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「……」
ぼんやりとした視界の端に、テレビでしかみたことないような……あれはシャンデリアでいいんだろうか、大きな灯が見える。
壁紙も、置いてる小物もやたらきらきらしたものばかりだ。
心の中で、センスわりい、と思ってしまった。
「起きた?」
柔らかい声にびくっとして、ベッドの端の方へ飛び退いてしまった。
え、あれ、おれなんでベッドの上にいるんだ?
「……遥陽!」
思い出した。
知らないところで目を覚まして、遥陽がどっかに連れていかれた。
そんでおれは動けなくて、多分……倒れた?
「……すまない、驚かせてしまったね」
「ち、近付かないで」
声の主はさっきの金髪の人だった。
最初は大丈夫な人だと思ったのに、助けてくれなかった。目を背けた。
……信用なんて出来ない。
「ここ、ど、どこですか、遥陽は」
「……そうだね、混乱させてしまったね、良ければ説明させてくれないか」
「あ、当たり前です、説明してくれなきゃ……意味、わかんない」
ふ、と笑った金髪の人。
見たことないくらい、顔の整った人だった。
すっげーイケメン。いや油断するな。
彼が言うには、おれ達は『召喚』されたらしい。
神子を呼び出したところ、遥陽が召喚されて成功。
なのにおれというおまけがついてきた。
この国では、黒髪黒目は不吉らしくて、それがどうやら『失敗』なのだという。
……日本人では普通なんですけど。
たまたま遥陽が色素が薄いだけで、おれの髪も瞳も普通なんですけど。何があるというのだ。
「……神子とかそういうの、わからないんですけど……は、遥陽は……その、わ、悪いことは……されませんか?」
「されないよ、神子様だからね、大事に扱われるよ」
「……神子っていうけど……遥陽、普通の人間、学生ですよ……かみさまとか……なんも出来ないからって、なんかされたり、しないですよね……?」
「便宜上そう呼んでるだけだからね……過去の神子様も年齢性別も関係なかったよ」
「……遥陽がいたい目にあったりしなきゃ……いいんですけど」
返事がなくて、どうしたんだろうと顔を上げると、目を細めて優しい顔でおれを見ていた。
どきっとしてしまう。
イケメンのその表情は反則だ。
「ど、どうし……」
「いや、君はさっきからハルヒのことばかりだと思って」
「だって連れていかれちゃったし……心配じゃないですか……今どんな目にあってるか……遥陽、あいつ、すぐ泣くし……」
「大丈夫だよ、丁重に扱うからね……泣くようなことは何もされないよ」
召喚する程だ、よっぽど神子様とやらは珍しいんだろう。
それなら折角召喚した神子様は大事に扱われるだろう。
……そう考えたら少し安心した。
今すぐにどうこうされることはないってことだ。
それなら暫く様子を見て逃げれば……逃げれば……逃げられるのか?どこに?召喚されて、元の世界に帰れるものなのか?
「おれは……おれのことを呼ぶつもりなかったなら、帰れるんですか……?」
首を横に振られた。
「召喚は出来るが、向こうに帰る方法はわからない」
「……!」
じゃあ、おれも、遥陽も帰れない。
遥陽に神子としての役割があるなら、失敗のおれは?
……処分されたりするんじゃないか?
自分の考えに鳥肌が立つ。
だってさっきの反応。
遥陽だけいればよくて、おれは不吉で、失敗で、いらない奴。
殺されたり、とか……
「こ、殺されますか……?」
「え?」
「おれ、いなっ……居ない方が、良かったんですよね……?」
「大丈夫、そんなことはさせないよ、君に迷惑を掛けてるのはこちらの方だ、君がこの世界で不自由なく暮らせるよう保証する」
「……保証」
「ここは別館なんだが、君のものにしよう」
「……へ」
そんなあっさりと。
別館って言っても、何か高そうなんですけど。
実はこのベッドもすげーいいやつですよね?
ふっかふかなんですけど……
「それと、明日には俺の信用出来る者をよこそう」
「あ、あの、えっと、貴方は」
「ジルと呼んでくれたら」
そういう意味じゃないんだけど。
でもにこりと君は?と訊かれて、聞き返すことが出来ずに、優希、と答えると、宜しく、と手を出された。
「え、あ、よ、よろしく……えっと、ジル……さん」
「ジルでいいよ、ユキ」
「じ、ジル……」
どう見ても年上の、しかも貴族っぽい人を呼び捨てにするのに罪悪感。
でも本人がそう呼べって言うし……
「じゃあ今日はゆっくり休んで。気になることがあれば明日よこす者に訊いてくれ、欲しいものがあれば用意しよう。俺もまた様子を見に来るよ」
そう言って、ジルは立ち上がる。
えっ、外はもう暗い。いくら本館が隣とはいえ、別館におれひとり置いて帰ってしまうというのか。
「えっ、かえ、え、帰るんですか」
「大丈夫、外に見張りもいるよ」
「……でもその人たち、おれ、知らないです」
「……?」
「……ころされるかもしれない」
「そんなことはないよ」
「ひ、ひとりにしないでください……」
こんなこと言うのは恥ずかしい。いい歳して。
でもこんな状態で、遥陽以外に信用出来る人なんて居ない。
今おれに親切にしてくれたのはジルだけなのに。
なのにジルまでいなくなって、こんな広い別館にひとりにされたら……
そう思うだけでこわくて涙が出てしまう。
情けない。
でも今は、思ってたよりもその、精神が弱ってるみたいで。
だって仕方ないじゃん、召喚されて、帰れないってわかって、遥陽と離されて、おれは邪魔なだけで、嫌われてて、殺されるかもしれなくて、こんな、知らない世界にひとりぼっちみたいで、そんなの、心細いに決まってるじゃないか。
「……すまない、俺の配慮が足りなかった。そうだな、朝までここにいよう」
おれの涙を拭い、少し悲しそうな表情でそういうジルは、昔話の王子様みたいだ、と思った。
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