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「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょう、ほら、あの……今ジャンさまのところに走っていってる」
「……うん、あの髪はレオンさまだ」
きらきらと陽に反射するような銀髪は、これだけ離れた距離でも目立つ。
あの髪も、このマリアの体躯も目立って助かる。
レオンならマリアのことをわかる筈だ、降りても攻撃はさせないだろう、但しゆっくりとだ、とマリアの背を撫で、声を掛ける。
時折きゅう、と鳴くのが痛々しい。早くレオンに……いや、ジャンに診てもらいたい。
おれの注意通り、ゆっくりとマリアが下降していく。
イヴ、と怒鳴るようなレオンの声に、同じように怒鳴るくらいのつもりで、そうだよ、攻撃しないで、と返す。取り敢えずおれだとわかってもらえればいい。
無事に地に降りたマリアの背に、今度はおれにしがみつくアンリを確認したジャンが何でアンリが、と怒鳴る。煩い、もう怒鳴らなくたってこの距離なら聞こえている。
「レオンさま、一緒に来て、アル兄さまが……竜騎士団が大変みたいなんです」
「は」
「詳しくはまだおれたちもよくわからないの、今からマリアに訊くから」
「わかった」
流石に話が早い。一緒にいたお付のひとに幾つか言葉を交わすと、レオンはすぐにマリアの背に飛び乗った。
怪我してるな、と首の凝固した血にも気付いてくれた。
足も怪我してるの、と伝えると、足は後で見るから、と早速首元に触れる。
「ジャンさまも来て!」
「何でアンリがそこに」
「お願い、ジャンさまも必要なの」
「……!」
アンリの必死な声に仕方なくなのか、元々アンリには弱いのか。渋いかおをしながらジャンもお付のひとを振り切り、マリアの背に乗る。
この四人、最悪のメンバーだな、と今更気付いたけれど、そこに触れるのは今はだめだ。
再び空へ舞うマリアに、レオンは文句も言わずに治癒をし続けてくれている。大丈夫そうかと確認すると、傷は深くないから直ぐに治る、と微笑んでくれた。
「あの、ジャンさま、仕事の邪魔をしてごめんなさい、でもその、大変なことになってるみたいで」
「……聞こえていた、竜騎士団がどうやらというのは、……今は遠征中の筈だろう」
「それが……ええと、今から確認をするところで……あの、それと、マリアを見てほしくて」
「今レオンが怪我を治してるじゃないか」
今にも舌打ちをしそうなジャンに、あわあわしたままアンリが怪我じゃなくて、様子がおかしいんです、と返す。
多分不機嫌な原因は突然の迎えだけではない。アンリがまだおれに抱き着いてるのも原因のひとつだと思う。藪蛇を突っつかないよう余計なことは言わないでおくけれど。
「様子……」
「はい、前見てもらった時のような、魔力詰まりとは違うのかもしれないんですけど、その、なにか様子が違うのはわかって」
「……ああ、何か貰ってるな」
軽く確認をしたジャンの言葉に、アンリのおれを掴む手にぎゅうと力が籠った。同時におれ自身の拳にも。
何かってなに、大丈夫なもの?もっとちゃんと、わからないの?
「イヴ」
「はい?」
「こっちおいで、マリアに大丈夫か確認して」
「あ、でもアンリが……高いところこわいって」
「婚約者に任せればいいだろ」
こっちも不機嫌だったらしい。
お前高いところ無理だったのか、と驚いたように呆れたように言うジャンにアンリを任せて、そっとレオンの横に並んだ。
竜は魔力が多い生き物だ。魔力の消費が多い生き物でもある。
空気中の魔力を得て、すぐにその魔力を消費する。
その魔力のお陰で、広い竜の背から落ちることは難しい。
小さな竜だと乗りこなすのは難しいけれど。
マリア程大きな竜なら、予測できない動きをするようなこどもや、自ら暴れようとする人間でなければ落とされることはそうない。
「もう首は痛くないって言ってます」
「足は後でって伝えたか」
「はい……でもアンリが言う通り、苦しそうなんです、きゅうって、さっきも鳴いてて」
「……」
悪い、それは俺は範囲外だ、と素直に謝るレオンに頷く。
レオンはいい気はしないだろうけれど、その為にジャンも連れてきた。
「……お前は大丈夫か」
「おれ?なんでですか、どう見たっておれは」
「手が震えてる」
「あ」
レオンの大きな手がおれの手を包んだ。
アンリに気を取られていて、自分のことに気が付かなかった。
……もしかしたら、アンリもわかっていておれの腕を取っていたのかもしれない。
「……アル兄さまが、」
「マリアは何て言ってる」
「……死んではない、って」
レオンが息を呑んだ。
ただの遠征の予定だった、無事に帰ってくる予定だった。
「早くアル兄さまたちのところに行きたいから、話は道中でって……先にレオンさまたちを迎えに……」
「何があったんだ」
レオンがマリアの首元を撫でた。
飛べるか、という問いに、マリアもアルベールのところまでは連れていく、と返す。
「ねえ、おれも知りたい、遠征先で何があったの」
屋敷まで戻る短い距離の間、マリアは説明してくれたけれど、結局よくわからなかった。
マリア自身がわからないと言う。
わかったのは、アルベールの予知でもどうにもならなかったということだけ。
「……うん、あの髪はレオンさまだ」
きらきらと陽に反射するような銀髪は、これだけ離れた距離でも目立つ。
あの髪も、このマリアの体躯も目立って助かる。
レオンならマリアのことをわかる筈だ、降りても攻撃はさせないだろう、但しゆっくりとだ、とマリアの背を撫で、声を掛ける。
時折きゅう、と鳴くのが痛々しい。早くレオンに……いや、ジャンに診てもらいたい。
おれの注意通り、ゆっくりとマリアが下降していく。
イヴ、と怒鳴るようなレオンの声に、同じように怒鳴るくらいのつもりで、そうだよ、攻撃しないで、と返す。取り敢えずおれだとわかってもらえればいい。
無事に地に降りたマリアの背に、今度はおれにしがみつくアンリを確認したジャンが何でアンリが、と怒鳴る。煩い、もう怒鳴らなくたってこの距離なら聞こえている。
「レオンさま、一緒に来て、アル兄さまが……竜騎士団が大変みたいなんです」
「は」
「詳しくはまだおれたちもよくわからないの、今からマリアに訊くから」
「わかった」
流石に話が早い。一緒にいたお付のひとに幾つか言葉を交わすと、レオンはすぐにマリアの背に飛び乗った。
怪我してるな、と首の凝固した血にも気付いてくれた。
足も怪我してるの、と伝えると、足は後で見るから、と早速首元に触れる。
「ジャンさまも来て!」
「何でアンリがそこに」
「お願い、ジャンさまも必要なの」
「……!」
アンリの必死な声に仕方なくなのか、元々アンリには弱いのか。渋いかおをしながらジャンもお付のひとを振り切り、マリアの背に乗る。
この四人、最悪のメンバーだな、と今更気付いたけれど、そこに触れるのは今はだめだ。
再び空へ舞うマリアに、レオンは文句も言わずに治癒をし続けてくれている。大丈夫そうかと確認すると、傷は深くないから直ぐに治る、と微笑んでくれた。
「あの、ジャンさま、仕事の邪魔をしてごめんなさい、でもその、大変なことになってるみたいで」
「……聞こえていた、竜騎士団がどうやらというのは、……今は遠征中の筈だろう」
「それが……ええと、今から確認をするところで……あの、それと、マリアを見てほしくて」
「今レオンが怪我を治してるじゃないか」
今にも舌打ちをしそうなジャンに、あわあわしたままアンリが怪我じゃなくて、様子がおかしいんです、と返す。
多分不機嫌な原因は突然の迎えだけではない。アンリがまだおれに抱き着いてるのも原因のひとつだと思う。藪蛇を突っつかないよう余計なことは言わないでおくけれど。
「様子……」
「はい、前見てもらった時のような、魔力詰まりとは違うのかもしれないんですけど、その、なにか様子が違うのはわかって」
「……ああ、何か貰ってるな」
軽く確認をしたジャンの言葉に、アンリのおれを掴む手にぎゅうと力が籠った。同時におれ自身の拳にも。
何かってなに、大丈夫なもの?もっとちゃんと、わからないの?
「イヴ」
「はい?」
「こっちおいで、マリアに大丈夫か確認して」
「あ、でもアンリが……高いところこわいって」
「婚約者に任せればいいだろ」
こっちも不機嫌だったらしい。
お前高いところ無理だったのか、と驚いたように呆れたように言うジャンにアンリを任せて、そっとレオンの横に並んだ。
竜は魔力が多い生き物だ。魔力の消費が多い生き物でもある。
空気中の魔力を得て、すぐにその魔力を消費する。
その魔力のお陰で、広い竜の背から落ちることは難しい。
小さな竜だと乗りこなすのは難しいけれど。
マリア程大きな竜なら、予測できない動きをするようなこどもや、自ら暴れようとする人間でなければ落とされることはそうない。
「もう首は痛くないって言ってます」
「足は後でって伝えたか」
「はい……でもアンリが言う通り、苦しそうなんです、きゅうって、さっきも鳴いてて」
「……」
悪い、それは俺は範囲外だ、と素直に謝るレオンに頷く。
レオンはいい気はしないだろうけれど、その為にジャンも連れてきた。
「……お前は大丈夫か」
「おれ?なんでですか、どう見たっておれは」
「手が震えてる」
「あ」
レオンの大きな手がおれの手を包んだ。
アンリに気を取られていて、自分のことに気が付かなかった。
……もしかしたら、アンリもわかっていておれの腕を取っていたのかもしれない。
「……アル兄さまが、」
「マリアは何て言ってる」
「……死んではない、って」
レオンが息を呑んだ。
ただの遠征の予定だった、無事に帰ってくる予定だった。
「早くアル兄さまたちのところに行きたいから、話は道中でって……先にレオンさまたちを迎えに……」
「何があったんだ」
レオンがマリアの首元を撫でた。
飛べるか、という問いに、マリアもアルベールのところまでは連れていく、と返す。
「ねえ、おれも知りたい、遠征先で何があったの」
屋敷まで戻る短い距離の間、マリアは説明してくれたけれど、結局よくわからなかった。
マリア自身がわからないと言う。
わかったのは、アルベールの予知でもどうにもならなかったということだけ。
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