上 下
137 / 192
8

136*

しおりを挟む
 かおを上げたレオンの喉が動いた。
 それを確認してしまうと、もうだめだった。

「うっ……」
「イヴ?」
「うえっ……ひ、ッう、」
「……泣いたな」
「泣いちゃいましたねえ……でも気持ちよかったでしょう?」
「きもちいっ、から、やめれっれ、ゆっ、たぁ……!」
「そんなに嫌だったの」
「らっ、てえっ、くちにっ……」

 構わないから離さなかったんだぞ、とレオンが言うけれど、それはこっちの感覚の問題であって。
 口の中でイくのは本当にいやだった。レオンがそのつもりだったとしても、おれにはそんな心構えなかったし、恥ずかしいし、戸惑っちゃうんだよ。
 レオンに触られるのがいやとか、そんなんじゃなくて。

「アルベール」
「はい」
「こっち」
「……?」

 レオンがアルベールを呼ぶ。
 おれのすぐ頭の上で内緒話も何も、と思ったけれど、ふたりがしたものは会話ではなかった。

「え」
「ん……、」

 生々しい水音を立てて、ふたりが目の前で唇を重ねる。
 何度見ても他人のキスには慣れなかった。
 ふたりともおれにも同じようにキスをしたけれど、こんな風に見せつけるようなものではなかった、と思う。
 濡れた舌が絡んで、音と吐息が響く。ごくんと自分の喉が鳴ったのがわかる。
 アルベールはちゃんとレオンのこともすきだと言うし、レオンはふたり纏めて愛してると言う。
 ふたりが仲良くしているのを見るのがすき。
 別にキスをしても、おれの方がもっとすごいことをされてるし、嫌悪感と疎外感だとか、そんな不満を抱くことはない。
 寧ろふたりとも綺麗だから見蕩れてしまう。
 おれにもして、とは思っちゃうけど。……いや、今はしなくていいな。

「……はあ、」
「アルベールも共犯だな」
「……!」

 にやりと笑ったレオンに首を傾げて、それからすぐにその意図に気付いてレオンの肩をまた叩いた。
 おれのものを舐めて、飲んで、その口でアルベールとキスをしたことを言っている。
 この王子、デリカシーってものがない。

「もうやだ!レオンさまいや!」
「嫌かあ」
「アル兄さまがいいっ」
「ふふ、こども返りしたみたい」
「お前、何でもアルベールに頼ればいいと思ってるだろ」
「レオンさまが意地悪ばかりするからですよ」

 ねえ、と微笑んだアルベールに頷く。
 レオンは苦笑しながら、かわいがってるだけなんだがなあ、と呟いた。

「じゃあ次はアルベールにかわいがってもらうか」
「っう……!」

 交代だ、とレオンがおれの躰を持ち上げ、今度はアルベールの方へ向かされた。
 ぐ、と両足を固定されて、その力に驚く。
 アルベールはおれの頬を撫でて、優しくするからね、なんて言うからまた息を呑んでしまった。
 美人が色気を出してきた時の破壊力といったら。

「このままじゃ辛いから……少し待ってね」

 そう言ってアルベールはベッドから降りて、またすぐに戻ってきた。
 その手の小瓶を見て、香油か、とレオンが呟く。

「ええ」
「お前も油断ならないな」
「そりゃあ折角近くにいる訳ですしチャンスを逃す気はないですよ……まあご覧の通りイヴとこの家でそんなことはしてませんが」

 イヴは痛いの嫌だもんね、と優しく言うから三回くらい頷いた。痛いのもこわいのもごめんだ。
 アルベールが小瓶の蓋を開くと、ほんのり甘い香りが広がる。
 触るよ、と事前に申告されて、きゅっと躰を固くしてしまった。
 レオンにがっちり押さえられた足は少しも閉じることが出来ない。
 ただでさえ体温の低いアルベールの指先がそのオイルのせいで余計にひんやりする。
 後孔に触れた瞬間に情けない声が漏れた。慌てて口元を押さえる。

「口閉じないの。かわいい声聴かせて」

 そのアルベールの声を合図のように、レオンがおれの両手首を一纏めにした。まただ。
 おれの声なんて聞いて何が楽しいのかもわからないのに。かわいいなんて言うのは多分気の所為か盲目かいじわるなのに。
 もう既に散々声は出てるし、前回だってそうなんだけれど、どうぞ聴いてください、と言える程の諦めはまだなかった。
 どうせ無理矢理こじ開けられるとはわかっていても。

「……ッ」

 触れていただけの場所に、アルベールの綺麗な指先が沈んだ。
 肩が揺れる。

「……痛くない?」
「ン……ま、まだ、」
「まだ、かあ」

 苦笑いを零しながらアルベールは指を進める。
 そこは初めてじゃないから、大丈夫だろうと思っていた。
 どうやらそれは間違いだったみたいで、その狭い場所をゆっくりとアルベールが拓いていく。

「……本当にレオンさま、何もしなかったんですか」

 驚いたように声を上げると、イヴがお前が帰ってきてからと言うからな、と当然のようにレオンが言うものだから、アルベールは少し困ったようなかおをした。
 ……だめだったのだろうか。
 レオンとふたりでしてた方が良かった?
 アルベールは遠征先で頑張ってる訳で、そんな時に仲間外れはどうかなって思ったんだけど。
 二週間も何もしなかったから?折角柔らかくなった場所をまた拓かないといけないから面倒くさい?

「そんなに不安そうなかお、しないで。驚いただけだよ」
「……なんで、」
「イヴがかわいらしくて感動しちゃった」

 そうだね、皆で気持ちよくなろうね、とおでこにキスを落としたアルベールはにっこりと笑ってみせた。
しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

虐げられても最強な僕。白い結婚ですが、将軍閣下に溺愛されているようです。

竜鳴躍
BL
白い結婚の訳アリ将軍×訳アリ一見清楚可憐令息(嫁)。 万物には精霊が宿ると信じられ、良き魔女と悪しき魔女が存在する世界。 女神に愛されし"精霊の愛し子”青年ティア=シャワーズは、長く艶やかな夜の帳のような髪と無数の星屑が浮かんだ夜空のような深い青の瞳を持つ、美しく、性格もおとなしく控えめな男の子。 軍閥の家門であるシャワーズ侯爵家の次男に産まれた彼は、「正妻」を罠にかけ自分がその座に収まろうとした「愛妾」が生んだ息子だった。 「愛妾」とはいっても慎ましやかに母子ともに市井で生活していたが、母の死により幼少に侯爵家に引き取られた経緯がある。 そして、家族どころか使用人にさえも疎まれて育ったティアは、成人したその日に、着の身着のまま平民出身で成り上がりの将軍閣下の嫁に出された。 男同士の婚姻では子は為せない。 将軍がこれ以上力を持てないようにの王家の思惑だった。 かくしてエドワルド=ドロップ将軍夫人となったティア=ドロップ。 彼は、実は、決しておとなしくて控えめな淑男ではない。 口を開けば某術や戦略が流れ出し、固有魔法である創成魔法を駆使した流れるような剣技は、麗しき剣の舞姫のよう。 それは、侯爵の「正妻」の家系に代々受け継がれる一子相伝の戦闘術。 「ティア、君は一体…。」 「その言葉、旦那様にもお返ししますよ。エドワード=フィリップ=フォックス殿下。」 それは、魔女に人生を狂わせられた夫夫の話。 ※誤字、誤入力報告ありがとうございます!

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話

鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。 この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。 俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。 我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。 そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

処理中です...