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伊吹は

8*

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 きし、と大きなベッドが少し軋む。そこに体重が乗った証拠、玲於さんが移動してきたということ。
 薄目を開ければ、その視線の先に膝が見えてまたぎゅうと瞑る。

 触られる、と思ったのに、その手は伸びてこない。
 有都さんの両手が口元と下半身にあるだけだ。
 ……ここまで来てまさかまだ見るだけ、だというのだろうか。言葉の通り、近くで見る為に移動しただけなのだろうか。
 楽しいって、おれは動物園の猿でも水族館のいるかでもないんですけど。

「ン……ん、っ」

 ぴく、と肩が跳ねた。
 ゆるゆると動かされる手は有都さんのものだ。
 つい先程まで、あと少しで達せるというとこまできていた。
 でも、とシーツを掴む指先に力が入る。今達したら、その、玲於さんのとこまで汚してしまいそうな気がする。
 有都さんの手も自分の腹ももう汚してしまっているけれど、参加してない玲於さんまで汚すのは、なんだか考えただけで火を噴きそうなくらい恥ずかしい。

「はっ……ぁ、う、ンん、」
「わかる?」
「ん、んっ……ゔ」
「ね、玲於さん、伊吹のこと見てるよ、ちゃんと」
「ゔあ……っ」

 反射的に足を閉じた。
 わかっていることだったけれど、そう口にされると、やっぱりそうなんだ、と意識してしまって。
 ぎゅっと瞳を閉じて俯いたままの自分には見えなくても、有都さんも玲於さんも、遠慮なしに自分を見ているんだって。

 有都さんの指のせいで閉じられない口元から、ぱた、と飲み込めない唾液が腿に落ちる。
 シーツを汚してしまう、と口の中の唾液を嚥下しようとして、邪魔な指を舌で押すけれどどうも出来ず、そのまま指先毎吸う。
 有都さんが楽しそうに、上手、と言った。何を褒めたのかはわからない。

「ン……ん、ぅ……んゔ……!」
「ふふ」

 指が増えた。
 止める間もなくその指が口の中を動き回って、もう片方の手は閉じた足をものともせずにおれのものを擦り続ける。
 苦しくって、でも気持ちいい。おれの弱いところはもう全部ばれてるから、誤魔化すことも出来ない。
 赤ちゃんみたい、かわいいね、と囁く声に背中がびく、と撓る。

「ん、っは、う、ゔ、ンあ、あっ、ん……ゔ!」

 ぐ、と足を抱えたままでほんの少しだけ、爪先がシーツを蹴った。
 一瞬頭が真っ白になって、すぐに息の荒さにはっと気付き、下半身に視線をやる。
 達したばかりのそこをまだ握り締める手を慌てて離させると、どろりと白濁した体液がその指と腹を汚した。

「あ、あ……は、う、」
「気持ちよかった?」
「……っ、き、かなくてもっ」
「そうだよね、気持ちいいからイっちゃったんだもんね?」
「~……!」

 良かった、と有都さんは機嫌良さそうにおれの頬に唇を落とす。
 おれはその余韻に浸れず、ティッシュ、と慌てて周りを見渡して、ばっちり玲於さんと瞳があってしまった。ほんの少し、笑っていた気がする。
 気がする、というのはすぐに視線を逸らしてしまったから。だからもしかしたら、おれの見間違いかもしれない。

「玲於さん」
「ん、」
「……?」

 はい、と頭の上で動いた気配がした。逸らした視線をまた上げると、有都さんが汚れた手を玲於さんに向けているのが視界に入る。
 拭いてくれってことかな。おれがまだ膝の上にいる状態だから有都さんは動けない。
 やっぱり退いてティッシュを取りに行った方が、とも思ったけれど、まあそれくらい玲於さんがやってくれるか、とも思う。
 汚した本人だろ、と言われたらそうなんだけど、動きたくないなとそう勝手なことを考えてしまうくらいにはふたりに甘えてしまってる。
 ふうふうまだ荒い息を吐きながら、有都さんの綺麗な指先をぼんやり見ていた。
 ……玲於さんが、ティッシュを取りに行かないな、と思って。
 早く綺麗にしてくれたらいいのに。自分が汚してしまった手は見るに堪えない。それでもぬとぬとした粘度の高いそれがいつ手首を伝ってシーツに落ちてしまわないかと見守ってしまう。

「は」

 思わず間抜けな声が出た。
 玲於さんが有都さんの手首を掴み、口をぱかっと開いたから。
 一瞬でその意図に気付いて玲於さんの手を叩き落とした。このひと、おれのもので汚れた指先を舐めようとしやがった!

「何するんだ」
「こっちの台詞ですけど!」
「綺麗にしてやろうとしただけだろ」
「ティッシュとかで!して!」

 納得いかない、というかおをする玲於さんに今度こそ自分でティッシュの場所を見つけ出し、取ってきて、と指を差す。ちゃんとサイドテーブルの上にあるじゃないか。
 レオンみたいに魔法が使える訳じゃない。だから汚れは拭き取るしかない。
 舐めて綺麗にするだなんて、そんな……そんなちょっと、その、上級者向けのこと、おれにはまだ早い。

「そんなに気にしなくてもいいのに」
「気にする!します!」
「我儘な奴だな」
「わがっ……そ、そんなの舐めたら、おれ、今日玲於さんとちゅーしないですからね!」
「ふ、」

 笑ったのは有都さんだった。むっとする。有都さんも許してない。口で言えばよかったじゃん、ティッシュ取ってって。拭いてって。先に指先を出したのは有都さんだ。
 それとも有都さんも舐めさせるつもりだったんだろうか。
 軽く睨むと、にっこりと笑って、綺麗に拭われた手でおれの手を握った。

「それは……困りますね?」
「ああ、困るな」
「はは、うん、ちゅう出来ないのは、うん、ふふ、困るね、かわいい」

 その笑い方で、原因がおれのこどものような言い方だったことに気付く。
 ……だってキスって口にするとなんだか恥ずかしい気がして。
 仕方ないじゃん、年の離れた妹や弟がいると、そういう幼児語が身についてしまってるんだ。
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