【完結】イヴは悪役に向いてない

ちかこ

文字の大きさ
上 下
159 / 192
9

158

しおりを挟む
「あーっ、また嬉しそう、なになに、伯母さんに会えるの嬉しい?」 
「うん……そうだね、嬉しい」
「だよね、あのね、伯父さんもね、すごく優しくしてくれるよ、おにーちゃんの退院の日、焼肉に行こうって」
「わざわざそんな」
「家族になるお祝いって言ってた」

 嬉しそうな愛莉に頬が緩む。伯母さんの旦那さんだ、きっと良いひとなのだろう。
 そのひとが父さまだといいな、と思うのはあまりにも願望が過ぎるかな。

 そんな話を暫くしてると、お待たせ、と伯母さんが笑顔で病室に入ってきた。
 あら、この甘いにおいなあに、と呟いて、花瓶と入りきらずに再度纏められた花束を見て、まあまあまあ、と瞳を丸くする。
 ああ、母さまもこんなかおしてた、なんて思い出して、またひとりでにやにやしてしまう。リアクションまで同じだ。

「綺麗ねえ」
「これ、貰って帰っていいぶんだって。伯母さん、ドライフラワーの作り方知ってる?」
「作ったことないなあ……帰ったら一緒に調べましょうか」
「うんっ」

 元々の愛莉のひとを見る性格が噛み合ったのか、伯母たちの愛莉への接し方の問題か、引き取るまで会ったことがないとは思えない程馴染んでいる。
 きっと、伯父の焼肉の提案も、仕方ないとか気まずいとかそういうものからじゃなくて、自然に出てきたものなんだろうな。
 素直に甘えるには、おれが少し捻くれたおとなになってしまってるだけ。

「顔色もいいね、リハビリはどう?上手くいってる?」
「はい、もう今週には退院出来るかもって」
「そっか、その日は迎えに行くからね、遠慮とかしないで教えてね、嘘言っちゃだめよ」
「……はい」

 タイミングよくもそこで看護師が大丈夫ですか、と声を掛けてきて、一応退院の日は決まってですね、と伯母と話し出した。
 おれだってもう十八、成人した筈なのに、おれではなく伯母に話すのが何だか擽ったい。
 こんなところでもこども扱い、されるものなんだなって。こども扱いが嫌だったり嬉しかったりで忙しい。
 検査の結果、特に悪いところもなかったので、後はお家でも気にして貰えればと残し、看護師はちらりと薔薇を振り返り、微笑んで病室を後にする。
 その看護師に続くように、トイレ行ってくる、と愛莉も締まり切ってなかった扉からするりと出ていってしまった。

 その隙に、と伯母に制服のことを訊くと、あと少しで制服は出来上がる予定だとあっさり返ってきた。
 払うなんて言わないの、制服や一式くらい用意出来ます、今までのお年玉やお祝いを考えると安いものよ、と言うけれど、部屋のこととか食費生活費とかもお世話になってるのに、と思ってしまう。
 母さんがそれらを支払ってるとは考えられない。

「色々と心配なのはわかるけれど」
「……」
「大丈夫よ、どうにかなるから。一緒に考えましょ、愛莉ちゃんのことも、伊吹くんのことも。あんまり考え過ぎると禿げちゃうわよ、っていうのは冗談だけど、ストレスになっちゃうでしょ」

 こういう時は頼れるひとに頼ればいいの。おとなだって全部自分でやろうとすると潰れちゃうんだから。
 そう言って、伊吹くんが何をしたか全部なんてわからないけど、それでも頑張ってきたのは知ってるよ、と瞳を細めた。

「愛莉ちゃんかわいいねえ。あの笑顔は伊吹くんが守ってきたんだよ」

 ありがとうね、そう言って指先に触れた柔らかな手に泣きたくなる程、多分おれはすごく、嬉しかったんだと思う。


 暫く他愛ない雑談をして、またふたりを見送って、夕食、伯母と愛莉からの連絡に返信して消灯。
 こっそりとまたゲームを起動して、何か変わってないかな、なんて期待して進めたけれど、事前に確認していたネタバレの話と何も変わらない。
 そうか、やっぱり前世で行動しないと、現世で何かあってもゲームまでは変わらないか。現世ではもう作られた後なんだから、変わる筈がない。
 こっちの世界には魔法なんてない。過去を変えることは出来ないのだ。

 でも続編なら?
 まだ内容を変えることは可能?


 ◇◇◇

「内容を変える……?」
「もう無理ですか?」
「そりゃあ……もう後は販売するだけのところに来てるもん、変更なんて頑張ってパッケージとか……」

 翌日、律儀にちゃんとお見舞いに来てくれた杏さんが、きょとん、としたかおをして、それから困ったように首を傾げた。
 仕事関係にど素人が口を挟むんじゃなかった。
 ゲーム内容を良くして有名にさせて色んなひとに認識してもらう、というのは狙って出来るものではない。
 反対に、何だこのゲーム?というようなものが、これはやばいと口コミやネットで広がる場合もある。
 それを狙う方が確率が高いのでは、と思った。
 もしアルベールが玲於さんのようにおれのことを思い出していて、でも探す術がないと思っていたら。このゲームのイラストであってもおれだとわかってくれるのじゃないかと思って。

「む、難しいですよね、すみません、何も知らない癖に口を出しちゃって」
「えーっ、どんどんアイデアを出してよ、退院は明後日でしょ?話をゆっくり詰められるのも今日明日までだよ、今のも凄く良かったと思うよ!」
「……良かったですか?」

 杏さんはおれの穴だらけの案を褒めて、つまりは目立てばいいってことだよね?と纏めた。
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?

七角@中華BL発売中
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。 その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー? 十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。 転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。 どんでん返しからの甘々ハピエンです。

婚約破棄?しませんよ、そんなもの

おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。 アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。 けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり…… 「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」 それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。 <嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません

月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない? ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

処理中です...