上 下
30 / 161

30

しおりを挟む


 ◇◇◇

「でっっか!」
「ユキ様、こっちですよ」

 お城なんて、前の世界でも写真やテレビで何回も見たし、日本のお城は修学旅行で見学にも行ったことがある。
 その時よりもインパクトが強い。横にでかい。すっごい。
 これ土足で入っていいものなんだろうか、そう悩んでしまうくらい綺麗だった。きらきらしてる。こんなとこに住んでるから王族もきらきらしてるんだろうか。掃除大変だろうな。

「緊張してます?」
「……してる。ここでも髪隠した方がいい?殺される?」
「大丈夫でしょう。気になります?」
「うん、なんか見られてるような」
「そりゃあ目立ちますからね」

 やっぱりこの黒髪は目立つらしい。
 そこら辺を歩いてる従者も明るい髪色だもんな……
 髪を隠してもいいんだけど、外ではなく城内では怪しくてかえって目立つような気がして悩んでしまう。
 ジルの執務室は遠いか訊くと、少し歩くという。
 広いもんな、なんか学校とか役所とか思い出してしまう。全然違うと言えば違うんだけど。

「挨拶とかした方がいいひとがいたら教えてね」
「はい」
「あ、どうも……」
「メイドですよ」
「頭下げられたからつい……」
「ユキ様は擦れ違うひと全員に挨拶しそうですね」
「これが普通だったんだよ」

 こっちの世界がわけわっかんないんだよ。
 なんか偉そうにしてるのは違うだろうしさ。どんな顔して城内歩けばいいかわかんないんだもん。
 向こうでは家族ともだち先生、目が合ったひとに会釈くらいはしたし、それが良い子ちゃんだと思ったこともない。

「ふふ」
「な、なに?やっぱりおかしい?浮く?お城には不釣り合いかな」

 一応今日もジルに貰った服着てきたんだけど。
 モーリスさんが笑ってしまう程おかしいだろうか。

「いえ、小さな子がお使いにきたようで……きょろきょろしたりおどおどしたりしてかわいらしいと思って」
「確かにきょどってるけど子供ではない……」
「ジル様にも見せてあげたいですねえ」

 いえ今からそのジル様に会いに行くんですがね。
 でもそのジルもすぐかわいいかわいい言うから……
 ……今日も言うだろうか。なんか今更になって焦ってきた。
 忙しそうだったし、おれ、邪魔じゃないだろうか。
 何も考えずにきてしまったけど、お茶の時間~なんて言って、仕事中のジルにそんな時間はあるのだろうか。
 というか忙しくさせてる張本人おれでは?どの面下げて休憩しよ!なぞ言えるのだろうか。

「ユキ様?足を止められて……どうされました、疲れましたか?」

 んな訳あるか、これくらいの距離で疲れるとか赤ちゃんか。
 こちとらやばくね気まずくね?って冷や汗かいとるんじゃい。

「やっぱりその……おれ、邪魔じゃあ」
「そんなことないですよ」
「ここここれ、モーリスさん渡してくんない?」
「ユキ様がお渡しした方が喜びますよ」
「考えれば考える程おれ邪魔じゃんて思って……」
「ここまで来てユキ様を帰らせて俺が持ってく方がジル様怒りますよ」
「……怒る?」
「ええ、なので責任持ってジル様に渡しにいきましょうね、もうすぐそこですからね」

 煽ってるのかなんなのか、モーリスさんは子供に言うように腰を曲げて諭してくる。
 知ってんだ、おれ、モーリスさんがいじわる……お茶目だってこと。
 でも断られてしまったことは仕方がない。
 城に行こうと言い出したのはモーリスさんだけど、それに乗ったのはおれだ、腹を括るしかない。

「……もしかしてあの部屋?」
「そうです、よくおわかりになりましたね」

 わかるよそりゃあ。
 大きな扉の前に、兵士みたいな見張りがついてんだもん、絶対お偉いさんが中にいるやつだって。
 あー、でもこれやっぱり絶対空気重いやつ~……
 そんなまた日和ってるおれを置いて、モーリスさんがその兵士みたいなひとに話し掛けていた。
 やばい、心の準備が出来る前にご対面になってしまう。

「ジル様、モーリス様が来られました」
「今忙しいと伝えてくれ」
「聞こえてますけど急用ですよ~」

 切り捨てるようなジルの声に、モーリスさんの少しふざけたようなのんびりした声が返される。
 ジルは今どんな顔をしているのだろうか。
 足の止まったおれを呼んで、中へどうぞ、とモーリスさんに促された。

「ユキ!」
「えっと……お邪魔だと思うんですけど……どうも……」

 恐る恐る入ると、びっくりしたような顔のジルが大きな机の向こうにいた。
 怒っては……ないようだけど。

「どうした?何かあったか?」
「いえ……きゅ、急用とかじゃないんです、けど……」
「なんだ、モーリスじゃなくてユキが来たと言ってくれたら歓迎したのに」
「いやそんなお手を煩わせる程じゃ……」
「こっちにおいで」
「へあ」

 応接間にありそうな立派な机とソファに呼ばれた。
 ……話をする時間はあるのだろうか。

「あの、仕事の邪魔じゃあ……」
「丁度休憩を取ろうと思ってたんだ」

 さっきは忙しいって……それが本音か気遣いかはわからないけど。
 でもおれが見る限りジルは嬉しそうな顔をしている、ので、怒ってはなさそうだ。

「これ……軽く食べられたらって。多目に作ってきたから、後で会えたら遥陽にも……自分で渡せたら一番いいんだけど、会えなさそうならジルから渡して貰えたら」
「ありがとう、……アンヌからかな?」
「……一緒に作ったやつ、です」

 籠の中を覗いたジルがぱっと嬉しそうに笑った。俺のすきなものだ、って。
 アンヌさん、そんなことまでは言ってなかった。ジルは甘いものすきだとは言っていたけど。
 ……ちょっと嵌められた気分だ。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

処理中です...