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この国には、確か三人の王子がいた筈だ、その内のひとりかと思っていた。
言葉の通り。
第一王子が話すには第三王子の兄が件の義弟だという。
言わば連れ子ということ。国王との血の繋がりはない。
その義弟がまあ問題児だったらしく、平和に穏便に慎ましく暮らそうとするこの小さな国で、領土の拡大を声高に主張する過激派であった。
自分の能力なら隣国のように竜を使って国を守ったり武器として扱える、と。
「実際、あいつの能力だけでそう上手くいく筈がないので、誰も賛同しなかったのですが……」
まさか勝手に行動していただなんて、と第一王子は苦虫を噛み潰したようなかおで話す。
どうやら相当の問題児のようだ。
その能力というのが、母さまと似ている。というか、上位互換というか。
母さまは生き物を使役出来る強い能力を持つが、魔力の消費の点で、大きな生き物は扱えなかった。
魔力は使い過ぎると体調を崩す、使役する生き物の大きさによってその魔力量も変わる為、母さまは普段は連絡手段として鳥を使うくらいのものだった。
例えばイヴが小鳥に、その口にしてる木の実をくれと話しても相手が嫌だと言えば終わり。
けれど母さまがその木の実を渡しなさいと伝えればそう従わせることが出来る。魔力量さえあれば、話が出来るだけのイヴよりも強制力のある強い能力だ。
でも母さまはそう使わない。
勿論魔力量の関係もあるけれど、使役するというのは相手を従わせる、強制する能力だから。
イヴのように生き物と話が出来る訳ではない、何となくの感情は感じ取れても、心の中が正確にわかる訳ではない。
あまり無理はさせたくないわ、と言うのが母さまだった。
件の義弟はその感覚がない。
使えるものは使えば良いという考えらしく、無理矢理にでも竜を使えば勝てると思ってる馬鹿なのです、と第一王子は溜息を吐いた。
一時的に竜を扱えても意味がないのです、と話す彼は多分イヴの能力を、国での扱い方を、理解しているのだろうと思う。
ハディス国の竜も、元々国の性質から居着く竜も多かったけれど、従えるまで至ったのはイヴの能力が大きい。
イヴが竜と話が出来ることでの信頼関係を築けたから。
事実としてイヴひとりの能力で成り立つように見えるけれど、実際は周りの力も必要だ。
それを許す国王や、イヴに賛同してくれるひとたち、竜への扱いを心得てる竜騎士団。
そういうものがあってやっと竜もこの国を選んでくれる。この国の為に働いてくれる。それは竜も自分自身の為に。
義弟のように一時的に竜を使役したとて、その竜をずっと操れる魔力量があるとは思えない。流石にそれは人間には無理だ。
その魔力が切れた時に竜はどうなるか。
その一匹だけの竜でどう他の国を攻めるのか。
まあ実際、今ひとつの竜騎士団を追い込めてはいるのだけれど、それは言わないでおいた。言う必要はない。
でもこうやって彼の能力もわかったことだし、タイミングを見てこの国を攻めることは簡単だ、竜騎士団を使わなくても潰すことは出来るだろう、そんなことはしないだけで。
そんなことは第一王子もそれ以外のひとたちもわかっている、だから義弟の馬鹿な提案を蹴ったというのに、義弟とその周りの一部だけが浮かれてしまっているのだろう。
ジャンとレオンが出したのは、国としてその義弟を止めること、その義弟への処刑。それによってハディス国としてはこの国自体へは何かをすることはない、という案。
但しそれは竜騎士団の無事を確認してからだ。
それを第一王子は止められなかった自分たちに責任はある、と呑んだ。
とはいえ暴走した義弟を止める術はない。母親の言葉も聞きやしなかった彼が今更その母親の制止くらいで止める筈もないという。
一時的にとはいえうちの竜騎士団を無効にする程の能力。それをどう止めさせるか。
魔力が切れるのを待つのが確実ではあるけれど、この状態が既に何日続いているのか誰もわからない状態では、隠れている竜騎士団の体調や怪我を考ると今すぐにでもどうにかしたいが、それを出来る案が浮かばない。
マリアもまだぼおっとしてるところがあるし、能力を使われても困る。
これはおれの我儘だけれど、目の前でマリアが使役されるのも見たくない。
義弟も竜騎士団員も国境付近にいると思われるが、どこにいるのか。
「マリアと……この竜と同じくらいの竜がいるかしら」
「生息は確認してます」
「じゃあその竜を使役してるのでしょうね、この子に負わせた傷からして、大分大きい竜のようですの」
「……申し訳ない」
「その竜のデータはありますか?」
「データ?」
「ええとその、特性というか……空を飛ぶとか、火を吹くとか」
そう尋ねると、ああ、と頷いて、空を飛ぶ翼はある筈です、私は飛んでいるところを見たことはないですが、と話す。
「大体の竜はそうですが、その竜もおとなしいものだったので……刺激を与えたくもなかったのできちんと調べたことはないのですが、火を吹いたりといった危険な竜ではなかったかと……正確ではないのですが」
その言葉に少し安堵した。良かった、元はおとなしい竜であって。
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