【完結】イヴは悪役に向いてない

ちかこ

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伊吹は

18*

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 咥内に侵入してきた舌先を押し返すと、そのまま噛まれてしまう。ぢゅう、と音がするくらいに吸われて、腰がびりびりした。
 もう、おれがそれ弱いの、知ってる癖に。噛むのも、吸うのも、口の中、いっぱいになるのも。
 でも今じゃない。苦しい。有都さんを気持ちよくさせるって言ったのに。なんでおれに?
 有都さんにキスしたらいいのに。気持ちいいけど。気持ちいい。
 苦しいのに。
 気持ちいい。

「ん、ゔ……ゔぅ、ン……っは、ゔ、ん、あ、れお、さ、う」

 唇が離れてもまた戻される。口もお腹も、全部気持ちいい。
 くらくらする。気持ちいい。
 耳を犯すようなぐちゅぐちゅいう音も、玲於さんの吐息も、すぐ近くで感じる有都さんの熱も。
 ぐっぐっと押し付けられるような動きが抽挿に変わる。
 有都さんの呼吸が荒くなって、玲於さんのおれを撫でる指先が優しくなる。

「……ッ」

 ぎゅう、と玲於さんのシャツを掴む指先に力が籠る。
 本当にもう、息が出来ないくらい、気持ちいい。
 ナカ、潰されて、擦れて、あつくて、もう我慢出来ない。
 指よりずっと、気持ちいい。

「は……っ、あ、だめ、んっ、や、ほんとにっ……あ、出る、れおさんっ……んぅ、う、ちゅ、あ、キス、すんの苦しい……っ」
「……っ、」
「あっ、や、ゆぅ、とさ……っそこばっか、あ、イっ、ちゃう、ってばあ……!」
「そうしてん、のっ……」
「ぅあ……っ」

 漸く玲於さんを引き離すことに成功したと思ったら、今度は有都さんが追い詰めるようにイイトコを狙ってきた。
 そこばかり押されると、もう馬鹿になってしまうくらい何も考えられなくなる。
 もうイきたいってことばっかり。
 もうだめだ、本当は、その、初めてだし、ちゃんと有都さんの方、見たかったけど。
 そんなこともう出来ない。

「あ、あ……や、ぅ、イっ、あ、ん……っ!」
「ん……っ」

 ぎゅっと玲於さんに抱き着いたまま躰を震わせる。
 頭が真っ白になって、足に力が入らなくなって、シーツに腰が落ちた。
 大丈夫かと頬を撫でられるだけで甘ったるい声が漏れてしまう程、今は敏感になってしまってる。

「苦しかったか?息、出来るか」
「んゔ……」
「ごめんな、有都が俺と伊吹がくっついてる方が興奮するから」
「ここまで苦しそうにさせることないでしょ」
「興奮した癖に」
「……」

 痛がるところは見たくないと言ってたのにな、と揶揄うように玲於さんは笑って、ぐったりしたままのおれの額にひとつ唇を落とした。
 巻き付けていた腕を外して、そっとベッドに横にさせてくれる。玲於さんの硬い膝枕付きで。

 髪を梳いて、もう一度大丈夫かと穏やかな声で訊く。息苦しくさせた張本人が。
 でももう睨む元気もなくて、小さく頷くのが精一杯だった。
 すっごかった。
 前世の方が気持ちよかったかな?気のせいかな?なんて思ってしまったことに謝りたいくらい気持ちよかった。
 お腹……お腹のとこ、ぎゅーってされると気持ちよかっ、……あれ?

「……ナカ」
「え、ごめん、痛い?」
「なんか足んない……」

 下腹部を撫でるおれに慌てたように有都さんが自身の手を重ねる。
 ぴく、と腰が揺れてしまって、あんなことしたあとだって、それでも恥ずかしい。

「足んない、って……」
「……それ、ゴム?」
「え、あ、うん」

 見ないでいいから、と口を縛ったそれを小さなゴミ箱に捨てる。
 いつの間に、と漏らすと、そりゃあするよ、と返ってきた。

「……前はしなかった」
「それは僕たちじゃなくてアルベールとレオンでしょ」
「そうだけど……前はナカで……」
「……あの世界と今は違うでしょう、魔法なんてないんだし……それこそお腹、痛くなっちゃうよ」
「痛くなるの?」
「……なるの」
「妊娠とかしないのに?」
「しないからだよ、男と女の作りは違うの。ってか性別関係なしにそこはそういうもんなの」
「そうなんだ……」

 知らなかった。
 だってナカに出して、ってそういうやつでは定番だと思ってたから。男同士のなんて、見たことなかったし。……知らなかった。
 少し呆れたように、心配になるなあと息を漏らした有都さんに玲於さんが笑う。
 なあんだ。
 そこが妊娠する場所じゃないのは流石に、いや当然知ってたし妊娠なんてしたら困るけど、ちょっと残念。
 あのお腹の中があったかくなるのは悪くなかった。ふたりが自分で気持ちよくなってくれたのがわかって嬉しくて良かったのに。

「無理をさせたなら今日は終わりと思ってたけど」
「え、やだ、玲於さんまだ……」
「うん、足りないなんて言えるならまだ大丈夫だな」
「……それは意味が違う、けど」

 正直いっぱいいっぱいではある。でも今日は絶対玲於さんも一緒じゃないとだめだ。
 思わず玲於さんの手を掴むと、その手を握り返して、あと一回頑張れるな、と訊いてきた玲於さんに頷く。
 大丈夫、我慢とか頑張るとかじゃなくて、おれもしたい。

「でも、あの、足、その……た、立てない、かも」
「足に力が入らない?」
「うん……」
「躰が痛いんじゃないよね?じゃあ僕に凭れようか、背中がある方が楽でしょう」

 僕も触れるし、だなんて余計なことまで言って、おいで、と有都さんが呼ぶ。胸がきゅっとした。
 玲於さんもそうなんだけど、でもおれ、有都さんにそう呼んでもらうの、すき。これはアルベールを引き摺ってるせいだと思うんだけど、許してほしい。
 やらしいことをされるとわかっていながらその腕に収まるしか選択肢はない。
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