【完結】イヴは悪役に向いてない

ちかこ

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伊吹は

15*

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 髪を梳くように撫でられて、今から始められる行為もわかっているのにうっとりと瞳を閉じてしまう。普段は……いや、いつも少し雑なところがあるのに、おれに触れる手は繊細な気がした。
 有都さんに背中を向けて、玲於さんの胸に収まってる状態。その状態では有都さんを受け入れることは出来ない。
 腰を掴まれて、余韻も何もなく膝立ちにさせられる。
 すぐ耳元で、力を抜いて、と囁かれて変な声が漏れた。ふたりの笑い声が聞こえる。この体勢、ふたりが近い。

「……ッ」
「かおを隠すな」
「やっ」
「やじゃない、有都に快くしてもらうとこを見せてもらわないと」
「おっさん……!」
「なんとでも言え」
「んう」

 そう言ったって、唇を塞がれてしまっては悪態も吐けない。
 頬を掴まれて上げられたかおは、その唇が離れてしまったら存分に見られてしまうんだろう。
 ならずうっとキスをしていればみっともないかおを晒さずに済むのでは?
 そんな考えはものの数秒でどっかにいってしまった。

 ひとつ。玲於さんの舌が入ってきた。気持ちいいけど急過ぎて息苦しい。口の中がいっぱいで、嬉しいけど。気持ちいいけど。苦しい。
 ひとつ。有都さんもナカに入ってきた。挿入れるよと声掛けはあったけれど、伊吹としては初めての圧迫感に驚いて玲於さんの舌を噛んでしまうかと思った。

「ンゔ、う、ふ……ぅあ、ゔ」
「痛くない?大丈夫?……答えられないか」
「う、」
「でもいちばんきついとこは挿入ったから。あと少し」
「んうう」
「玲於さんのキス、気持ちいいね?」

 有都さんが髪を撫でる。ついさっきまで、玲於さんが撫でていたところ。
 そしてゆっくりゆっくり、優しく、でも少しでも進めていこうとしてるのがわかる。
 有都さんを受け入れると同時に、腕をついて玲於さんから離れようとした。これは無理だと思った。窒息する。
 でももうその手に力なんて籠らない。軽くどん、と叩くとやっと唇が離れてくれた。
 その頃には自分のかおがみっともないとか、見ないでほしいとか、離したシャツが汚れてしまうどころか玲於さんの着ているシャツも汚してしまったとか、もうそんなことは考えられなくて、ぜえはあと息をするだけで必死。
 そんな姿を見てか、玲於さんがふ、と笑った。

「わ、らっ……」
「違う、嘲笑じゃない」
「ン……ぁ、っう」
「心配してたより気持ちよさそうで良かった」
「へあ……」
「どうだ、有都のは」
「ぅあっ……」

 だからそういうところですよ、と有都さんは悪態を吐くけれど、行為自体はその言葉に応えるようにナカを抉るものだから、つい。勝手に、声が出てしまう。
 素直にかわいいと言ってあげたらいいのに。そう呟く声が優しくて、耳がどろどろになってしまいそうだと思った。
 玲於さんは揶揄うようなことを言う癖に、細めた目元は酷く優しい。
 ばかになんてしてない。言葉通り嘲笑も。
 みっともない、情けないかおだなんて言わない。
 おれの唇に触れて、もう一度、気持ちよさそうで良かった、と呟いた。

「玲於さんが執拗いくらい慣らしましたからね」
「お前もそれは同意だったろう」
「僕は伊吹が痛がってるところなんて見たくないですから」
「俺だってそんな趣味はない」
「どうだか」
「っあ、あう……」

 口喧嘩のようなじゃれあいのようなやり取りの間もゆっくり有都さんが躰に沈んでいく。
 引き攣るような少しの痛みと、圧迫感。
 じわじわと気持ちいい、という感覚もある。玲於さんが見つけたおれのイイトコも当たってるから、そのせいだと思うけど。

 でも、こんなんだったっけ?もっと、……もっと、頭がおかしくなるような、そう、頭が真っ白になるような、そんな気持ちよさがあったような気がする。
 思い出補正というやつなのかな?いや、あれはちゃんと気持ちよかったと思う。
 有都さんが下手とかじゃなくて。いや知らないけど。アルベールとレオン以外は、こっちの世界のひとは誰のことだって知らないけど。
 これはおれ側の問題なんだろうか。
 なんかまだ、足りない気がする。お腹、もっと気持ちよかった気がする。さっきはもっと、指の時は……

「ッあ!」
「伊吹は初めてだからなあ」
「ふ、っ……ん、う」
「まだナカだけじゃ上手く気持ちよくならないだろう」
「あ……っ」
「でも下はまだ我慢な」

 察してなのかどうかはわからない。玲於さんの手が裾から潜って脇腹を撫でた。
 その手はするすると上にあがっていって、きゅうと突起を摘む。
 思わず玲於さんのシャツを強く握り締めてしまった。
 有都さんの息を呑む音が耳に響く。

「……ナカ、締まりました、今」
「ここで気持ちよくなるのは才能だなあ」
「ン……っ、あ、や、引っ張んない、でっ……」

 軽く捻って、離して、撫でるように先を擦る。
 先程有都さんにも触られて腫れてしまったそこは潰すことすら出来るくらい芯を持ってしまったみたい。
 じんじんと熱を持って、じくじく腰に響く。玲於さんが言う通り、気持ちよくなっちゃってるんだろう。

「でも少し、緊張は緩んだかな」
「んう……」
「ナカ」
「……はいった?ぜんぶ?」
「うん」
「……はいるんだ」
「入るよ、そりゃあ……伊吹はもう知ってるでしょ」

 有都さんに言われて、思わずお腹に触れてしまった。
 確かにレオンのあのでかいのも入ったけど。でもやっぱりどこか嘘みたいな、夢のような、そんな感覚もあって。
 今こうやって現実で実際に体験すると、奥の方から何かがせり上がってくるような、言葉に出来ない気持ちが湧いてきた。

 嬉しい、と思わず口をついて出た言葉は、ふたりを驚かすには十分だったみたいだ。
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