【完結】イヴは悪役に向いてない

ちかこ

文字の大きさ
上 下
141 / 192
8

140*

しおりを挟む
「……そんなこと、誰にも言っちゃ駄目だよ」
「い、言わない、し……」
「こわいなあ、もう……どこで覚えてくるの」

 確かにイヴなら言わないかもしれない、だってこれは前の世界のおれの記憶だもの。
 でもどうしよう、口にすると、お腹の中がずくずくして、きゅうきゅうして、さみしい。
 まだアルベールのものはナカに納まっているけど、あったかいのがもっとほしい。
 きゅっと唇を噛み締めていると、頭上からレオンの楽しそうな声がした。

「いいよ、イヴの願いを聞いてやれ」
「でも……」
「俺とイヴが許可してるんだ、躊躇う必要はないだろう」
「……もう、知りませんからね」

 素直で偉いぞ、とレオンがアルベールと唇を重ねた。
 アルベールは、イヴじゃないんですからこんなことで騙されませんよ、と呟きながらも、またおれを見つめてわかったよ、と頷く。
 黒い前髪が揺れて、その下の黒い瞳がおれを映した。
 あと何回、この優しい瞳に映ることが出来るのだろうか。
 ……いいな、おれもイヴになりたい。

「ッ、あ、う」
「……ナカ、痙攣してきた」
「は、ァう、も、や、出る……っい、イく、イきたいっ……」

 何回も途中で止まっちゃったものだから、今度こそ、とお腹のナカが催促しているのかもしれない。
 アルベールを逃がさないようにしてるのかもしれない。
 自分でも、ぎゅうっと締め付けてるのがわかる。それは自分でコントロール出来るようなものじゃなかった。
 意識すればする程締め付けてしまう。自分も気持ちよくなってしまう。

「あッ、あ、ん、う、」

 揺さぶられると勝手に声が漏れる。
 きゅう、とレオンの手をきつく握ると、もう我慢出来ないな、と低い声が耳元に響いた。
 狡い。
 ふたりとも、近過ぎる。
 そうだ、もう我慢なんて出来ない。

「……っ、う、あ、っ……んうぅ……!」
「……ッ」
「あっ……」

 逃がさないよう、また両足で挟んでしまったから、アルベールが出したのは奥の方。
 どくどくとあたたかいものを感じる。
 当然ながら初めての感覚だった。不快感はない。
 寧ろその、体温よりあつく感じるものが嬉しくて、気持ちよかった。

「……っン」

 おれの手から離れたレオンの指先が瞳にかかる前髪を避け、指の腹で滲んだ涙を拭った。
 指の背で頬を撫でて、唇に触れる。
 それから頭を撫でる大きな手のひらにぐい、とさらに押し付けると笑い声がした。

 アルベールは大丈夫?とまだびくびくする腰を撫で、おれの腹に飛んだものをシーツで拭う。
 そんなもので、と手を伸ばすと、後で綺麗にするから構わないよとその手を握った。
 使用人には任せないから気にしないで、と指先に柔らかく唇を落とす。

「それより、お腹、大丈夫かな」
「ん、あったかいよ」
「……そういうことじゃなくて」
「あ」
「どうした」

 ついまた失念していた。
 アルベールの後はレオンがいる。何も考えずに出して、なんて強請ってしまった。
 ナカ、綺麗にしたら大丈夫かな。
 お腹を押さえたままレオンを見上げると、その意図が伝わったのか、俺も許可を出したろう、と苦笑した。

「お前がかわいいものだから少し揶揄いたくはなるけれど、嫌がることをしたい訳じゃないよ」
「ん……」
「アルベールのものなら構わない、他のを咥えたら赦さないけどな」

 少しほっとした。
 次のチャンスがあるかどうかもわからない中で、おれの考えなしの言葉のせいでまた今度となったら大変だった。その今度はない可能性の方が高い。
 アルベールだってレオンだって、この際貰えるものは全部覚えておきたい。

「まあ丁度良いだろう」
「……」

 そういうところがおじさんくさい、という三度目の感想は呑み込んだ。
 おじさんなんて言葉が似合わない程きらきらしてるんだから、もう。

 交代ですね、とアルベールが言ったのを合図に、また場所の交換だ。
 おれがまた同じ体勢を選んだのは、おれが丸見えなのはそりゃあ恥ずかしいけれど、それ以上にふたりとも視界に入れたいという欲が勝ったから。
 後ろから抱き締められるのも、前からぎゅうと抱き着くのもどちらも気持ちいいししあわせだけれど、今日は。

 ふと真横を向くと、上着が脱ぎ捨ててある。これはレオンのもの。
 薔薇の香りが上着にまで移っている。ふんわりと香るその上着に手を伸ばして自分に寄せた。

「レオンさまのにおいがする?」
「ん、花のにおい」
「イヴはそのにおい、すきだねえ」
「……うん、すき、」

 これも覚えておきたい。
 他の世界に同じ花があるかなんてわからないけれど、この甘いにおいがすきだったこと、すきなひとが纏っていたことを忘れないように。

「そんなことを言われると取り上げられないな」

 この世界から持ち出せるものは記憶と想い出だけ。
 まあどの世界に行ったって行けなくたって、この記憶が引き継げるのかどうかなんて正解はわからない。
 アンリと同じ世界にいけるのか、愛莉に会えるのかすらわからない。
 でもだからこそ、出来ることは全てやっておきたいんだ、後で後悔したって遅いんだから。

 ああ、とはいってもやっぱり後悔だらけだ。
 挨拶したいひとももっといたのに。
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...