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「今朝も言ったけど」
「……?」
「ユキに甘えられると嬉しいんだ」
「……聞いた、けど」
おれが甘えてなんの得があるんだろう。
いや、おれは甘やかされて得はあるよ、恥ずかしいだけで。
でもジルになにがプラスになるんだろう。
もう外は真っ暗で、いつもならもう寝てる時間だ。
それなのに、おれの頬を撫でるこの男は陽射しのように眩しい。
眩しくて眩しくて、目を細めてしまう。
ずっとずっと、ジルの瞳がおかしいんじゃないかなって思ってたけど。もしかしたら本当におれってそれだけの魅力があるんじゃないか。
……そんな訳はない。やばい。だめだ、ジルの話は本気にしたらだめ。流さなきゃ。
話半分にしなきゃ。
「じゃあ甘えよっかな……」
「うん?」
「ねむいから、もう寝よ」
「……そうだな、明日もユキは忙しそうだ」
上手いこと朝の失言をどうにかすることが出来たぞ。上手いことかわからないけど。
でもなかなか自然な気がする。うん。
……今その、ジルに抱かれてしまったら、絶対に変なことを言う、余計なことを言ってしまう。
だから、おれは……それだけは避けなきゃ。
少しくらいのスキンシップは我慢だ。
我慢。気持ちいいけど。
「……おやすみ」
「うん、おやすみ……」
まだ触れたままのジルの手を掴んで、目許を覆った。
暗くなる視界とあたたかい手のひら、おれを隠すのに丁度いいと思ったから。
◇◇◇
「おはようございます」
「おはようございます!うす!」
「元気ですねえ」
「大体元気です!」
朝食後、とわざわざ別館まで来てくれたセルジュさんにおれのやる気を見せつける。
別にめちゃくちゃやる気がある訳ではないんだけど、やる気ありますよってアピールはしてしまうんだよね、これ普通だよね。
今日のセルジュさんは長いプラチナの髪をひとつに纏めていて、もうこんなの綺麗なお姉さんじゃん、近所にいたらすきになっちゃうやつじゃん。
昨日のイメージよりなんかその、ちょっと髪型や服装が違うだけなのに、その、えっ……色っぽいお姉さんに見えた自分を殴りたい。欲求不満なのかな……
「今日は訓練宜しくお願いしまっす!」
「はい、宜しくお願いします」
おれの力では部屋がどうにかなるようなものではないと思うけど、念には念を、一応ということで、庭で訓練することに。
今日もいい天気で、外で何かするには丁度良い。
「といっても、魔力を持ってる方は生まれつきの物なので大体自分で感覚を掴むので、ユキ様のようによくわかってない方は珍しいんですよね」
「……すみません」
「謝らなくて大丈夫ですよ、まずそうですねえ……これは簡易的なものですが」
「……ブレスレット?」
「耐久性はあまりないので、練習の間だけだと思って下さいね」
セルジュさんがつけてくれたのは、綺麗な糸と碧い石で織られた、ブレスレットのようなもの。確かに耐久性はなさそうだけど、とまじまじと見ていると、暫くはこれで魔力が漏れませんよ、とセルジュさん。
なるほど、こういう不思議アイテムもあるのか。
「どうです?何か違いを感じますか?」
「うんん?何もかわんない、かな?」
「躰の中で魔力がぐるぐるしてたり、なにか滞るような」
「わかんないです……」
そもそも魔力云々なんてわからずに生活してきた。
だからかな、全然わかんないや。
わかれば話は早かったんだろうけど。
「ユキ様の魔法はわかりにくいですからねえ……」
「火が出たりしたらわかりやすいんですけどね」
「ふふ、そうですね」
すぐそこで、空気が振動する程近い場所で笑う美人の破壊力ったらない。
照れてしまって少し離れた。
こんなところを見られたらまたジルが拗ねてしまう。
「魔力って目に見えたりするんですかね」
「見えるひとには見えますよ、でもユキ様に見えないのなら意味がないでしょう」
「ですよねー」
「そうですね、じゃあ、イメージしてみましょうか」
「いめーじ」
「瞳を閉じてみて下さい」
「うん」
「今、躰の中に魔力が廻ってますね」
「うん……」
なんか催眠術みたいだな、と思いながら頷く。
笑いそうになるのを堪えて。
「どこから出したらわかりやすいと思います?」
「……やっぱり……手、かな」
「そうですね、じゃあ手を出して、手のひらです」
「はい……」
「私の手はあたたかいですか?」
「え?あ、はい、あったかいです」
「じゃあここに、あたたかいものを集めましょう、出来ます?」
「んん……」
手のひらをとんとんと指でつつかれ、言われるがまま、イメージはするけど、実際出来てるのかどうかわからなかった。
護りの力わかりにくい。
「これ、出来てるんですか?」
「薄らですけど。手のひらに今集まってますよ、これくらい」
セルジュさんが指で表す。ほんのちょこっと、5ミリくらい。
うーん、本当に薄らだ。
でも出来てはいることにかわりはない。
ちょっと待って下さいね、とセルジュさんが何かごぞごそと出てきた。
……ナイフ?短剣?鞘に収まったものだ。
それをそのままおれの手のひらの上に落とす。
鞘に収まったままなので、全く危険ではないのだけど、手のひらに急に感じる重みを待つが、軽く弾かれたように芝の上におちた。
「あっ」
「どうです?手のひらに触れました?」
「や、弾いた、と思う」
「では手のひらに出すことは成功ですね」
これっぽっちを成功と言っていいのかはわからないけど。
でもなんか興奮してしまう。
魔法使えるのってやっぱりわくわくする!
「……?」
「ユキに甘えられると嬉しいんだ」
「……聞いた、けど」
おれが甘えてなんの得があるんだろう。
いや、おれは甘やかされて得はあるよ、恥ずかしいだけで。
でもジルになにがプラスになるんだろう。
もう外は真っ暗で、いつもならもう寝てる時間だ。
それなのに、おれの頬を撫でるこの男は陽射しのように眩しい。
眩しくて眩しくて、目を細めてしまう。
ずっとずっと、ジルの瞳がおかしいんじゃないかなって思ってたけど。もしかしたら本当におれってそれだけの魅力があるんじゃないか。
……そんな訳はない。やばい。だめだ、ジルの話は本気にしたらだめ。流さなきゃ。
話半分にしなきゃ。
「じゃあ甘えよっかな……」
「うん?」
「ねむいから、もう寝よ」
「……そうだな、明日もユキは忙しそうだ」
上手いこと朝の失言をどうにかすることが出来たぞ。上手いことかわからないけど。
でもなかなか自然な気がする。うん。
……今その、ジルに抱かれてしまったら、絶対に変なことを言う、余計なことを言ってしまう。
だから、おれは……それだけは避けなきゃ。
少しくらいのスキンシップは我慢だ。
我慢。気持ちいいけど。
「……おやすみ」
「うん、おやすみ……」
まだ触れたままのジルの手を掴んで、目許を覆った。
暗くなる視界とあたたかい手のひら、おれを隠すのに丁度いいと思ったから。
◇◇◇
「おはようございます」
「おはようございます!うす!」
「元気ですねえ」
「大体元気です!」
朝食後、とわざわざ別館まで来てくれたセルジュさんにおれのやる気を見せつける。
別にめちゃくちゃやる気がある訳ではないんだけど、やる気ありますよってアピールはしてしまうんだよね、これ普通だよね。
今日のセルジュさんは長いプラチナの髪をひとつに纏めていて、もうこんなの綺麗なお姉さんじゃん、近所にいたらすきになっちゃうやつじゃん。
昨日のイメージよりなんかその、ちょっと髪型や服装が違うだけなのに、その、えっ……色っぽいお姉さんに見えた自分を殴りたい。欲求不満なのかな……
「今日は訓練宜しくお願いしまっす!」
「はい、宜しくお願いします」
おれの力では部屋がどうにかなるようなものではないと思うけど、念には念を、一応ということで、庭で訓練することに。
今日もいい天気で、外で何かするには丁度良い。
「といっても、魔力を持ってる方は生まれつきの物なので大体自分で感覚を掴むので、ユキ様のようによくわかってない方は珍しいんですよね」
「……すみません」
「謝らなくて大丈夫ですよ、まずそうですねえ……これは簡易的なものですが」
「……ブレスレット?」
「耐久性はあまりないので、練習の間だけだと思って下さいね」
セルジュさんがつけてくれたのは、綺麗な糸と碧い石で織られた、ブレスレットのようなもの。確かに耐久性はなさそうだけど、とまじまじと見ていると、暫くはこれで魔力が漏れませんよ、とセルジュさん。
なるほど、こういう不思議アイテムもあるのか。
「どうです?何か違いを感じますか?」
「うんん?何もかわんない、かな?」
「躰の中で魔力がぐるぐるしてたり、なにか滞るような」
「わかんないです……」
そもそも魔力云々なんてわからずに生活してきた。
だからかな、全然わかんないや。
わかれば話は早かったんだろうけど。
「ユキ様の魔法はわかりにくいですからねえ……」
「火が出たりしたらわかりやすいんですけどね」
「ふふ、そうですね」
すぐそこで、空気が振動する程近い場所で笑う美人の破壊力ったらない。
照れてしまって少し離れた。
こんなところを見られたらまたジルが拗ねてしまう。
「魔力って目に見えたりするんですかね」
「見えるひとには見えますよ、でもユキ様に見えないのなら意味がないでしょう」
「ですよねー」
「そうですね、じゃあ、イメージしてみましょうか」
「いめーじ」
「瞳を閉じてみて下さい」
「うん」
「今、躰の中に魔力が廻ってますね」
「うん……」
なんか催眠術みたいだな、と思いながら頷く。
笑いそうになるのを堪えて。
「どこから出したらわかりやすいと思います?」
「……やっぱり……手、かな」
「そうですね、じゃあ手を出して、手のひらです」
「はい……」
「私の手はあたたかいですか?」
「え?あ、はい、あったかいです」
「じゃあここに、あたたかいものを集めましょう、出来ます?」
「んん……」
手のひらをとんとんと指でつつかれ、言われるがまま、イメージはするけど、実際出来てるのかどうかわからなかった。
護りの力わかりにくい。
「これ、出来てるんですか?」
「薄らですけど。手のひらに今集まってますよ、これくらい」
セルジュさんが指で表す。ほんのちょこっと、5ミリくらい。
うーん、本当に薄らだ。
でも出来てはいることにかわりはない。
ちょっと待って下さいね、とセルジュさんが何かごぞごそと出てきた。
……ナイフ?短剣?鞘に収まったものだ。
それをそのままおれの手のひらの上に落とす。
鞘に収まったままなので、全く危険ではないのだけど、手のひらに急に感じる重みを待つが、軽く弾かれたように芝の上におちた。
「あっ」
「どうです?手のひらに触れました?」
「や、弾いた、と思う」
「では手のひらに出すことは成功ですね」
これっぽっちを成功と言っていいのかはわからないけど。
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