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「いいぃやあだあ、あるにーさまはきょおえでぃといるのー!やーあ!」
一緒に寝るの、一緒におやつ食べるの、一緒に遊ぶの、とエディーが泣き喚く。
昨日も同じ内容で喚き、ちゃんと話がついたにも関わらず。というかここ数日同じような我儘ばっかりだ。
これくらいの幼いこどもに説得なんてあってないようなもの。
結局母さまが大泣きするエディーを抱え、見送りはお願いね、とおれに言い残し父さまと部屋の中へ戻ってしまった。アルベールにひとつキスを残して。
今日は竜騎士団の遠征が始まる日だった。早朝から家族全員でわざわざアルベールを見送るのは、エディーがそうすると煩かったから。
元よりおれはそのつもりではあったけれど。
エディーは遠征を報告された日に泣き、思い出しては泣き、日にちが近付いてからはまた駄々を捏ねるように泣き、大きな丸い瞳が溶けてしまうのでは、いや小さな躰から水分という水分が失われてしまうのでは、というくらいたくさん泣いた。
エディーがあまりにも泣くものだから、おれだってさみしいとは思っても、泣いたりは出来なかった。
アルベールと一緒に、大丈夫だよ、すぐに帰ってくるよと慰める側になってしまうから。
「癇癪を起こしたかのような泣きっぷり」
「毎回あれだけ泣くのだから、遠征の話は伏せた方がいいかとも思ってしまうのだけれどね」
「アル兄さまがいないとわかったら、皆が止めても屋敷中探すような子ですよ、話した方がまだましなんです」
「ふふ、エディーは僕のことだいすきだねえ」
アルベールはくすりと笑い、それからおれの方へ視線を移し、瞳を細めた。
イヴもだもんね、と頬を撫でて。
「……!」
慌てて周りを確認してしまった。
近くに使用人の姿はない。
全くアルベールときたら、元々家族として、ひとりの人間として優しい男ではあったのだけれど、特にイヴとエディーに甘いと周りから思われていた男だったのだけれど、あの夜からのおれへの態度はまた更に甘ったるいものへと変わっていた。
かわいらしい弟への態度から、愛しい恋人へのそれに。
いや、恋人にしたって甘過ぎるとは思うけれど。
あの時はアンリの能力のせいで頭がおかしくなっていた、馬鹿になっていた。
ふたりがすき、ほしい、気持ちよくなりたい、そんなことばっかりで。
だから、アンリのその能力が解けてしまうと……元々ふたりへの好意はあったのだから、それが全て嘘です、とはならなかった。
ちゃんとすきなままだし、なんならフィルターでも掛かってしまってるかのように、ふたりが更に輝いてるようにも見える。
きらきらして、レオンは本物だけれど、アルベールだって絵本の王子さまのようで。気を抜けば格好良い、とうっとり口走ってしまいそうな程。
愛莉の持っていた少女漫画の中に、恋をすると世界が輝いて見えるというようなシーンがあった。
あの日の翌朝から、こういうことか、とわかってしまうくらいにはおれも頭がやられてしまっているようだ。
それでも流石に、恋に溺れて周りが見えなくなる程馬鹿ではないつもりだった。
周りに見られたら恥ずかしいとか、それ以前に許されない行為だとか。
一般的にみて、おれたちのしてることは不貞行為、近親相姦、略奪愛だとわかってる。
でも当の本人たちが許してる訳で不貞行為ではないし、アルベールが養子なことも隠してないから近親相姦のような禁忌もない。
レオンはアルベールのこともおれのことも愛してると言うし、アルベールだって同じだ。つまりイヴが略奪したものではなく、ふたりの間に割り込んだような……というか、取り込まれてしまったというか。
そんな訳で、アルベールとレオンから愛されることに対してはもうそれでいい、それがいいと受け入れてしまった。
アンリの望む展開になっていると思う。
そのアンリだってひとの気持ちまでは弄ることは出来ない。多少の強引さはあれど、アルベールとレオンの執着からみて、なるようになったな、という着地だった。
これがゲームの続編ならあの夜で終わっていたのかもしれない。
けれどここは残念ながらそうではなかった、つまり続きがある。
結ばれてめでたしめでたしでは終わらない。
レオンとアルベールは婚約者で、イヴはアルベールの弟で。周りに褒められた関係性ではない。
あの夜で終わらせる気もない。思い出作りなんかではない。
だからといって開き直るのも違うと思う。色々変えないといけないことは多いと思う。
まだ何もしていない。
この状態で周りにばれてしまったら。元からあまりすかれてないイヴはともかく、第一王子のレオンと竜騎士団長のアルベールの立場を考えると……頭が痛くなる。
でもそんなことを考えているのはおれだけなのかな、アルベールもレオンも、おれへの甘ったるさを隠す気がないようだ。
ふたりでいれば腰を抱き、人目がなければ頬にキスを落とし、おれが何か言えば愛おしそうに瞳を細める。
誰もいない室内ならともかく、外でそれをするものだから、誰に見られないかとひやひやするのはやっぱりおれだけなのかもしれない。
一緒に寝るの、一緒におやつ食べるの、一緒に遊ぶの、とエディーが泣き喚く。
昨日も同じ内容で喚き、ちゃんと話がついたにも関わらず。というかここ数日同じような我儘ばっかりだ。
これくらいの幼いこどもに説得なんてあってないようなもの。
結局母さまが大泣きするエディーを抱え、見送りはお願いね、とおれに言い残し父さまと部屋の中へ戻ってしまった。アルベールにひとつキスを残して。
今日は竜騎士団の遠征が始まる日だった。早朝から家族全員でわざわざアルベールを見送るのは、エディーがそうすると煩かったから。
元よりおれはそのつもりではあったけれど。
エディーは遠征を報告された日に泣き、思い出しては泣き、日にちが近付いてからはまた駄々を捏ねるように泣き、大きな丸い瞳が溶けてしまうのでは、いや小さな躰から水分という水分が失われてしまうのでは、というくらいたくさん泣いた。
エディーがあまりにも泣くものだから、おれだってさみしいとは思っても、泣いたりは出来なかった。
アルベールと一緒に、大丈夫だよ、すぐに帰ってくるよと慰める側になってしまうから。
「癇癪を起こしたかのような泣きっぷり」
「毎回あれだけ泣くのだから、遠征の話は伏せた方がいいかとも思ってしまうのだけれどね」
「アル兄さまがいないとわかったら、皆が止めても屋敷中探すような子ですよ、話した方がまだましなんです」
「ふふ、エディーは僕のことだいすきだねえ」
アルベールはくすりと笑い、それからおれの方へ視線を移し、瞳を細めた。
イヴもだもんね、と頬を撫でて。
「……!」
慌てて周りを確認してしまった。
近くに使用人の姿はない。
全くアルベールときたら、元々家族として、ひとりの人間として優しい男ではあったのだけれど、特にイヴとエディーに甘いと周りから思われていた男だったのだけれど、あの夜からのおれへの態度はまた更に甘ったるいものへと変わっていた。
かわいらしい弟への態度から、愛しい恋人へのそれに。
いや、恋人にしたって甘過ぎるとは思うけれど。
あの時はアンリの能力のせいで頭がおかしくなっていた、馬鹿になっていた。
ふたりがすき、ほしい、気持ちよくなりたい、そんなことばっかりで。
だから、アンリのその能力が解けてしまうと……元々ふたりへの好意はあったのだから、それが全て嘘です、とはならなかった。
ちゃんとすきなままだし、なんならフィルターでも掛かってしまってるかのように、ふたりが更に輝いてるようにも見える。
きらきらして、レオンは本物だけれど、アルベールだって絵本の王子さまのようで。気を抜けば格好良い、とうっとり口走ってしまいそうな程。
愛莉の持っていた少女漫画の中に、恋をすると世界が輝いて見えるというようなシーンがあった。
あの日の翌朝から、こういうことか、とわかってしまうくらいにはおれも頭がやられてしまっているようだ。
それでも流石に、恋に溺れて周りが見えなくなる程馬鹿ではないつもりだった。
周りに見られたら恥ずかしいとか、それ以前に許されない行為だとか。
一般的にみて、おれたちのしてることは不貞行為、近親相姦、略奪愛だとわかってる。
でも当の本人たちが許してる訳で不貞行為ではないし、アルベールが養子なことも隠してないから近親相姦のような禁忌もない。
レオンはアルベールのこともおれのことも愛してると言うし、アルベールだって同じだ。つまりイヴが略奪したものではなく、ふたりの間に割り込んだような……というか、取り込まれてしまったというか。
そんな訳で、アルベールとレオンから愛されることに対してはもうそれでいい、それがいいと受け入れてしまった。
アンリの望む展開になっていると思う。
そのアンリだってひとの気持ちまでは弄ることは出来ない。多少の強引さはあれど、アルベールとレオンの執着からみて、なるようになったな、という着地だった。
これがゲームの続編ならあの夜で終わっていたのかもしれない。
けれどここは残念ながらそうではなかった、つまり続きがある。
結ばれてめでたしめでたしでは終わらない。
レオンとアルベールは婚約者で、イヴはアルベールの弟で。周りに褒められた関係性ではない。
あの夜で終わらせる気もない。思い出作りなんかではない。
だからといって開き直るのも違うと思う。色々変えないといけないことは多いと思う。
まだ何もしていない。
この状態で周りにばれてしまったら。元からあまりすかれてないイヴはともかく、第一王子のレオンと竜騎士団長のアルベールの立場を考えると……頭が痛くなる。
でもそんなことを考えているのはおれだけなのかな、アルベールもレオンも、おれへの甘ったるさを隠す気がないようだ。
ふたりでいれば腰を抱き、人目がなければ頬にキスを落とし、おれが何か言えば愛おしそうに瞳を細める。
誰もいない室内ならともかく、外でそれをするものだから、誰に見られないかとひやひやするのはやっぱりおれだけなのかもしれない。
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