162 / 192
9
161
しおりを挟む◇◇◇
昼休みが終わった頃、広告の編集済んだって、一緒に確認しよ、と杏さんがおれを呼んだ。
漸くか、と急いでその後をついていく。
この頃には社内では余りにも玲於さんがおれがを構うものだから、縁故採用どころか甥や隠し子ではないかという話にまでなっていた。
準さんが弟だということは既に知られていたことなのだけど、その準さんが甥ではない、とだけしか言わなかったものだから、隠し子が濃厚になってるらしい。そんなまさか。
流石に玲於さんはおれくらい大きな子がいるような年齢じゃあないのに。ネタを含んだ笑い話ではあるとわかっているけれど、そう少しへこんでいた。
老けて見える訳じゃないし、格好良いよ、おれがこどもっぽすぎるのかも、と慰めると、それがいちばん問題だとも言われ、苦笑する。
年齢ってのはこどもでもおとなでも気にするものなんだな。
出来上がった広告は、社長がゲームの魅力を語り、その後ろでゲーム映像やオープニングのアニメーション部分が流れているといったもので、それを確認した杏さんは、やっぱりコスプレしてた方が面白かったんじゃないですか、と言った。
面白くなくていいんだよと返す玲於さんに、いやインパクトいるでしょ、と杏さんはまだぶつぶつと呟く。
ショートバージョンとロングバージョン。流れるのはテレビや動画サイトでという話だった。
正直、杏さんの言う通り派手さはない。
でも、ゲーム映像より玲於さんが手前にいる広告は、アルベールが観てくれさえすれば間違いなくこれは、と気付いてくれると思う。
おれと違って頭もいい、ここまで社長の出張った広告の意図もわかってくれそうだ。
問題なのは、この広告自体を見てもらえるかってこと。
若者のテレビ離れもあるし、数多くある広告の中、タイミングよく流れるのを祈るしかない。
観てもらえさえすれば、本当にレオンだ、とわかってもらえると思う。
……本気で恥ずかしそうにしている玲於さんには悪いが、この広告が流れたら録画して保存しよう、と思った。
そしてそれからまた暫くして、心待ちにしていた広告の解禁日。
既にゲームの予約は始まっていて、雑誌にも社長社員のインタビューは載っている。今のところそれらしい問い合わせはない。
流石に大手のようにばんばん広告が打てる訳でもない、後はもう、運任せだ。
広告の反応としては、続編待ってた、前の会社が潰れて不安だったけど、絵柄や声優が変わってなくて嬉しい、といったゲーム部分への声と、社長イケメン、レオンのモデル?等玲於さんに反応する声、ゲームより社長が目立ってる、自分がモデルとかやばい、うける、といったある意味狙い通りの声が入ってきて、玲於さんはひとり頭を抱えていた。
あんなに飄々堂々としたひとなのに、こういう評価はやはり恥ずかしいものらしい。
おれとしては玲於さん俳優みたい、格好良いなと盲目でもあり、良い意味でも悪い意味でも目立ってしまった玲於さんへの声に少し嫉妬してみたり、どうかアルベールが観てくれてますようにと願ったり心が忙しい。
社内でも、社長の出た広告は騷つかせていた。
元々ゲーム部署のない会社が弟関係だからか昔のBL恋愛ゲームを拾ってきたかと思えば、主人公にそっくりな高卒の中途入社が現れ社長にかわいがられ、社長にそっくりなキャラクターもいるし、今までそんなことなかったのに急に社長がそのゲーム関連でだけ雑誌や広告に顔出しをする。
そりゃあどうした社長気でも狂ったかと引かれるのも仕方ない。
それからゲームがやっと販売され、この業界的には売上は好調だと杏さんは嬉しそうだった。
おれと玲於さんはそれどころじゃないのだけど。
学生は夏休みが始まり、新しいゲーム関連の作業もとっくに始まっている。
焦る。
おれと玲於さんにはもう今しかチャンスがない。
ゲームを出したら、広告を出したら。アルベールの目に止まらなきゃ意味がない。
流石にまた続編、という訳にはいかない。これ以上の展開はきっと無理だ。
広告だって延々と打てる訳ではなくて、契約もそろそろ終わってしまう。
イラストレーターの杏さんや公式のSNSのフォロワーが増えても、それは結局こういったゲームや杏さんの絵のファンな訳で、知らないひとを呼び込めるものではない。
今がいちばん注目されてる時だ。ここでアルベールが見つからなければもう、
「皺になっちゃうよ」
眉間をぐいと指で押され、頭を上げると杏さんが笑って立っていた。
お昼行こ、と誘われて、もうそんな時間かと驚く。
おれと玲於さんの焦りを、杏さんもきっとわかってる。だからこそそういうところには茶化したりふざけたりしない。
「今日外に行かない?新メニュー始まったんだよ」
会社の近くのチェーン店は定期的にメニュー表が変わる。
一時間しかない昼休憩、店内も混むがすぐに商品が出てくるそのチェーン店は人気だった。
杏さんに誘われるまま外に出て空気を吸う。こんなに悪いことばかり考えていてもだめだとわかってはいるのだけど、どうしたってアルベールのことを考えてしまう。
これ以上いい案なんて思い浮かばない。
お腹が満たされたというのに不安でいっぱいの頭は、ここ数日ずっとアルベールでいっぱいだった。
このまま会えずに終わってしまうのかな。
アルベールは玲於さんを見つけてくれないのかな、おれのことを、
「伊吹くん」
杏さんがおれの袖を掴む。
何故か玲於さんのにおいがする、と思った。
152
お気に入りに追加
3,779
あなたにおすすめの小説
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います
雪
BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生!
しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!?
モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....?
ゆっくり更新です。
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?
七角@中華BL発売中
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。
その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー?
十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。
転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。
どんでん返しからの甘々ハピエンです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います
緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。
知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。
花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。
十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。
寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。
見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。
宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。
やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。
次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。
アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。
ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。
余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない
上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。
フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。
前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。
声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。
気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――?
周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。
※最終的に固定カプ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる