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苦しいくらいにぎゅうぎゅうと閉じ込められてしまったものだから、軽く玲於さんの背中を叩いてその腕を緩めるよう合図を送ったつもりだったけど、それは上手く伝わらなかったみたいで、更に腕の力が強くなる。
華奢な女の子相手のようにまで気を遣わなくたって構わないけれど、呼吸が出来ないのは困る、というか死ぬ。
押し付けられた胸元をぐぐぐ、と押すと、漸くその腕から少し力が抜けた。
はあ、とどうにか頭を上にあげると、一緒くたに抱き締めたくせに、玲於さんの視線はじいと有都さんに続いていた。
そのかおを見ると、離してと言うのは野暮な気がして、そのまま口をきゅっと閉じる。
自分の方に視線が向いてないのをいいことに、ふたりのかおをよく見てしまう。
怒っているのか、と思ったけれど、当然そんな訳はなくて、心配だとか、不安だとか、安堵だとか、嬉しいとか、きっとそういうのが全部綯い交ぜになって、言葉がでないのだろう。
いや、やっぱり少しは怒ってるのかな。それでもそんな思いはすぐ消えてしまうのかもしれない。
だって会いたかった本人が腕の中にいて、そんなの怒りがずっと続く訳がない。
どうしたって愛しさが勝つ。
「……ふたり揃って小さくなったんじゃないか」
「あの頃みたいに鍛えてないですからね」
「そうか」
でも、これでもまだ筋トレとかしてる方ですからね、と有都さんが少し不服そうに言った言葉に、確かに抱き締められた時、躰は硬かったなと思い出した。前世が異常なのだ、国を守る為に鍛えていたのだから。
おれはなんにも変わらないのに。
……少しくらい鍛えた方がいいかな。
「流石にあんな人間離れした瞳の色じゃないんですね」
「向こうと世界が違うからな」
「竜とかいませんしね」
「お前の予知もない」
「あったら便利だったんですけど」
でもその瞳の色も髪の色も似合ってますよ、家族みたいですね、と笑う有都さんに、そんなこと言ったら国中が家族だろ、と苦笑する。
アルベールは向こうでは珍しい黒髪黒眼だった、おれたち家族とも少し違ったことに悩んでたりもしたのだろうか。
そんな見た目とかそういうの、母さまたちも気にしてなかったのに。
そっと有都さんの手を握ると、思い出したように視線がこちらを向いて、ふっと笑みが零れた。
着ているものやちょっとした髪型、小物なんかは当然向こうと違っていて、有都さんも派手ではないもののそれなりに今時の大学生といった感じだし、それは玲於さんだって杏さんだってそう。
話し方とかも少し変わっていて、なのに皆、笑顔は変わらない。
皆同じように、あの時の懐かしい柔らかい表情をする。
そのかおにぐう、となったのはおれだけではない。
忘れてなんてない、アルベールを愛していたのはおれだけではない。
「んッ」
「え」
おれの方を向いていた顎を上げられ、すぐ目の前、本当に目前、そんなところで玲於さんと有都さんの唇が重なった。
前世では何度見ても衝撃で慣れなかったもの。だってこんな近距離でひとのキスなんて見れるものではない。
あまりにも絵になるふたりに、おれもしてほしい、なんて思っても、嫉妬をしたことはなかった。なかったんだけど。
今日だけは、今回だけは思わずあーっ!と声を上げてしまった。
いつも見せつけるようなキスをするレオン……いや、玲於さんも、流石にその反応に驚いて、すぐに唇を離しておれを見てどうした、なんて訊いてくる。
どうしたもこうしたもない。
「またおれより先にきっ、キスした!」
「……いや、まだしてないとか知らんし」
「してない!ぎゅってしただけ!もう!いつもおれより先を持ってく!」
これだけ綺麗なひとが自分のようにファーストキスだったとか、そんなこどもみたいなことは考えてない。
ふたりがしているところを見るのは正直すきだ。
お互いをだいじにしてるのを感じるし、ふたりともすきで選ぶことが出来ないだなんて欲張りで狡いことを考えてるのは自分だけじゃなくて、ふたりもそうなんだとわかって安心もする。
色っぽくて興奮もするし、もっと見たいとすら思う。
おれのファーストキスはレオンと玲於さんが持ってった。それは仕方ない。
イヴより先にレオンとアルベールもしていた。それだって仕方ない。
でも今度はおれに先に譲ってくれても良かったのに。
実際に歳が離れている相手にこどもっぽいところはあまり見せたくなかった。けれどこればかりは駄々っ子のように拗ねてしまう。
狡い、おれだって我慢してたのに。人前だとか、杏さんの前だとか、先に玲於さんに会ってからとか。
その尖らせた唇に軽くちゅっと自分のものを重ねると、ほらお裾分けしてやるから機嫌を直せ、なんて言う。
キスのお裾分けなんてお裾分けになる訳ないだろ。
まだむう、と唇を尖らせたままのおれに笑ったのは有都さんだ。
イヴより伊吹の方がこどもっぽいかも、なんて不名誉な言葉を吐いて、でもそんなところが素直でかわいい、と同じく唇を重ねた。
それから少し頬を紅くして、取り敢えず車に入りません?と有都さんは提案をする。
……そういえば人目が少ないとはいえ、ここは外だ。
華奢な女の子相手のようにまで気を遣わなくたって構わないけれど、呼吸が出来ないのは困る、というか死ぬ。
押し付けられた胸元をぐぐぐ、と押すと、漸くその腕から少し力が抜けた。
はあ、とどうにか頭を上にあげると、一緒くたに抱き締めたくせに、玲於さんの視線はじいと有都さんに続いていた。
そのかおを見ると、離してと言うのは野暮な気がして、そのまま口をきゅっと閉じる。
自分の方に視線が向いてないのをいいことに、ふたりのかおをよく見てしまう。
怒っているのか、と思ったけれど、当然そんな訳はなくて、心配だとか、不安だとか、安堵だとか、嬉しいとか、きっとそういうのが全部綯い交ぜになって、言葉がでないのだろう。
いや、やっぱり少しは怒ってるのかな。それでもそんな思いはすぐ消えてしまうのかもしれない。
だって会いたかった本人が腕の中にいて、そんなの怒りがずっと続く訳がない。
どうしたって愛しさが勝つ。
「……ふたり揃って小さくなったんじゃないか」
「あの頃みたいに鍛えてないですからね」
「そうか」
でも、これでもまだ筋トレとかしてる方ですからね、と有都さんが少し不服そうに言った言葉に、確かに抱き締められた時、躰は硬かったなと思い出した。前世が異常なのだ、国を守る為に鍛えていたのだから。
おれはなんにも変わらないのに。
……少しくらい鍛えた方がいいかな。
「流石にあんな人間離れした瞳の色じゃないんですね」
「向こうと世界が違うからな」
「竜とかいませんしね」
「お前の予知もない」
「あったら便利だったんですけど」
でもその瞳の色も髪の色も似合ってますよ、家族みたいですね、と笑う有都さんに、そんなこと言ったら国中が家族だろ、と苦笑する。
アルベールは向こうでは珍しい黒髪黒眼だった、おれたち家族とも少し違ったことに悩んでたりもしたのだろうか。
そんな見た目とかそういうの、母さまたちも気にしてなかったのに。
そっと有都さんの手を握ると、思い出したように視線がこちらを向いて、ふっと笑みが零れた。
着ているものやちょっとした髪型、小物なんかは当然向こうと違っていて、有都さんも派手ではないもののそれなりに今時の大学生といった感じだし、それは玲於さんだって杏さんだってそう。
話し方とかも少し変わっていて、なのに皆、笑顔は変わらない。
皆同じように、あの時の懐かしい柔らかい表情をする。
そのかおにぐう、となったのはおれだけではない。
忘れてなんてない、アルベールを愛していたのはおれだけではない。
「んッ」
「え」
おれの方を向いていた顎を上げられ、すぐ目の前、本当に目前、そんなところで玲於さんと有都さんの唇が重なった。
前世では何度見ても衝撃で慣れなかったもの。だってこんな近距離でひとのキスなんて見れるものではない。
あまりにも絵になるふたりに、おれもしてほしい、なんて思っても、嫉妬をしたことはなかった。なかったんだけど。
今日だけは、今回だけは思わずあーっ!と声を上げてしまった。
いつも見せつけるようなキスをするレオン……いや、玲於さんも、流石にその反応に驚いて、すぐに唇を離しておれを見てどうした、なんて訊いてくる。
どうしたもこうしたもない。
「またおれより先にきっ、キスした!」
「……いや、まだしてないとか知らんし」
「してない!ぎゅってしただけ!もう!いつもおれより先を持ってく!」
これだけ綺麗なひとが自分のようにファーストキスだったとか、そんなこどもみたいなことは考えてない。
ふたりがしているところを見るのは正直すきだ。
お互いをだいじにしてるのを感じるし、ふたりともすきで選ぶことが出来ないだなんて欲張りで狡いことを考えてるのは自分だけじゃなくて、ふたりもそうなんだとわかって安心もする。
色っぽくて興奮もするし、もっと見たいとすら思う。
おれのファーストキスはレオンと玲於さんが持ってった。それは仕方ない。
イヴより先にレオンとアルベールもしていた。それだって仕方ない。
でも今度はおれに先に譲ってくれても良かったのに。
実際に歳が離れている相手にこどもっぽいところはあまり見せたくなかった。けれどこればかりは駄々っ子のように拗ねてしまう。
狡い、おれだって我慢してたのに。人前だとか、杏さんの前だとか、先に玲於さんに会ってからとか。
その尖らせた唇に軽くちゅっと自分のものを重ねると、ほらお裾分けしてやるから機嫌を直せ、なんて言う。
キスのお裾分けなんてお裾分けになる訳ないだろ。
まだむう、と唇を尖らせたままのおれに笑ったのは有都さんだ。
イヴより伊吹の方がこどもっぽいかも、なんて不名誉な言葉を吐いて、でもそんなところが素直でかわいい、と同じく唇を重ねた。
それから少し頬を紅くして、取り敢えず車に入りません?と有都さんは提案をする。
……そういえば人目が少ないとはいえ、ここは外だ。
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