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「頭痛い?えっ、どうしよ、あ、遥陽、遥陽呼ぶ?大丈夫?」
「いや、体調不良じゃない、大丈夫」
「でもジル顔赤い、あ、熱……」
「違う違う」
慌てるおれに、少しまだ頬を赤くしたジルが笑みを見せた。
「ユキの仕草が一々かわいくて……抱き締めたくなるなって」
「……!」
こっちの台詞だ、一々刺激の強いことを言わないでほしい。
そんなこと言わないでいい、そう返したかったのに、後でね、と言ってしまった自分の口はおかしい。
ほら、ジルがきょとんとしている。
……すぐに笑顔になったけど。
「じゃあ後で」
朱に交われば何とやら、どうやらおれの頭も甘ったるくなってしまったようだ。
そのタイミングでアンヌさんが食後のコーヒーとデザートを持ってきてくれた。
今日はベリー系のムースだった。甘いかおりが、ふわと漂う。
アンヌさんにまで嬉しそうですねえ、と微笑まれ、頬が熱くなってしまう。
……抱き締められるのを期待した訳では……あるけど。
いや嬉しいでしょ、ぎゅってされるの、すきなひとだよ、そりゃ嬉しいでしょ、本当はだめなんだろうけど。
◇◇◇
「あ、あの」
「うん?」
「このまんまで寝るの?」
「嫌?」
「いやじゃないです……」
予想通りといえば予想通り、思ってたのと違うといえば思ってたのと違う。
お風呂を済ませたジルは、おれを抱き締めたまま眠ると言う。
抱き締めたままとは、と考えていると、胸元にぎゅうと抱き締められて、そのまま横になった。
……石鹸のにおいがする。
今日もするのかと思ってた。しないのか。
それはおれの躰とかのことを考えてのことか、それともそんな気がおこらないだけか。
「ん……」
わざとなのかなんなのか、髪を撫でながら耳許に触れるものだから思わず声が出た。
ジルの少し笑う吐息を頭上で感じる。
正直その顔を見たい。でも自分の顔は真っ赤になってるだろうから、その顔を見せる訳にはいかなくて、そのまま胸元に顔を埋めた。
本当にこのまま寝るのかな、いいのかな、こういうの。
そういう行為をする訳ではなく、ただこうやって寝るだけって、いいのかな。
ただおれがしあわせなだけなんだけど。
今までだって、同じベッドで、近くで寝てたけど。
こんなにぎゅってされたまんまは邪魔にならないかな。
「……あの、」
「なあに」
「ほんとに、なんも、しない、の?」
「なんもって?」
「……昨日みたいな」
ユキはしたいの?と訊かれて、そんなことばっかり考えてしまってた自分が責められてるようで、ちょっと恥ずかしい。
したい訳ではない。ただジルがそういう気にならないのは何だか寂しい。
「だめだよ」
「え……」
「昨夜は気をやったろう、日中も頑張ってるようだし、ユキの躰には負担になってしまう」
「……おれの負担にならなかったらしたかったの」
「そりゃあかわいいユキを堪能したいけど。でもユキがかわいいのは別にその時だけじゃないからね」
「……」
「ユキが万全の時に抱きたい」
ストレートな言い様に心臓が早くなる。
抱きたい。抱きたいだって、うわ、ジルが、おれのこと、抱きたいだって。うわあ……
「こうやって、ユキを抱き締めてるだけでも満たされるよ」
「お、おれも」
なにか言わなきゃ、そう思うのに、答えられたのはそれだけだった。
ちゃんと、えっちなことだけ考えてる訳ではないと言い訳したいのに。語彙が少なくて、好意を伝えるのが難しい。
ちゃんと伝えたいという気持ちと、重くは取られたくないという気持ち。
ここ最近、ずっとこんな複雑な気持ちだ。
キャロルが悪いんじゃないけど、婚約者の存在なんて知らなかったらただ純粋に受け入れられたかもしれないのに。
……顔が見えなくて良かった。
◇◇◇
訓練三日目。
今日は遥陽は不在だった。
そうだよな、そんなに暇じゃないよな、そんな中付き合ってくれてありがとう……と心の中でお礼を言っておく。
昨夜、ジルと話した内容をセルジュさんにも訊いてみた。
ロザリー様のように色々な所に行ってみたいと。
セルジュさんはあっさりと、経験としてはいいかもしれないですね、と頷いた。
「ロザリー様のように定期的に回る必要はないですけど、確かにそうですね、ユキ様もよくわからない国をいきなり護れと言われるより、色々見て回って愛着を持って頂いた方がいいかもしれませんね」
「良かった、何か掴めるかなと思って。遥陽みたいに最初から色々出来たら良かったんだけど。おれなんもわかんなくて」
「まだ不安ですか?ユキ様も優秀ですよ」
セルジュさんに褒められると悪い気がしない。でへへと喜んでしまう。
本気で褒められてる訳ではないと思うけど、致命的でもないということだろう。
及第点はあるということだけ頂いておく。
「私は明日戻りますね」
「えっ、はや、明日?」
「キャロル様の様子も見られましたし……ユキ様にも会いたいとおっしゃってましたよ」
「おれも会いたいんで近々行ってみます……でもほんとに大丈夫かな」
「ええ、こちらにも来ていいとおっしゃってたとか」
「あ、はい」
「良いと思いますよ、ここはユキ様の魔力が濃くて」
「えっ」
なんかよくわからないけど、魔力が濃い場所と言われると何だか恥ずかしい、悪いことではないみたいだけど、何となく恥ずかしい。
垂れ流しの魔力が濃いって恥ずかしい。
「いや、体調不良じゃない、大丈夫」
「でもジル顔赤い、あ、熱……」
「違う違う」
慌てるおれに、少しまだ頬を赤くしたジルが笑みを見せた。
「ユキの仕草が一々かわいくて……抱き締めたくなるなって」
「……!」
こっちの台詞だ、一々刺激の強いことを言わないでほしい。
そんなこと言わないでいい、そう返したかったのに、後でね、と言ってしまった自分の口はおかしい。
ほら、ジルがきょとんとしている。
……すぐに笑顔になったけど。
「じゃあ後で」
朱に交われば何とやら、どうやらおれの頭も甘ったるくなってしまったようだ。
そのタイミングでアンヌさんが食後のコーヒーとデザートを持ってきてくれた。
今日はベリー系のムースだった。甘いかおりが、ふわと漂う。
アンヌさんにまで嬉しそうですねえ、と微笑まれ、頬が熱くなってしまう。
……抱き締められるのを期待した訳では……あるけど。
いや嬉しいでしょ、ぎゅってされるの、すきなひとだよ、そりゃ嬉しいでしょ、本当はだめなんだろうけど。
◇◇◇
「あ、あの」
「うん?」
「このまんまで寝るの?」
「嫌?」
「いやじゃないです……」
予想通りといえば予想通り、思ってたのと違うといえば思ってたのと違う。
お風呂を済ませたジルは、おれを抱き締めたまま眠ると言う。
抱き締めたままとは、と考えていると、胸元にぎゅうと抱き締められて、そのまま横になった。
……石鹸のにおいがする。
今日もするのかと思ってた。しないのか。
それはおれの躰とかのことを考えてのことか、それともそんな気がおこらないだけか。
「ん……」
わざとなのかなんなのか、髪を撫でながら耳許に触れるものだから思わず声が出た。
ジルの少し笑う吐息を頭上で感じる。
正直その顔を見たい。でも自分の顔は真っ赤になってるだろうから、その顔を見せる訳にはいかなくて、そのまま胸元に顔を埋めた。
本当にこのまま寝るのかな、いいのかな、こういうの。
そういう行為をする訳ではなく、ただこうやって寝るだけって、いいのかな。
ただおれがしあわせなだけなんだけど。
今までだって、同じベッドで、近くで寝てたけど。
こんなにぎゅってされたまんまは邪魔にならないかな。
「……あの、」
「なあに」
「ほんとに、なんも、しない、の?」
「なんもって?」
「……昨日みたいな」
ユキはしたいの?と訊かれて、そんなことばっかり考えてしまってた自分が責められてるようで、ちょっと恥ずかしい。
したい訳ではない。ただジルがそういう気にならないのは何だか寂しい。
「だめだよ」
「え……」
「昨夜は気をやったろう、日中も頑張ってるようだし、ユキの躰には負担になってしまう」
「……おれの負担にならなかったらしたかったの」
「そりゃあかわいいユキを堪能したいけど。でもユキがかわいいのは別にその時だけじゃないからね」
「……」
「ユキが万全の時に抱きたい」
ストレートな言い様に心臓が早くなる。
抱きたい。抱きたいだって、うわ、ジルが、おれのこと、抱きたいだって。うわあ……
「こうやって、ユキを抱き締めてるだけでも満たされるよ」
「お、おれも」
なにか言わなきゃ、そう思うのに、答えられたのはそれだけだった。
ちゃんと、えっちなことだけ考えてる訳ではないと言い訳したいのに。語彙が少なくて、好意を伝えるのが難しい。
ちゃんと伝えたいという気持ちと、重くは取られたくないという気持ち。
ここ最近、ずっとこんな複雑な気持ちだ。
キャロルが悪いんじゃないけど、婚約者の存在なんて知らなかったらただ純粋に受け入れられたかもしれないのに。
……顔が見えなくて良かった。
◇◇◇
訓練三日目。
今日は遥陽は不在だった。
そうだよな、そんなに暇じゃないよな、そんな中付き合ってくれてありがとう……と心の中でお礼を言っておく。
昨夜、ジルと話した内容をセルジュさんにも訊いてみた。
ロザリー様のように色々な所に行ってみたいと。
セルジュさんはあっさりと、経験としてはいいかもしれないですね、と頷いた。
「ロザリー様のように定期的に回る必要はないですけど、確かにそうですね、ユキ様もよくわからない国をいきなり護れと言われるより、色々見て回って愛着を持って頂いた方がいいかもしれませんね」
「良かった、何か掴めるかなと思って。遥陽みたいに最初から色々出来たら良かったんだけど。おれなんもわかんなくて」
「まだ不安ですか?ユキ様も優秀ですよ」
セルジュさんに褒められると悪い気がしない。でへへと喜んでしまう。
本気で褒められてる訳ではないと思うけど、致命的でもないということだろう。
及第点はあるということだけ頂いておく。
「私は明日戻りますね」
「えっ、はや、明日?」
「キャロル様の様子も見られましたし……ユキ様にも会いたいとおっしゃってましたよ」
「おれも会いたいんで近々行ってみます……でもほんとに大丈夫かな」
「ええ、こちらにも来ていいとおっしゃってたとか」
「あ、はい」
「良いと思いますよ、ここはユキ様の魔力が濃くて」
「えっ」
なんかよくわからないけど、魔力が濃い場所と言われると何だか恥ずかしい、悪いことではないみたいだけど、何となく恥ずかしい。
垂れ流しの魔力が濃いって恥ずかしい。
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