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そう、なのかな?と首を傾げる。
いや、そうか。色んなひとに認識してもらうということは目立たないといけない。
でもどうやって?
「そもそもゲームに興味ない人間なら、誰もが知ってるようなゲームにしないといけないでしょう?流石にそこまでは無理だよね、作った自分たちで言うけどさ」
「ああ……」
今世のアルベールがどういうタイプかなんてわからないけど、ゲームをするアルベールが想像つかない。恋愛ゲームなんてしなさそう。
「SNSとかの宣伝も限りがあるし、仮にバズったとしても相当じゃないとアルベールさまは気付かなさそう」
「確かに」
「雑誌の取材ならあるんだけど、あれも読むひとは限られてるからなあ……ゲームに興味がないひとでも見てもらえる可能性があるのはテレビかな、広告は打つ予定だったけど」
「すごい」
元々のゲーム会社は小さいものだったという。その会社が潰れて、数年経ってからの続編。
目的は売れることではなく、いちばんはおれたちを気付かせる為のもの。その前におれが戻ってこれただけ。
それを杏さんに打診した玲於さんの会社にはゲームの部署なんてなかった。
つまりは本当に、おれとアルベールの為だけのプロジェクト。
喜んでいいのか、その大掛かりな計画に驚けばいいのか。本音をいうとちょっとこわい。自分にそんな価値があるのかどうかと問われると、正直ないとわかってる。
前世で残した言葉や振る舞いにそんなつもりはなかったから、無駄にお金や手間を掛けさせていそうで……責任なんて高校卒業したばかりの無職にとれるものではない。
「何でそんなに小さくなってるの」
「……いえ、なんか、その、なんか急にその、申し訳なく……」
杏さんに訊かれて、もごもごと口篭る。
前世ではレオンが「王子だから」で済んでいたけれど、今世では生々しいというか、感覚が庶民に戻ってしまうというか。
おれなんかの為にそんなことする必要ある?と思ってしまう。
「必要なことだと思ってるよ」
「でも……」
「お前とアルベールに一生会えないのなら意味のない人生だ、金で済むなら安いもんだよ」
「……」
玲於さんの大きな手がぽん、と頭を覆った。
世間を知らなさすぎて、玲於さんの会社がどれ程の規模なのかわかってない。勝手に小さな会社の社長だと思ってたのだけど……後で貰った名刺で検索するのは野暮だろうか。
「いちばんはその広告に伊吹くんを使えるといいんだけど」
「へっ」
「そうだなあ」
「えっ、え、むっ、むりむりむり、えっ、だってアル兄さまを探す為でしょ、え、広告って、テレビとかの」
「そう」
だってああいうの、芸能人だとかそのゲームのキャラクターたちを使うものでしょ?
おれが出ても意味がないし、誰だよって話になると思う、そう伝える前に、杏さんと玲於さんはまあそれが確かにいちばんだけどなあ、と話をしてる。
「伊吹を見れば、記憶があれば一発でわかるからな」
「イヴそのまんまだもんね」
「そうだけど……」
「すぐ問い合わせが来るだろう」
「伊吹くんかわいいし、他の視聴者にはまたそっくりなタレント見つけてきたな~、で終わるもんね」
「あわ……」
でも伊吹くんが困るか、と杏さんが苦笑する。
お前の為なんだから断るなよって感じだよな、自分だってそう思う。
玲於さんの先程聞いたばかりの覚悟と比べたら、お前の覚悟はそんなものかってなるよね。
でもそんな芸能人の真似事のようなこと……
別におれに失くすようなものなんて何もない。知人にあいつ勘違いしてるって、そうやって馬鹿にされたって構わないけど。
玲於さんの会社の評判を下げる訳には……
「まあそれは想定内」
「そうていない……」
「本命は社長」
「ほんめい」
「俺か?」
「伊吹くんを使うより一般的では?」
社長が出てる広告なんて山程あるでしょ、と杏さんが言う。
「記憶があれば何も伊吹くんを使わなくても社長でもわかるでしょ。なんならウイッグとカラコン入れてコスプレでも」
「この歳でそんなことさせるんじゃない」
「いいじゃん、かおはいいんだからさ、話題になると思いますよ」
「悪い意味でな」
「伊吹くんを表に出すよりいいでしょ~?ちょっと恥ずかしい思いするくらい」
「……別にコスプレはいらなくないか」
杏さんに追い詰められる玲於さんに、おれの我儘のせいで、と思いながらも口を挟めずに見守っていると、暫くして玲於さんが折れた。
広告には出る、但しコスプレはなし。出たがりな社長と思われるのは癪だが仕方ない、と。
……玲於さんの王子の姿、ちょっと見てみたかったけど。
「決まりですね、今度またそれは詰めましょう。それでも反応がなければ追撃として伊吹くん出してもいいですね」
「アルベールがのこのこ出て来たら思い知らせてやる」
「その為の広告出演ですよ」
伊吹くん、とおれの方を振り返った杏さんに、その時は頑張ります……と少し震えてしまった声で返すと、そうならないように社長に頑張ってもらおうね~、と笑顔を見せられた。
ほら、伊吹くんが提案してくれたからすぐに話が纏まったでしょ、とも。
いや、そうか。色んなひとに認識してもらうということは目立たないといけない。
でもどうやって?
「そもそもゲームに興味ない人間なら、誰もが知ってるようなゲームにしないといけないでしょう?流石にそこまでは無理だよね、作った自分たちで言うけどさ」
「ああ……」
今世のアルベールがどういうタイプかなんてわからないけど、ゲームをするアルベールが想像つかない。恋愛ゲームなんてしなさそう。
「SNSとかの宣伝も限りがあるし、仮にバズったとしても相当じゃないとアルベールさまは気付かなさそう」
「確かに」
「雑誌の取材ならあるんだけど、あれも読むひとは限られてるからなあ……ゲームに興味がないひとでも見てもらえる可能性があるのはテレビかな、広告は打つ予定だったけど」
「すごい」
元々のゲーム会社は小さいものだったという。その会社が潰れて、数年経ってからの続編。
目的は売れることではなく、いちばんはおれたちを気付かせる為のもの。その前におれが戻ってこれただけ。
それを杏さんに打診した玲於さんの会社にはゲームの部署なんてなかった。
つまりは本当に、おれとアルベールの為だけのプロジェクト。
喜んでいいのか、その大掛かりな計画に驚けばいいのか。本音をいうとちょっとこわい。自分にそんな価値があるのかどうかと問われると、正直ないとわかってる。
前世で残した言葉や振る舞いにそんなつもりはなかったから、無駄にお金や手間を掛けさせていそうで……責任なんて高校卒業したばかりの無職にとれるものではない。
「何でそんなに小さくなってるの」
「……いえ、なんか、その、なんか急にその、申し訳なく……」
杏さんに訊かれて、もごもごと口篭る。
前世ではレオンが「王子だから」で済んでいたけれど、今世では生々しいというか、感覚が庶民に戻ってしまうというか。
おれなんかの為にそんなことする必要ある?と思ってしまう。
「必要なことだと思ってるよ」
「でも……」
「お前とアルベールに一生会えないのなら意味のない人生だ、金で済むなら安いもんだよ」
「……」
玲於さんの大きな手がぽん、と頭を覆った。
世間を知らなさすぎて、玲於さんの会社がどれ程の規模なのかわかってない。勝手に小さな会社の社長だと思ってたのだけど……後で貰った名刺で検索するのは野暮だろうか。
「いちばんはその広告に伊吹くんを使えるといいんだけど」
「へっ」
「そうだなあ」
「えっ、え、むっ、むりむりむり、えっ、だってアル兄さまを探す為でしょ、え、広告って、テレビとかの」
「そう」
だってああいうの、芸能人だとかそのゲームのキャラクターたちを使うものでしょ?
おれが出ても意味がないし、誰だよって話になると思う、そう伝える前に、杏さんと玲於さんはまあそれが確かにいちばんだけどなあ、と話をしてる。
「伊吹を見れば、記憶があれば一発でわかるからな」
「イヴそのまんまだもんね」
「そうだけど……」
「すぐ問い合わせが来るだろう」
「伊吹くんかわいいし、他の視聴者にはまたそっくりなタレント見つけてきたな~、で終わるもんね」
「あわ……」
でも伊吹くんが困るか、と杏さんが苦笑する。
お前の為なんだから断るなよって感じだよな、自分だってそう思う。
玲於さんの先程聞いたばかりの覚悟と比べたら、お前の覚悟はそんなものかってなるよね。
でもそんな芸能人の真似事のようなこと……
別におれに失くすようなものなんて何もない。知人にあいつ勘違いしてるって、そうやって馬鹿にされたって構わないけど。
玲於さんの会社の評判を下げる訳には……
「まあそれは想定内」
「そうていない……」
「本命は社長」
「ほんめい」
「俺か?」
「伊吹くんを使うより一般的では?」
社長が出てる広告なんて山程あるでしょ、と杏さんが言う。
「記憶があれば何も伊吹くんを使わなくても社長でもわかるでしょ。なんならウイッグとカラコン入れてコスプレでも」
「この歳でそんなことさせるんじゃない」
「いいじゃん、かおはいいんだからさ、話題になると思いますよ」
「悪い意味でな」
「伊吹くんを表に出すよりいいでしょ~?ちょっと恥ずかしい思いするくらい」
「……別にコスプレはいらなくないか」
杏さんに追い詰められる玲於さんに、おれの我儘のせいで、と思いながらも口を挟めずに見守っていると、暫くして玲於さんが折れた。
広告には出る、但しコスプレはなし。出たがりな社長と思われるのは癪だが仕方ない、と。
……玲於さんの王子の姿、ちょっと見てみたかったけど。
「決まりですね、今度またそれは詰めましょう。それでも反応がなければ追撃として伊吹くん出してもいいですね」
「アルベールがのこのこ出て来たら思い知らせてやる」
「その為の広告出演ですよ」
伊吹くん、とおれの方を振り返った杏さんに、その時は頑張ります……と少し震えてしまった声で返すと、そうならないように社長に頑張ってもらおうね~、と笑顔を見せられた。
ほら、伊吹くんが提案してくれたからすぐに話が纏まったでしょ、とも。
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