上 下
176 / 192
伊吹は

7*

しおりを挟む
 ぬる、と入った舌先に、有都さんは直ぐに応えてくれた。わざとらしいくらいの水音を鳴らして、唇に、舌に噛みつき、吸う。
 キスなんて勉強したことも、誰かのものをじっくり見たこともない。
 アルベールとレオンがしてたもの。有都さんと玲於さんがしてたものくらい。
 それから、おれがしてもらったもの。だからこれは、おれがふたりから習ったキスだ。
 ふたりのキスがやたらと迫力と色気があるのを毎回どきどきしながら見ていた。
 つまりアルベールの、有都さんのキスは玲於さんから見てもきっとすごい。多分。その筈。

「ん、んう、ゔ……」

 有都さんは耳元や髪を撫でることが多い。安心させるかのように。
 それすらも刺激になって背中をぞくぞくさせるのだけれど。
 優しくて、やらしいキスだと思う。

「は……ん、ぅ」
「……いいね、伊吹が積極的で嬉しい」
「だって……」
「ん、悔しいもんね?あんなこと言われたら。伊吹は玲於さんに触って貰いたいのにね?」

 玲於さんに聞こえないくらいの小さな声だった。
 違う、それはまた、ニュアンスが違う。
 玲於さんに、じゃない。
 玲於さんにも、だ。
 ふたりがいい。おれは甘やかされ過ぎて我儘になってしまったから。もうどちらかを選ぶかだなんて、そんな選択肢すらないんだ。

「……ちが、ど、どっちも、ふたりがいい、」
「素直な伊吹、かわいくてだいすき。じゃあ少し、恥ずかしいのは我慢出来るよね?」
「え」

 頑張ろうね、と言うと同時に足をぐいと開かれた。
 長めの裾がワンピースのようになってるとはいえ、そう足を開かれては中が丸見えになってしまう。慌てて裾を引っ張っても主張したそこを隠すのは難しかった。
 これは色気のある格好というより、間抜けな格好ではないだろうか。

「裾上げて」
「や、やだ、って……」
「でも汚れちゃう、裾。ね?」
「あ」

 汚れちゃう、っていうか、もう汚しちゃってるんだけど。
 それでもそう言われてしまうと、ひとの服を自分のそんな体液で汚してしまうということに羞恥心と罪悪感に襲われる。
 裾を捲るのは恥ずかしい。本当に、すっごく、死ぬ程恥ずかしいんだけど。
 でも染みのように色付いたシャツをじっと見ているのも見られるのも恥ずかしかった。
 そろそろと手を引くと、そこに視線を感じる。
 玲於さんも有都さんも見てる。おれのしていることを、おれの躰を。
 恥ずかしくて死にそう。
 それなのに、耳元でもう少し、と言われると、その手を止められなかった。
 玲於さんをその気にさせるつもりが、自分がその気にさせられてどうすんの。

「ん……」
「よく出来ました」
「……これえっ……は、はずかし……っ」
「それがいいんじゃない、恥ずかしそうな伊吹かわいいよ、すごく」
「かわいくてもっ……」
「おなかもかわいいね」
「ンっ」
「大丈夫、ちゃんと誘えてるよ」

 あまりの恥ずかしさにふたりのかおは見れなかった。
 刺さるような視線と、開いた足を撫でる手、楽しそうな有都さんの、少し湿ったような柔らかい声。
 何より腰に当たるモノで、有都さんが興奮してくれてるのはわかる、けど。

「もっと手は上に上げられないか」
「無理いっ……」
「そこが限界か」
「でもこれはこれでいいでしょう」
「まあ……そうだなあ」
「あッう、」

 流石に胸元まで晒すことは出来なかった。ぎゅうと裾を握り締めた指先が震える。
 幾ら記憶があったって、初心者にこれ以上求めないでほしい。一応おれ、今夜が初めてになるんだからね。
 睨む先が床しかなくて、頭を上げないおれの下腹部に有都さんが手を滑らせた。
 肩を震わせると、息を呑む音が聞こえる。

 そっと指先が動いて、すぐ下に降りて、焦らしもせずに自身に触れた。
 既に勃ち上がってたそこはすぐに快感を拾う。
 初めてだろうとなんだろうと、そこはいちばん素直な場所だった。

「……っあ、ん、う」

 裾を捲ってるお陰で口元を覆うことが出来なかった。
 声が出ちゃう、それだって恥ずかしいことに変わりはないんだけど止められない。すぐに有都さんの指が口元を割って入ってきたから。
 まるで口を閉じさせないとしてるかのよう。いや、そうなんだけど。
 おれだって裾から手を離してしまえばよかったんだけど、それが出来なかった。
 もう前からだらだらと先走りが溢れていて、手を離せばまたシャツを汚してしまう。
 でもそんなのはただの言い訳で、本当は自分が堪らなくなってるだけ。
 ……胸を触られるより、自身に触れられる方がずっと気持ちよかった。不思議と自分で触るよりも。
 もうちょっと、触ってもらえたら。そう勝手に腰が揺れて、また玲於さんのことを思い出した。

「……!」

 上から見下ろす形の有都さんとは違って、真正面から見てる玲於さんには全部見られてる。
 有都さんに閉じられなくされた口元も、自分で捲った下半身も、揺らした腰も、どろどろの自身も、気持ち良くなったかおも。
 そう気付くと、ぶわ、とかおがあつくなった。
 最初からわかってた筈なのに。
 きっと瞳を開くと、玲於さんはこっちを見てるだろう。さっきまで視線は刺すようだった。

 氷とグラスのぶつかる音がして、次いで何かが動く音。
 思ったより早かったですね、と揶揄うように有都さんが笑う。
 それに応えたのは、近くで見る方が楽しい、という少しいじわるな声。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

俺の婚約者は、頭の中がお花畑

ぽんちゃん
BL
 完璧を目指すエレンには、のほほんとした子犬のような婚約者のオリバーがいた。十三年間オリバーの尻拭いをしてきたエレンだったが、オリバーは平民の子に恋をする。婚約破棄をして欲しいとお願いされて、快諾したエレンだったが……  「頼む、一緒に父上を説得してくれないか?」    頭の中がお花畑の婚約者と、浮気相手である平民の少年との結婚を認めてもらう為に、なぜかエレンがオリバーの父親を説得することになる。  

愛され奴隷の幸福論

東雲
BL
両親の死により、伯父一家に当主の座を奪われ、妹と共に屋敷を追い出されてしまったダニエル。 伯爵家の跡継ぎとして、懸命に勉学に励み、やがて貴族学園を卒業する日を間近に迎えるも、妹を守る為にダニエルは借金を背負い、奴隷となってしまう──…… ◇◇◇◇◇ *本編完結済みです* 筋肉男前が美形元同級生に性奴隷として買われて溺愛されるお話です(ざっくり) 無表情でツンツンしているけれど、内心は受けちゃん大好きで過保護溺愛する美形攻め×純粋培養された健気素直故に苦労もするけれど、皆から愛される筋肉男前受け。 体が大っきくて優しくて素直で真面目で健気で妹想いで男前だけど可愛いという受けちゃんを、不器用ながらもひたすらに愛して甘やかして溺愛する攻めくんという作者が大好きな作風となっております!

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...