【完結】イヴは悪役に向いてない

ちかこ

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伊吹は

22*

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 息を呑んだのは、有都さんだったか玲於さんだったか。
 お願いを無事に口にしたおれはもうどうでもよくなっちゃって、玲於さんの首に回した腕に力を込めた。
 力なんて殆どなかっただろうけど、それでも玲於さんは近付いてくれる。
 少しでも離れてるのが勿体ない。背中には有都さんがぺったりくっついていて、今まさにお腹の奥の方に玲於さんが入っているというのに我儘が過ぎる。

「伊吹」
「んう」
「舌出して」
「……苦しくなるからいや」
「誘ってるようにしか見えないんだけど」
「ゆーとさんとして、ちゅう」
「お前が首絞めてるから有都に届かねえなあ」

 くすくす笑う声がお腹に響く。
 嬉しくて、でもちょっとだけむっとした。
 唇を突き出して、すぐそこの玲於さんに触れるだけのキスをする。それからその頭を少し避けて、今度は有都さんの頭を寄せた。
 こちらもくっついて、すぐに離れるだけの軽いキス。それだけでふふふ、と笑ってしまう。

「何、お前が代わりにしたってこと?」
「んふふ、間接ちゅーだ」
「ねえ、今日はこれで終わりなのにかわいいことばっかりしないでよ」
「有都さんももっかいする……?」
「しないよ!もう、早くふたりともイっちゃってよ」
「ぅあ……!」

 おれのモノから手を跳ね除け、有都さんの手がそこを掴む。
 びくんと腰が跳ねて、ナカの玲於さんをぎゅうと締め付けた。
 不意打ちだったからかな、玲於さんの漏れた息に心臓がきゅっとなって、それを隠すように動いて、と懇願する。
 動いてなくたって、ナカの方、いっぱいで気持ちよくて、でも動くともっと気持ちいい。
 さっき変なこと口走ってしまったからかな、奥の方、とんとんするのが多い気がする。
 そうされると、玲於さんのをまたぎゅっとしてしまって、その繰り返し。

「ゆう、と、さん、手ェ……離し、てっ」
「気持ちいいでしょ、ね、伊吹」
「んっ……きもちい、から、はなしっ……」
「やだ、僕にも気持ちよくさせて」
「やっ、出ちゃ、イっちゃうから……っあ、いっ、いっしょ、がいいのにっ」
「だから玲於さんももうそろそろだってば」

 かお上げて、と俯いた頭を上げさせられる。
 ばちっと視線のぶつかった玲於さんは、さっきよりずっと、もう我慢出来ないというかお。
 おれで気持ちよくなってる。
 そんなのはちゃんとわかってた筈なのに、そう意識すると、ぶわあ、と何かがせり上がってきた。

「ン……!」
「下向かないで、気持ちいい伊吹めちゃくちゃかわいい」
「んや……」
「かわいいねえ、伊吹、かわいい」
「ゆわなっ……」
「嘘、聞きたいでしょ?名前呼ばれてかわいいって言われる度に玲於さんのきゅうきゅう締めて。はあ、かわいい、伊吹がいちばん、誰よりもかわいい、だいすき、かわいいね、伊吹、かわいい」
「んうう……」

 かわいいの洪水に飲み込まれてしまいそう。
 甘ったるくて、ふわふわした柔らかい声で、何度も、何度も、何度も。
 今は玲於さんとしているのに、有都さんにも抱かれてるような、不思議な感覚。
 皆一緒に混じるかのような。

「あっ、あう……あ、ンん、も、むり……っ」
「かわいい伊吹、もう我慢出来ない?」
「んっ、むり、できないっ……あ、ゔ」
「玲於さんにお願いしよっか、」
「おねが、い……」

 有都さんが下腹部に触れた。背中がぞく、となって、撓ると自らその手にお腹を押し付けたようになってしまう。
 ずっと声も、精も押し出されるように漏れてる。喉も下半身も、ずっと気持ちいいっていってる。

「れおさん……っ」
「うん」
「イきたいっ……あ、い、イく、イきたい……!」
「もう我慢出来ない?」
「できないっ、あ、きもちいのだめ、も、ゆうとさん、触るんだもん……!」
「そうだな、有都も悪いなあ」
「おねが、むり、も、むりい……」

 ぐずぐず鼻を鳴らして、駄々っ子のように首を振る。
 頭のどこかで、こんなこと、したことないのに、と思ってしまった。

「かわいい伊吹はたくさん見れたからなあ」
「……っあ、う、」
「いいよ、ほら、一緒がいいんだろ、奥、突いてやるからな」
「あ」

 おれが奥を強請ったから、奥をゆるゆる突かれているだけだった。
 それを、引いて、突く。
 じわじわしたものが広がっていく。視界がちかちかする。
 頭がくらくらして、触られてない胸がじんじんして、引き止めるようにナカがきゅうきゅう締め付ける。

「あ、あっ、あ……い、ぅ、ンく、う、あっ……あァ……っ」

 頭がまた真っ白になって、それから。


 ◇◇◇

「ンぇ……」
「あ、起きた」

 おはよー、と有都さんの明るい声がして、それにはい、と返して一瞬で覚醒した。
 窓はカーテンが閉まっていて、でも多分陽が透けてないから夜だと思う、まだ。

「……おれ、寝て……」
「うん、十……二十分くらいかな」
「起きてようと思ったのに」
「えー、起きると思わなかったな、伊吹揺らしても起きなかったし」

 寝てる奴を揺らすな、と思いながら横を向くと、瞳を細めた有都さんがライトに負けないくらい眩しい。
 こんな時まで綺麗だな、と考えていると、ふ、と笑って手を伸ばされた。
 びく、と肩を竦めると、髪、と後頭部を撫でる。

「ちゃんと乾ききってなかったから。寝癖になってる……これ寝癖っていうのかな、まあいいや、かわい」
「……っ、」
「大丈夫?怠くない?痛いとか」
「ない……あ、おれ、汚れてるのに」

 エアコンの効いた部屋の中、掛けられたブランケットを慌てて剥ぐと、先程までとは違うシャツが着せられている。
 寝てる間に綺麗にしたよ~、と微笑む有都さんに頬があつくなった。
 べたべただったもんね、綺麗に拭いたけど、朝起きてからお風呂入ろっか、と言っておれの腕を引き寄せる。
 多分これ、下着も履いてる。ということはシャツはまだしも下着も履かせられたということで……いやもっとすごいことしたし見られたんだけど。

「……玲於さんは?」
「洗濯機回すって。あ、お水飲む?」
「飲む……」

 わざわざペットボトルの蓋を開けて渡した有都さんは、おれが水を飲んでる間も離れない。
 飲み終わるとまた蓋をして、それを枕元に投げるように置くとそのまま横になる。勢いよく倒れたせいで少し跳ねた。

「あの、その、寝てごめんなさい……」
「なんで謝るの?かわいかったよ、寝てる伊吹」
「……それは見たことあるでしょ」
「躰拭ってる時さ、寝てるのにちょっと声出ちゃうの。本当に寝てる?ってくらい」
「そんなの忘れて……」
「やだ、かわいかった、伊吹」

 ぎゅう、と強く抱き締める有都さんに、痛い、と思いながらも満更でもない。
 何度も名前を呼んで、かわいいを繰り返す。ベッドの上での戯言なんて、冷静になった今は繰り返されても恥ずかしいだけの筈なのに。
 かわいいかわいいと落とされるキスに、なすすべもなくされるがままでいると起きたのか、と驚いたように玲於さんも寝室へ戻ってきた。
 ぎし、とベッドに腰掛けて、水は、と訊く。飲んだ、と首を振ると、そうかと髪を撫でてくれた。ぼそりと寝癖、と呟いたのは聴き逃してない。
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