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「そんな訳で仕事していいですよ」
「?どんな訳で?」
「おれは大人しく待ってるんでどうぞどうぞ」
「……では遠慮なく……?」
首を傾げながらジルが仕事机に戻っていく。
おれは空いた皿とカップを纏めて……纏めてこれどこにもってけばいいんだ。
取り敢えずトレイに並べて、いつでも下げられるようにしておく。
厨房に持って行けばいいんだろうけど、ひとりで城内を彷徨く勇気はまだない。仮に持って行けたとしてここに帰って来れる自信がない。
遥陽のとこにパイを持っていくのも同じくだ。
おれはモーリスさんがいないと何も出来ない男なのだ……
片付け以外にやることはなく、横に避けるだけなので早々にやることはなくなってしまい、ただぼんやりとジルを見る。
盗み見るとかちらちら見るとかではなく、それはもうがっつり。
背後の窓から入ってくる太陽、それに反射するようにきらきらと細い金髪が光る。
真剣な眼差しで書類と対峙してるジルはやっぱり絵になる。
今まで見たことのある人間の中で、一番格好良い。一番かわいいのは遥陽だけどね。
視線に気付いて、こちらを見て微笑むジルはギリシャ神話辺りにでも出てるんじゃないかと思うくらい神々しい。背後の陽がまたいい仕事してるんだ。
「その書類っておれ見てもいいやつ?」
「構わないが……まだ読めないだろう」
「読みたい訳じゃなくて……」
ちょっと近付きたいな、と思ったんだけど、重要書類を見られたら困るからこっちに来んなって言われたらショックじゃん。だから最初から訊いておくってわけ。
「暇だから~えっと、その、この部屋色々見ていいかな~って……」
「いいよ、面白いものでもないだろうが」
簡単に許可が降りた。
王太子の仕事部屋をそんな簡単に許可していいのか。実はおれが敵国のスパイとかだったらどうするのか。舐めてんのか。どう考えてもそれはないから許されたのだろうが。舐められてんのはおれか。
まあ実際面白いものは何もない。
資料や本がぎっしり詰まった本棚くらいしかない。
読めないし、読めたとしても面白いものではないのがわかる。
自慢じゃないがおれは漫画と教科書と絵本以外は碌に読んだことがない。
「あ、ここあったかい」
ジルの後ろに回って、思わずそんなことを言ってしまった自分のアホさに嫌になる。
当たり前だ、陽の入る窓際なんだから。
「食べた後だと眠くならない?」
「うーん、あれくらいなら大丈夫かな」
「へえ、お茶も飲んだからかな、おれ今お腹あったかくて寝ちゃいそう」
「はは、寝てていいよ、そこに椅子を持ってこようか」
「いいの、こんなすぐ後ろにおれいたら気が散らない?」
「それはまあ……でもユキは窓際すきだもんね」
猫のようだ、と笑う。
自室や書庫の窓際で昼寝をしてるのをアンヌさん達に見られたことがある。言い逃れは出来なかった。
大きなソファを移動させようとするジルを止めて、小さい方でいいから、とお願いした。
小さい方でも十分ゆったりとしたサイズだ。長時間いる訳ではないんだから、これで十分。
また書類に向かうジルにお礼を言って、今度は斜め後ろからジルを見てみる。
はー、イケメンはどの角度から見てもイケメンですわ。ちょっとの隙くらいあってもいいのに。写真を連写しても不細工な瞬間とかなさそう。
「ねえジル」
「うん?」
「おれ話し掛けて邪魔にならない?」
「ユキとの会話は楽しいよ」
会話が成立してない。
……のだが、話し掛けても問題はないということで、ぽつぽつ質問を投げ掛けてみる。
「遥陽元気?」
「ハルヒは今朝こっちに戻ってきたろう?そんなに変わってないと思うよ」
「……遥陽を呼んだひとは助かった?」
「ああ、今頃ゆっくり寝てるだろう」
なるほど、やっぱり病人か怪我人で呼ばれたのか。
誰かは知らんけど良かったですね。
「遥陽はいつまたおれに会いに来れるかな」
「それは……いつかわからないが、ハルヒがユキともっと簡単に会えるようにするつもりだよ」
「ほんと?どんな?」
「別館とここを繋げる渡り廊下を作ろうと思ってね」
渡り廊下。
考えてもみなかった。工事必要じゃねーか。
「え、誰でも別館に来れるようにするってこと?」
「誰でもとはいかないかな、俺とハルヒとユキにだけ鍵を持たせよう」
「あ、鍵もあるのか」
確かにそうしたら、このだだっ広いお城の廊下を長々歩いて、お城を出て別館に移動して、という手間が省ける。
別館は隣だというのに、移動するのに時間がかかりすぎるのだ。
「そうしたらハルヒも俺もユキに会いやすくなるだろう?」
「そうですね」
「俺もユキの寝顔もいつでも見に行けそうだ」
「寝顔って……」
仕事で帰りが遅くなるあまり子供と会えない父親みたいな。
「でもそしたら、おれもジルの仕事っぷりをいつでも見られるってことだね」
「!」
まあこの部屋に来るのは大変そうだけど。でもまあそういうことだよね。
振り返ったジルは驚いたような顔をしていたけど、すぐに笑顔になって、こんなにかわいい猫が来てくれるならいつでも大歓迎だ、と言った。
相変わらず、恥ずかしいこともさらっと言っちゃうんだから、王子様ってやつは。
「?どんな訳で?」
「おれは大人しく待ってるんでどうぞどうぞ」
「……では遠慮なく……?」
首を傾げながらジルが仕事机に戻っていく。
おれは空いた皿とカップを纏めて……纏めてこれどこにもってけばいいんだ。
取り敢えずトレイに並べて、いつでも下げられるようにしておく。
厨房に持って行けばいいんだろうけど、ひとりで城内を彷徨く勇気はまだない。仮に持って行けたとしてここに帰って来れる自信がない。
遥陽のとこにパイを持っていくのも同じくだ。
おれはモーリスさんがいないと何も出来ない男なのだ……
片付け以外にやることはなく、横に避けるだけなので早々にやることはなくなってしまい、ただぼんやりとジルを見る。
盗み見るとかちらちら見るとかではなく、それはもうがっつり。
背後の窓から入ってくる太陽、それに反射するようにきらきらと細い金髪が光る。
真剣な眼差しで書類と対峙してるジルはやっぱり絵になる。
今まで見たことのある人間の中で、一番格好良い。一番かわいいのは遥陽だけどね。
視線に気付いて、こちらを見て微笑むジルはギリシャ神話辺りにでも出てるんじゃないかと思うくらい神々しい。背後の陽がまたいい仕事してるんだ。
「その書類っておれ見てもいいやつ?」
「構わないが……まだ読めないだろう」
「読みたい訳じゃなくて……」
ちょっと近付きたいな、と思ったんだけど、重要書類を見られたら困るからこっちに来んなって言われたらショックじゃん。だから最初から訊いておくってわけ。
「暇だから~えっと、その、この部屋色々見ていいかな~って……」
「いいよ、面白いものでもないだろうが」
簡単に許可が降りた。
王太子の仕事部屋をそんな簡単に許可していいのか。実はおれが敵国のスパイとかだったらどうするのか。舐めてんのか。どう考えてもそれはないから許されたのだろうが。舐められてんのはおれか。
まあ実際面白いものは何もない。
資料や本がぎっしり詰まった本棚くらいしかない。
読めないし、読めたとしても面白いものではないのがわかる。
自慢じゃないがおれは漫画と教科書と絵本以外は碌に読んだことがない。
「あ、ここあったかい」
ジルの後ろに回って、思わずそんなことを言ってしまった自分のアホさに嫌になる。
当たり前だ、陽の入る窓際なんだから。
「食べた後だと眠くならない?」
「うーん、あれくらいなら大丈夫かな」
「へえ、お茶も飲んだからかな、おれ今お腹あったかくて寝ちゃいそう」
「はは、寝てていいよ、そこに椅子を持ってこようか」
「いいの、こんなすぐ後ろにおれいたら気が散らない?」
「それはまあ……でもユキは窓際すきだもんね」
猫のようだ、と笑う。
自室や書庫の窓際で昼寝をしてるのをアンヌさん達に見られたことがある。言い逃れは出来なかった。
大きなソファを移動させようとするジルを止めて、小さい方でいいから、とお願いした。
小さい方でも十分ゆったりとしたサイズだ。長時間いる訳ではないんだから、これで十分。
また書類に向かうジルにお礼を言って、今度は斜め後ろからジルを見てみる。
はー、イケメンはどの角度から見てもイケメンですわ。ちょっとの隙くらいあってもいいのに。写真を連写しても不細工な瞬間とかなさそう。
「ねえジル」
「うん?」
「おれ話し掛けて邪魔にならない?」
「ユキとの会話は楽しいよ」
会話が成立してない。
……のだが、話し掛けても問題はないということで、ぽつぽつ質問を投げ掛けてみる。
「遥陽元気?」
「ハルヒは今朝こっちに戻ってきたろう?そんなに変わってないと思うよ」
「……遥陽を呼んだひとは助かった?」
「ああ、今頃ゆっくり寝てるだろう」
なるほど、やっぱり病人か怪我人で呼ばれたのか。
誰かは知らんけど良かったですね。
「遥陽はいつまたおれに会いに来れるかな」
「それは……いつかわからないが、ハルヒがユキともっと簡単に会えるようにするつもりだよ」
「ほんと?どんな?」
「別館とここを繋げる渡り廊下を作ろうと思ってね」
渡り廊下。
考えてもみなかった。工事必要じゃねーか。
「え、誰でも別館に来れるようにするってこと?」
「誰でもとはいかないかな、俺とハルヒとユキにだけ鍵を持たせよう」
「あ、鍵もあるのか」
確かにそうしたら、このだだっ広いお城の廊下を長々歩いて、お城を出て別館に移動して、という手間が省ける。
別館は隣だというのに、移動するのに時間がかかりすぎるのだ。
「そうしたらハルヒも俺もユキに会いやすくなるだろう?」
「そうですね」
「俺もユキの寝顔もいつでも見に行けそうだ」
「寝顔って……」
仕事で帰りが遅くなるあまり子供と会えない父親みたいな。
「でもそしたら、おれもジルの仕事っぷりをいつでも見られるってことだね」
「!」
まあこの部屋に来るのは大変そうだけど。でもまあそういうことだよね。
振り返ったジルは驚いたような顔をしていたけど、すぐに笑顔になって、こんなにかわいい猫が来てくれるならいつでも大歓迎だ、と言った。
相変わらず、恥ずかしいこともさらっと言っちゃうんだから、王子様ってやつは。
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