【完結】召喚失敗された彼がしあわせになるまで

ちかこ

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 え、普通におれ贅沢もんだな、文句言ってるの割と最悪な奴じゃん。しかも国の王太子に暴言吐いてるときた。
 気付いてしまい、ひとりであわあわしていると、遥陽は真面目な顔で、別に勉強とかは嫌じゃない、と口を開いた。

「……周りの態度から見て、やっぱり僕の存在は貴重みたいだし。前の世界に戻れないなら、仕方ないなって思う。……でもやっぱり、僕、優希と会えないのがいやだ」
「遥陽……」
「この世界で一番信頼出来るのが優希なの。だから優希と離されたくない。いつでも……は無理でも、普通に優希と会えるようにしてほしい」
「そんなことでいいのか!?」
「そんなことでも今までさせてくれなかったんでしょ」

 下げていた頭をぱっと上げたティノに嫌味を言っておく。おれだって遥陽に会わせて貰えなかったからね、これくらいの嫌味は許されるでしょ。

「……その通りだ、すまない」

 気の強そうな顔をしてるな、と思ったんだけど、案外素直に謝って来るひとだ。
 しょんぼりしてるのちょっと面白い。
 だいじなだいじな神子様を怒らせたのが悪いよね。

「ユキの部屋を向こうに用意させてる」
「エッやだ」
「!?」
「えー、だってそれお城の方にいけってことだよね?やだな……」

 そこまで言って慌てて口を噤んだ。
 その嫌なところに遥陽はいたってのに自分勝手なこと言ってしまった、馬鹿。

「……ユキはここがこわかったのでは?」
「夜はね、でもお城の方だってそれなりにこわいよ、どこでも寝首欠かれる恐れがあるし……ここはそれ以外は結構その、気に入ってる」
「!」
「あ、でもおれの為にアンヌさんたちやモーリスさんに余計な仕事増やしてるのか」
「それは構わない」

 構わないんだ、即答だったけど。
 でもそれならやっぱりここにいたいな、お城の方は面倒くさそうだし、偉いひともいっぱいいるだろうし、何よりおれのことをよく思ってないひとが多いだろう。
 そんなとこには数日だって気を遣うのに、ずっとなんていたくない。

「遥陽がこっちに来ることは?部屋作ろうよ」
「それは出来ない」
「たまになら、もだめ?」

 ジルの碧い瞳をじっと見つめながら言うと、たじろいだのがわかった。
 ジルはお願いされるのに結構弱い。折れるまで見つめてやる。

「……たまに、なら」
「兄貴」
「ふたりの体調や気持ちが落ち着くなら仕方ないだろう、俺が説得する」

 ティノとふたりでぼそぼそ相談してるのが漏れ聞こえる。
 誰を説得するのか、そういうのはわかんないんだけど。
 そこら辺はおれたちがどうこう言えるとこではないし、知らないこと過ぎる。
 でも遥陽の方を見て、笑顔を向ける。
 おれたちの勝ちだ!


 ◇◇◇

「ジルたちも来るからご飯豪華だったんだ……」

 おれたちの話し合いが終わるのを待ってたかのように4人分の食事が運び込まれ、あれよあれよという間にセッティングも終わり、豪華な昼食が並んだ。
 食べ切れないくらいの量に、おれと遥陽は詰め込むだけ詰め込んでみたけど、案の定食べきれなかった。
 こっそりモーリスさんに訊いてみたら、手を付けてないものは皆で食べたりするらしいから……うん、美味しいものを皆で食べれて良かった、無駄にはなりませんよってことかな。
 余り物って考えると気になっちゃうんだけど。

 今は中庭にお茶を用意して貰ってるところ。
 今日も綺麗に甘い香りの花が咲いてる。
 お腹いっぱいで、問題も粗方解決して、風が気持ち良くて、隣の遥陽があったかくて眠くなっちゃう。

「遥陽がご飯食べられて良かった」
「まだ元通りって訳にはいかないけど。でも美味しかった」
「また食べに来て」
「うん……寝に来てもいいんだよね?」
「もちろん!」
「へへ……」

 照れくさそうにおれの腕にぎゅうとしがみつく遥陽。
 あー、やっぱり天使、羽根が見えそう。
 今日もここにいていいんだろうか、お城に戻されちゃうかな……

「ユキ様、お代わりは大丈夫ですか?」
「あっいただきます!」

 アンヌさんが熱いお茶を淹れてくれる。
 なんて種類かは知らない。前はお茶なんてそんなに飲まなかったし、そもそもこの世界で同じ種類があるかなんてのもわからない。
 ただ甘いのが良いと伝えて、アンヌさんにお任せしてる。
 この世界のジュースは果物とかのフレッシュジュースだ。美味しいけど、軽く飲むにはお茶が良かったし、ここに来てずっとお茶ばかり飲んでるからか、結構すきになってきた。大人になった気分だ。

「砂糖そっちだっけ……あっ」
「……!」

 完全におれのせいだった。
 余所見をした瞬間に、手が触れてしまって、カップを膝の上に落としてしまった。

 淹れたて熱々のお茶。
 うわ火傷する、という気持ちと、そこまでじゃないだろうし、まあ怪我しても遥陽がいるし、という気持ちと、あ、この服ジルに貰ったやつ、という気持ちが一瞬の間に頭に浮かんだ。

 ぱしゃっとお茶とカップが跳ねて、芝生の上に転がった。

「……?」
「今」
「……弾かなかった?」
「……そう見えた」

 遥陽と顔を見合わせる。
 アンヌさんとジルが慌てて大丈夫かと寄ってきて、染みひとつない膝の上を見て、あらと首を傾げた。
 お茶を弾いたのはおれと遥陽しか見えてなかったようだ。
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