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「あーっ、また嬉しそう、なになに、伯母さんに会えるの嬉しい?」
「うん……そうだね、嬉しい」
「だよね、あのね、伯父さんもね、すごく優しくしてくれるよ、おにーちゃんの退院の日、焼肉に行こうって」
「わざわざそんな」
「家族になるお祝いって言ってた」
嬉しそうな愛莉に頬が緩む。伯母さんの旦那さんだ、きっと良いひとなのだろう。
そのひとが父さまだといいな、と思うのはあまりにも願望が過ぎるかな。
そんな話を暫くしてると、お待たせ、と伯母さんが笑顔で病室に入ってきた。
あら、この甘いにおいなあに、と呟いて、花瓶と入りきらずに再度纏められた花束を見て、まあまあまあ、と瞳を丸くする。
ああ、母さまもこんなかおしてた、なんて思い出して、またひとりでにやにやしてしまう。リアクションまで同じだ。
「綺麗ねえ」
「これ、貰って帰っていいぶんだって。伯母さん、ドライフラワーの作り方知ってる?」
「作ったことないなあ……帰ったら一緒に調べましょうか」
「うんっ」
元々の愛莉のひとを見る性格が噛み合ったのか、伯母たちの愛莉への接し方の問題か、引き取るまで会ったことがないとは思えない程馴染んでいる。
きっと、伯父の焼肉の提案も、仕方ないとか気まずいとかそういうものからじゃなくて、自然に出てきたものなんだろうな。
素直に甘えるには、おれが少し捻くれたおとなになってしまってるだけ。
「顔色もいいね、リハビリはどう?上手くいってる?」
「はい、もう今週には退院出来るかもって」
「そっか、その日は迎えに行くからね、遠慮とかしないで教えてね、嘘言っちゃだめよ」
「……はい」
タイミングよくもそこで看護師が大丈夫ですか、と声を掛けてきて、一応退院の日は決まってですね、と伯母と話し出した。
おれだってもう十八、成人した筈なのに、おれではなく伯母に話すのが何だか擽ったい。
こんなところでもこども扱い、されるものなんだなって。こども扱いが嫌だったり嬉しかったりで忙しい。
検査の結果、特に悪いところもなかったので、後はお家でも気にして貰えればと残し、看護師はちらりと薔薇を振り返り、微笑んで病室を後にする。
その看護師に続くように、トイレ行ってくる、と愛莉も締まり切ってなかった扉からするりと出ていってしまった。
その隙に、と伯母に制服のことを訊くと、あと少しで制服は出来上がる予定だとあっさり返ってきた。
払うなんて言わないの、制服や一式くらい用意出来ます、今までのお年玉やお祝いを考えると安いものよ、と言うけれど、部屋のこととか食費生活費とかもお世話になってるのに、と思ってしまう。
母さんがそれらを支払ってるとは考えられない。
「色々と心配なのはわかるけれど」
「……」
「大丈夫よ、どうにかなるから。一緒に考えましょ、愛莉ちゃんのことも、伊吹くんのことも。あんまり考え過ぎると禿げちゃうわよ、っていうのは冗談だけど、ストレスになっちゃうでしょ」
こういう時は頼れるひとに頼ればいいの。おとなだって全部自分でやろうとすると潰れちゃうんだから。
そう言って、伊吹くんが何をしたか全部なんてわからないけど、それでも頑張ってきたのは知ってるよ、と瞳を細めた。
「愛莉ちゃんかわいいねえ。あの笑顔は伊吹くんが守ってきたんだよ」
ありがとうね、そう言って指先に触れた柔らかな手に泣きたくなる程、多分おれはすごく、嬉しかったんだと思う。
暫く他愛ない雑談をして、またふたりを見送って、夕食、伯母と愛莉からの連絡に返信して消灯。
こっそりとまたゲームを起動して、何か変わってないかな、なんて期待して進めたけれど、事前に確認していたネタバレの話と何も変わらない。
そうか、やっぱり前世で行動しないと、現世で何かあってもゲームまでは変わらないか。現世ではもう作られた後なんだから、変わる筈がない。
こっちの世界には魔法なんてない。過去を変えることは出来ないのだ。
でも続編なら?
まだ内容を変えることは可能?
◇◇◇
「内容を変える……?」
「もう無理ですか?」
「そりゃあ……もう後は販売するだけのところに来てるもん、変更なんて頑張ってパッケージとか……」
翌日、律儀にちゃんとお見舞いに来てくれた杏さんが、きょとん、としたかおをして、それから困ったように首を傾げた。
仕事関係にど素人が口を挟むんじゃなかった。
ゲーム内容を良くして有名にさせて色んなひとに認識してもらう、というのは狙って出来るものではない。
反対に、何だこのゲーム?というようなものが、これはやばいと口コミやネットで広がる場合もある。
それを狙う方が確率が高いのでは、と思った。
もしアルベールが玲於さんのようにおれのことを思い出していて、でも探す術がないと思っていたら。このゲームのイラストであってもおれだとわかってくれるのじゃないかと思って。
「む、難しいですよね、すみません、何も知らない癖に口を出しちゃって」
「えーっ、どんどんアイデアを出してよ、退院は明後日でしょ?話をゆっくり詰められるのも今日明日までだよ、今のも凄く良かったと思うよ!」
「……良かったですか?」
杏さんはおれの穴だらけの案を褒めて、つまりは目立てばいいってことだよね?と纏めた。
「うん……そうだね、嬉しい」
「だよね、あのね、伯父さんもね、すごく優しくしてくれるよ、おにーちゃんの退院の日、焼肉に行こうって」
「わざわざそんな」
「家族になるお祝いって言ってた」
嬉しそうな愛莉に頬が緩む。伯母さんの旦那さんだ、きっと良いひとなのだろう。
そのひとが父さまだといいな、と思うのはあまりにも願望が過ぎるかな。
そんな話を暫くしてると、お待たせ、と伯母さんが笑顔で病室に入ってきた。
あら、この甘いにおいなあに、と呟いて、花瓶と入りきらずに再度纏められた花束を見て、まあまあまあ、と瞳を丸くする。
ああ、母さまもこんなかおしてた、なんて思い出して、またひとりでにやにやしてしまう。リアクションまで同じだ。
「綺麗ねえ」
「これ、貰って帰っていいぶんだって。伯母さん、ドライフラワーの作り方知ってる?」
「作ったことないなあ……帰ったら一緒に調べましょうか」
「うんっ」
元々の愛莉のひとを見る性格が噛み合ったのか、伯母たちの愛莉への接し方の問題か、引き取るまで会ったことがないとは思えない程馴染んでいる。
きっと、伯父の焼肉の提案も、仕方ないとか気まずいとかそういうものからじゃなくて、自然に出てきたものなんだろうな。
素直に甘えるには、おれが少し捻くれたおとなになってしまってるだけ。
「顔色もいいね、リハビリはどう?上手くいってる?」
「はい、もう今週には退院出来るかもって」
「そっか、その日は迎えに行くからね、遠慮とかしないで教えてね、嘘言っちゃだめよ」
「……はい」
タイミングよくもそこで看護師が大丈夫ですか、と声を掛けてきて、一応退院の日は決まってですね、と伯母と話し出した。
おれだってもう十八、成人した筈なのに、おれではなく伯母に話すのが何だか擽ったい。
こんなところでもこども扱い、されるものなんだなって。こども扱いが嫌だったり嬉しかったりで忙しい。
検査の結果、特に悪いところもなかったので、後はお家でも気にして貰えればと残し、看護師はちらりと薔薇を振り返り、微笑んで病室を後にする。
その看護師に続くように、トイレ行ってくる、と愛莉も締まり切ってなかった扉からするりと出ていってしまった。
その隙に、と伯母に制服のことを訊くと、あと少しで制服は出来上がる予定だとあっさり返ってきた。
払うなんて言わないの、制服や一式くらい用意出来ます、今までのお年玉やお祝いを考えると安いものよ、と言うけれど、部屋のこととか食費生活費とかもお世話になってるのに、と思ってしまう。
母さんがそれらを支払ってるとは考えられない。
「色々と心配なのはわかるけれど」
「……」
「大丈夫よ、どうにかなるから。一緒に考えましょ、愛莉ちゃんのことも、伊吹くんのことも。あんまり考え過ぎると禿げちゃうわよ、っていうのは冗談だけど、ストレスになっちゃうでしょ」
こういう時は頼れるひとに頼ればいいの。おとなだって全部自分でやろうとすると潰れちゃうんだから。
そう言って、伊吹くんが何をしたか全部なんてわからないけど、それでも頑張ってきたのは知ってるよ、と瞳を細めた。
「愛莉ちゃんかわいいねえ。あの笑顔は伊吹くんが守ってきたんだよ」
ありがとうね、そう言って指先に触れた柔らかな手に泣きたくなる程、多分おれはすごく、嬉しかったんだと思う。
暫く他愛ない雑談をして、またふたりを見送って、夕食、伯母と愛莉からの連絡に返信して消灯。
こっそりとまたゲームを起動して、何か変わってないかな、なんて期待して進めたけれど、事前に確認していたネタバレの話と何も変わらない。
そうか、やっぱり前世で行動しないと、現世で何かあってもゲームまでは変わらないか。現世ではもう作られた後なんだから、変わる筈がない。
こっちの世界には魔法なんてない。過去を変えることは出来ないのだ。
でも続編なら?
まだ内容を変えることは可能?
◇◇◇
「内容を変える……?」
「もう無理ですか?」
「そりゃあ……もう後は販売するだけのところに来てるもん、変更なんて頑張ってパッケージとか……」
翌日、律儀にちゃんとお見舞いに来てくれた杏さんが、きょとん、としたかおをして、それから困ったように首を傾げた。
仕事関係にど素人が口を挟むんじゃなかった。
ゲーム内容を良くして有名にさせて色んなひとに認識してもらう、というのは狙って出来るものではない。
反対に、何だこのゲーム?というようなものが、これはやばいと口コミやネットで広がる場合もある。
それを狙う方が確率が高いのでは、と思った。
もしアルベールが玲於さんのようにおれのことを思い出していて、でも探す術がないと思っていたら。このゲームのイラストであってもおれだとわかってくれるのじゃないかと思って。
「む、難しいですよね、すみません、何も知らない癖に口を出しちゃって」
「えーっ、どんどんアイデアを出してよ、退院は明後日でしょ?話をゆっくり詰められるのも今日明日までだよ、今のも凄く良かったと思うよ!」
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