なのに寝落ち。正直ない。ないです。
逆の立場ならがっかりしてる。
つまりジルに呆れられてもおかしくないということ。
しかも起きたのはゆっくりたっぷり眠った後、もう隣にジルはいない。
夜も朝も何にも出来ないなんてお前の愛情はそんなもんかと責められたら何も言えない。
倒れる程何に魔力を使ったというのだ、まさかまただだ漏れだったのか。
これは本当におれはこの魔力の垂れ流し状態をどうにかしないといけない。
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