【完結】召喚失敗された彼がしあわせになるまで

ちかこ

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「そうだ、えと、お風呂!お風呂入ってくる!」
「今から?」
「汗流してくる!」
「待って」
「あっ、触っちゃだめ!」
「ユキ」

 慌てて立ち上がろうとするおれの手を掴まえて、それから今度は布団越しではなく抱き締められる。
 いつもの、ジルのいいかおりがふわっとして、それがまたおれを暴走させた。

「はなし、てっ」

 さっきまでの甘い空気なんて知ったこっちゃない。
 やばいやばいやばい、絶対こんなん汗くさいじゃん、こんなにジルは完璧なのに、その対比が酷い。近寄んないでほしい。

「やだもう……」
「少し汗ばんでるだけでしょう、気にならないよ」
「でもやだ……」
「俺はユキのにおいすきだよ」
「なんっ……」

 嗅ぐな、と言おうとして、その声はジルの唇に吸われてしまった。
 さっきまではおれの意志を尊重してた癖に、こういうところは強引だ。
 多分、おれがどこまで許すかをわかってるんだろうな。
 甘く溶かされてしまってからは、だめだめ言っても行動に移すことが出来ない。口先だけ。
 そうなってしまったらもう、ジルに最後まですきにさせてしまうんだろう。

「んう……んっ、ふ、」

 さっきのものより、深い気がする。
 目的が変わったからだろうか。
 もっと欲を煽るもの。
 さっきのものだって、おれからしたら十分だった。腰も躰の中心も熱くなった。
 だけど、だけどこれは……

「んあ、ん、っン、うぅ……は、ぁう」

 やだ、いや、こんな、キスだけで、その、だめ、出ちゃう、いやだ、やだ、でも止められたら困る。
 もっとして。もっと、もっと、気持ちいい、嬉しい、ジルのキスはいつも気持ちいい。

「んッ……んう!」

 びく、と躰が跳ねた。自分でそれに気付いてしまい、顔が青くなる。
 うそ、まさか、うそ、

「……っ」

 まさかじゃない。
 出た。キスだけで達してしまった。そんなことある?
 他にどこも、触られてなかったのに。有り得る?

「っ……う、うえ……ううう」

 流石にこれは無理だった。
 情けなくて泣いた。
 ぐしゃぐしゃになって泣くおれに、ジルは慌てたようにごめんと謝る。
 ジルのせいだけどジルのせいでもない。でも。

「ごめん、やっぱり嫌だった?ユキ、ごめんね」
「ちがうぅ、でも、っう、ううう、今日はっ……香油なかったのにい……」

 なのにあんなにあっさりイってしまうなんて。
 あれから自分で慰めたりしてない、だから溜まってただけ。
 そうなんだけど。でもだからといって……

「キスっ……だけでえ……」
「えっそれで泣いてるの」
「だっでえ……!」
「かわいい」
「っえ」
「ユキかわいい、本当に、ユキは何をしてもかわいいね」
「え、え、っちょ、えっ、待っ……」

 嬉しそうに瞳を細めたジルは、今度こそ止まることなくおれの服を剥いでいく。
 止めても無駄だった。
 さっき大丈夫だから手を出してくれたんだよね、と言われたら、その通り過ぎて言い返せなかった。
 そうだよ、最後までやる気だった。
 だから別に、いいんです、大丈夫なんです、でもやっぱり恥ずかしいんです。

「あっ、ま、見ないでっ……」
「ふふ、かわいい」
「やだあ……」

 既にぐちゃぐちゃの下半身を撫でてジルが笑う。
 こんなの恥ずかしすぎて泣くに決まってる。
 それでもやっぱり楽しそうに、涙を拭くおれの腕を退かせて、ジルの長い指が拭う。
 わざわざする行為ではないと思うんだけど。

「ユキ、かわいい、こっち見て」
「う、うう、や……」
「今ユキに触ってるのは誰?」
「ジル……」
「うん、もっと触ってもいい?」

 だめなんて言える雰囲気ではない、し、そう望んでるけど。
 口と首は素直に動かなかった。

「や、やだ、」
「嫌?止める?」
「やだあ……」
「じゃあ触ってもいいよね?」
「んううう……!」
「ね、ユキ」

 触ってる、既に触ってる。
 滑るように頬、肩、腕、脇腹、と順に触ってる。
 そしてそれだけでも反応してしまう単純な躰。
 本当に、本当にこんなんじゃなかったのに。
 肩とかお腹とか、こんなに触られてぞくっとしたりなんかなかったのに。
 なのに、ジルが触るから。

「んっ、んん、わかっ……わかった、あ!」
「ありがとう」

 涙を吸い取られるんじゃないかと思うくらい、目尻に何度も唇を落として、ジルが優しく呟く。
 おれに触れることへの許可にお礼なんてなくてもいいのに。

「んあ、っ」
「この間はここ触り過ぎて泣かせちゃったから、今日は少しにしておこうね」
「あ、やっ……や……」
「嫌?もっと触った方がいい?」
「その意味じゃなっ……」

 胸元に触れながらわざわざ宣言するジルに、羞恥を煽る天才かとまで思ってしまう。
 だってなんか、女じゃないのにって思ってしまって、下を触られるより恥ずかしくて仕方なくなる。
 男だって気持ちいいのかもしれないし、ていうか実際そうなんだけど、それでも恥ずかしい。

「この辺にしておく?」
「んっ、ん、うんっ……」
「ユキはこっちの方がすき?」
「んうっ……!」

 腰に触れて、そこから中心を握るように触られた。思わず全身を揺らしたおれに、ジルが口許を緩ませた。
 すきかと言われると答えるのに躊躇する。そういう話ではない。
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