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この国の王子様が、王太子様が随分かわいらしいことをするものだ。
特におれには大人な、格好良い部分を見せていたからかな、そういうところを急に見せられて、絆されてしまう。
今日のお礼だって。
おれこそ、返しきれないくらいもらっていて、そのお礼をしなきゃいけないのに。
「おいしい」
「!そうか、すきなだけ食べてくれ」
「うん、そっちのも食べたい、取って」
「これはな、この肉汁を使ったソースを」
きらきらした瞳で教えてくれる。
ジルはおれよりずっと大人だと思っていたんだけど、幾つなんだろう。知らないことが多過ぎる。
ジルはおれに歩み寄ってくれてる。
お城とこの別館を繋ぐ渡り廊下だって、多分周りを説得するのも大変だったと思う。おれひとりのために大工事だもん。
おれがお偉いさんなら反対するね、この予算使うとか馬鹿かよって。
そうなんだよな、国の為に使えって話だよな、おれと遥陽の為に、そんな、結構使うよな……幾らくらい掛かるとか知らんけど。
「まだ入るか?」
「……おなかいっぱいになってきた」
「ユキは華奢だからな、無理はしないでいい」
「ん、でもおいしかったよ、いっぱい食べちゃった」
「……ふふ」
「なに?」
「たまにはアンヌを手伝うのも悪くないな、ユキにそう言って貰えるのがこんなに嬉しいとは」
「……!」
いや、そんなべた褒めしたわけじゃないし、普通の感想だし、お手伝い程度だし、普通に美味しかったし、大体アンヌさんの作ったものだし、そんな……
……ジルが初めて手伝った料理ってのが嬉しかったのかな。
おれなんかの為に、そんな、王子様が料理のお手伝いなんて。
……神子様の遥陽にならともかく、なんでジルはこんなおれに優しくしてくれるんだろう。
誤召喚の謝罪にしては、王族自らここまではしないんじゃないかな。
もしかして、もしかしてなんだけど。
いやでも、ジルもおれも男だし。でもやたらかわいいかわいい言ってくるし。
いやいやモーリスさんもアンヌさんも言ってくるじゃないか。ジルだけが言ってる訳では……
「かっ、片付け!しなきゃね!」
「え?ああ、そうだな」
立ち上がって、空いた皿を重ねる。
危ない。危ない危ない、おれはなんか変な方に行こうとしてる。
おれの見よう見まねで皿を纏めるジルに笑ってしまう。
食器の片付けなんか当然やったことないだろうな。そりゃそうだ、さっきのアンヌさんみたいに皆反対するだろう。
うちみたいなお手伝いが当たり前の一般人とは違うのだ。
ワゴンに乗せ、厨房まで運び、皿を水に浸ける。
洗ってしまいたい。
母親なら喜ぶ。寧ろ洗わなければそれくらいしろと怒られる。
でもやっぱりアンヌさんを思い出すと、そこまでおれたちがやってしまったら困惑させてしまうんだろな、と思って、結局そこで手を止めてしまった。
大変そうなら、明日アンヌさんが来たら手伝う。うん。暇だし、それでいいや。
そういえば、いつも自然におれの部屋まで持ってきて貰ってたけど、厨房とは結構距離がある。
近くに食堂とかあった方がいいのでは。というか、なんでないんだろう。
厨房は1階、おれの部屋は2階。ちょっとしたものならトレイで済むけど、ワゴンを使わないと大変なくらいの皿数だ、料理用の小さいエレベーターみたいなものがあるけど、どう考えたって面倒くさい。
おれの部屋にわざわざテーブルを持ってくるくらいなら、やっぱり食堂があった方がいいのでは。
おれだけのために食事を用意してもらうのも悪いし、こうやってジルや、これからは遥陽も来るかもしれない、その度にこんな移動してたら面倒だろう。
応接室とかいらん、ここに客なぞ来ない。あそこを食堂にすればいいんじゃないだろうか。
そうジルに提案してみた。
ユキのすきなようにしていい、とあっさり返される。いいんだ。
「別に気にしなくていいのに」
「それが仕事かもしんないけど、おれは気になんの、ジルだって今日片付けて不便だなって思ったでしょ」
「そういうものか」
「そういうもんなの」
「ふむ……」
少し考えて、そうだな、アンヌが無理をしても大変だし、明日にでも中を片付けさせよう、と言った。
わかってくれて良かった。おれの罪悪感が少しはましになりそうだ。
「おれこのまま風呂入るね」
「湯浴みか、うん、俺も入ろう」
「……えっ」
「丁度良い」
「えっ、え?」
至極普通に言ったつもりだった。
だってまさか王子様が一緒にお風呂入るなんていうとは思わないじゃないか。
確かに余裕で一緒に入れる、でもそんな普通に入るものなのか。銭湯かってくらいあっさり言ったぞ、この世界に銭湯や温泉があるかは知らないけど。
「お、おれと入るの?」
「他に誰が?」
「だめでしょ」
「どうして?」
「どうして、って……王子がそんな誰かと入るとか」
「ユキでも?」
「おれでもって……」
「ユキの躰ならもう見たよ」
「はっ……!?」
そんな話じゃない。おれにはそんな話でもあったけど。でも今話してたのはその話じゃない。
だから恥ずかしがらなくていいじゃない、とおれに笑いかけるジルに、上手く断ることが出来なかった。
特におれには大人な、格好良い部分を見せていたからかな、そういうところを急に見せられて、絆されてしまう。
今日のお礼だって。
おれこそ、返しきれないくらいもらっていて、そのお礼をしなきゃいけないのに。
「おいしい」
「!そうか、すきなだけ食べてくれ」
「うん、そっちのも食べたい、取って」
「これはな、この肉汁を使ったソースを」
きらきらした瞳で教えてくれる。
ジルはおれよりずっと大人だと思っていたんだけど、幾つなんだろう。知らないことが多過ぎる。
ジルはおれに歩み寄ってくれてる。
お城とこの別館を繋ぐ渡り廊下だって、多分周りを説得するのも大変だったと思う。おれひとりのために大工事だもん。
おれがお偉いさんなら反対するね、この予算使うとか馬鹿かよって。
そうなんだよな、国の為に使えって話だよな、おれと遥陽の為に、そんな、結構使うよな……幾らくらい掛かるとか知らんけど。
「まだ入るか?」
「……おなかいっぱいになってきた」
「ユキは華奢だからな、無理はしないでいい」
「ん、でもおいしかったよ、いっぱい食べちゃった」
「……ふふ」
「なに?」
「たまにはアンヌを手伝うのも悪くないな、ユキにそう言って貰えるのがこんなに嬉しいとは」
「……!」
いや、そんなべた褒めしたわけじゃないし、普通の感想だし、お手伝い程度だし、普通に美味しかったし、大体アンヌさんの作ったものだし、そんな……
……ジルが初めて手伝った料理ってのが嬉しかったのかな。
おれなんかの為に、そんな、王子様が料理のお手伝いなんて。
……神子様の遥陽にならともかく、なんでジルはこんなおれに優しくしてくれるんだろう。
誤召喚の謝罪にしては、王族自らここまではしないんじゃないかな。
もしかして、もしかしてなんだけど。
いやでも、ジルもおれも男だし。でもやたらかわいいかわいい言ってくるし。
いやいやモーリスさんもアンヌさんも言ってくるじゃないか。ジルだけが言ってる訳では……
「かっ、片付け!しなきゃね!」
「え?ああ、そうだな」
立ち上がって、空いた皿を重ねる。
危ない。危ない危ない、おれはなんか変な方に行こうとしてる。
おれの見よう見まねで皿を纏めるジルに笑ってしまう。
食器の片付けなんか当然やったことないだろうな。そりゃそうだ、さっきのアンヌさんみたいに皆反対するだろう。
うちみたいなお手伝いが当たり前の一般人とは違うのだ。
ワゴンに乗せ、厨房まで運び、皿を水に浸ける。
洗ってしまいたい。
母親なら喜ぶ。寧ろ洗わなければそれくらいしろと怒られる。
でもやっぱりアンヌさんを思い出すと、そこまでおれたちがやってしまったら困惑させてしまうんだろな、と思って、結局そこで手を止めてしまった。
大変そうなら、明日アンヌさんが来たら手伝う。うん。暇だし、それでいいや。
そういえば、いつも自然におれの部屋まで持ってきて貰ってたけど、厨房とは結構距離がある。
近くに食堂とかあった方がいいのでは。というか、なんでないんだろう。
厨房は1階、おれの部屋は2階。ちょっとしたものならトレイで済むけど、ワゴンを使わないと大変なくらいの皿数だ、料理用の小さいエレベーターみたいなものがあるけど、どう考えたって面倒くさい。
おれの部屋にわざわざテーブルを持ってくるくらいなら、やっぱり食堂があった方がいいのでは。
おれだけのために食事を用意してもらうのも悪いし、こうやってジルや、これからは遥陽も来るかもしれない、その度にこんな移動してたら面倒だろう。
応接室とかいらん、ここに客なぞ来ない。あそこを食堂にすればいいんじゃないだろうか。
そうジルに提案してみた。
ユキのすきなようにしていい、とあっさり返される。いいんだ。
「別に気にしなくていいのに」
「それが仕事かもしんないけど、おれは気になんの、ジルだって今日片付けて不便だなって思ったでしょ」
「そういうものか」
「そういうもんなの」
「ふむ……」
少し考えて、そうだな、アンヌが無理をしても大変だし、明日にでも中を片付けさせよう、と言った。
わかってくれて良かった。おれの罪悪感が少しはましになりそうだ。
「おれこのまま風呂入るね」
「湯浴みか、うん、俺も入ろう」
「……えっ」
「丁度良い」
「えっ、え?」
至極普通に言ったつもりだった。
だってまさか王子様が一緒にお風呂入るなんていうとは思わないじゃないか。
確かに余裕で一緒に入れる、でもそんな普通に入るものなのか。銭湯かってくらいあっさり言ったぞ、この世界に銭湯や温泉があるかは知らないけど。
「お、おれと入るの?」
「他に誰が?」
「だめでしょ」
「どうして?」
「どうして、って……王子がそんな誰かと入るとか」
「ユキでも?」
「おれでもって……」
「ユキの躰ならもう見たよ」
「はっ……!?」
そんな話じゃない。おれにはそんな話でもあったけど。でも今話してたのはその話じゃない。
だから恥ずかしがらなくていいじゃない、とおれに笑いかけるジルに、上手く断ることが出来なかった。
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