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「ま、待って、ちょっ、と、休憩っ……」
流石に躰が持たない、自分が誘ったのも覚えてるけど、自分の体力を見誤ってもいない。
このままじゃまた先に気を失う。体力のなさには自信があるのだ、少なくともふたりに比べたら。
おれの腕を掴んだレオンは、ふむ、と少し考えて、そうだな、と頷いてくれた。
良かった、少しは休憩出来そう。
お腹がなんだかずくずくしていて……痛いとかではないのだけれど、そのよくわからないものに少し不安もあった。
このまま気持ちいいものをたくさん続けられてしまったらおかしくなってしまう、それだけはわかる。
「喉が渇いたろう、声が」
「あ、かっさかさになっちゃって……」
我慢しようとしても勝手に声が出てしまうから、少し嗄れてしまっていた。
まだそこまで酷くはないと思うけれど、このままだと随分ハスキーな声に仕上がってしまいそうだ。
それくらい別に、とは思うけれど、この声にふたりが萎えてしまったら少しかなしいかもしれない。
アルベールが喉を擽るように撫で、何か飲もうか、と訊く。
まるで猫を相手にしてるかのよう。
喉に優しいハーブティーはどうかとレオンが立ち上がり、棚を見る。
ひとつ缶を手にしたレオンに、わざわざお湯を貰いに行くのだろうか、熱が冷めてしまわないだろうか、とまだアンリの発情の能力が抜け切ってないおれは余計な心配をしてしまう。
でもそれは生活魔法に長けたレオンには無用だった。
水と火を組み合わせ、熱いお湯を用意することは彼にとっては簡単だったよう。普通はその工程に時間をかけるというのに、レオンにとっては朝飯前であった。
それなら、と思って、冷たいのがいい、と口を出してしまった。喉が渇いているのだから、ごくごく飲めるものが良かった。
レオンはいいぞ、とおれに笑顔を向け、腕を出す。
その手にあるグラスに、細く注がれたお茶が凍り、ある程度たまったところで、次は熱いお茶が注がれ、アイスティーの出来上がりだ。
飲み物を冷たくするだけなのに魔法の使い方も個性が出るな、と考えていると、そのグラスを受け取ったアルベールがおれの頭を少し上げ、唇に当てる。
喉に広がるひんやりとした甘さを感じながら、そんな介護のような、とも思ったのだけれど、事実少しだけ動かされた躰はきしきしする。後々のことを考え、ふたりに甘えることにした。
「ほら、これも」
「……?」
「腹が減ったのだろう」
「ゔ」
ずいと出されたのはカットされた林檎だった。
確かにそう、あんまり食べてない、お腹空いたなとは思っていたけれど、ばれていたとわかると恥ずかしい。
お腹の音でも鳴ってしまっていたのだろうか。
「咀嚼してやろうか」
「自分で食べれますっ」
唇に林檎を押し当てながらそんなことを言うレオンに、なにかの動物の雛かよ、と内心悪態を吐き、口を開く。
瑞々しくてしゃきしゃきしていて、ほんのり酸味があって、それでいて甘い。
竜たちへの差し入れの時も思ったのだけれど、美味しい。
やはり竜たちへのものも良いものが与えられていたみたいだ。
「美味いか?」
「ん、美味しい、れふ」
「まだあるぞ、そら、途中でへばらないようにたくさん食べな」
「うぐ」
またひとつ口の中に放り込まれる。その通りではあるのだが、そう言われると素直に食べられない。
でもお腹の空いていた躰はその甘さを喜んでいる。この林檎、蜜が多くて本当に美味しい。もっと食べたいかも……もっと。
欲に負けて口を開くと、笑いながらもうひとつ。
そういえば愛莉が体調を崩していた時に、母さんが林檎を食べさせていた。
擦り下ろしたものや、小さくカットしたもの、ヨーグルトに混ぜたもの。
当時は体調を崩しやすい愛莉が心配だったのだけど、今考えると少し、ほんの少しだけ、羨ましいという気持ちもあったのかもしれない。
「イヴ、ほら、口」
「ん」
「まだ食べるか」
「ん、ん……もういい、かも、でも後で……」
半分くらい食べただろうか。アルベールに口元を拭われながらもしゃくしゃく音を立てて咀嚼する。口の中がいっぱいで嬉しい。
食い意地が張っているもので、つい素直に残りは後でと言ってしまった。
レオンとアルベールも食べて、って言うべきだったのかな、でも美味しくて。
美味しい果物はこの世界でたくさん食べた。イヴの屋敷でもよく出されたし、竜たちへの差し入れを一緒に食べたりもした。
けれどこの林檎はおれの為だけにカットされて、おれの為に口元に運ばれたもの。
そう考えると胸があたたかくなるようだった。欲しいものを、欲しかったものを、漸く与えられているようで。
冷たいお茶をもう一度飲ませてもらい、休憩はお終い。
テーブルに置かれたグラスに、今からまた再開するのだという合図を感じて、少し躰が強ばった。
それに気付いたレオンが苦笑し、嫌か、と口にする。
「ち、ちがう、ごめんなさい、緊張してる、だけ」
アルベールはいいけどレオンはだめ、なんて言う気はない。
恥ずかしいだけ。
また少し、期待してしまったのもある。
ふたりに触れられることが嬉しくて、恥ずかしいけど、優しくされたくて、こうなったのはアンリのせいだというのに、でも少し、感謝をしている自分もいた。
流石に躰が持たない、自分が誘ったのも覚えてるけど、自分の体力を見誤ってもいない。
このままじゃまた先に気を失う。体力のなさには自信があるのだ、少なくともふたりに比べたら。
おれの腕を掴んだレオンは、ふむ、と少し考えて、そうだな、と頷いてくれた。
良かった、少しは休憩出来そう。
お腹がなんだかずくずくしていて……痛いとかではないのだけれど、そのよくわからないものに少し不安もあった。
このまま気持ちいいものをたくさん続けられてしまったらおかしくなってしまう、それだけはわかる。
「喉が渇いたろう、声が」
「あ、かっさかさになっちゃって……」
我慢しようとしても勝手に声が出てしまうから、少し嗄れてしまっていた。
まだそこまで酷くはないと思うけれど、このままだと随分ハスキーな声に仕上がってしまいそうだ。
それくらい別に、とは思うけれど、この声にふたりが萎えてしまったら少しかなしいかもしれない。
アルベールが喉を擽るように撫で、何か飲もうか、と訊く。
まるで猫を相手にしてるかのよう。
喉に優しいハーブティーはどうかとレオンが立ち上がり、棚を見る。
ひとつ缶を手にしたレオンに、わざわざお湯を貰いに行くのだろうか、熱が冷めてしまわないだろうか、とまだアンリの発情の能力が抜け切ってないおれは余計な心配をしてしまう。
でもそれは生活魔法に長けたレオンには無用だった。
水と火を組み合わせ、熱いお湯を用意することは彼にとっては簡単だったよう。普通はその工程に時間をかけるというのに、レオンにとっては朝飯前であった。
それなら、と思って、冷たいのがいい、と口を出してしまった。喉が渇いているのだから、ごくごく飲めるものが良かった。
レオンはいいぞ、とおれに笑顔を向け、腕を出す。
その手にあるグラスに、細く注がれたお茶が凍り、ある程度たまったところで、次は熱いお茶が注がれ、アイスティーの出来上がりだ。
飲み物を冷たくするだけなのに魔法の使い方も個性が出るな、と考えていると、そのグラスを受け取ったアルベールがおれの頭を少し上げ、唇に当てる。
喉に広がるひんやりとした甘さを感じながら、そんな介護のような、とも思ったのだけれど、事実少しだけ動かされた躰はきしきしする。後々のことを考え、ふたりに甘えることにした。
「ほら、これも」
「……?」
「腹が減ったのだろう」
「ゔ」
ずいと出されたのはカットされた林檎だった。
確かにそう、あんまり食べてない、お腹空いたなとは思っていたけれど、ばれていたとわかると恥ずかしい。
お腹の音でも鳴ってしまっていたのだろうか。
「咀嚼してやろうか」
「自分で食べれますっ」
唇に林檎を押し当てながらそんなことを言うレオンに、なにかの動物の雛かよ、と内心悪態を吐き、口を開く。
瑞々しくてしゃきしゃきしていて、ほんのり酸味があって、それでいて甘い。
竜たちへの差し入れの時も思ったのだけれど、美味しい。
やはり竜たちへのものも良いものが与えられていたみたいだ。
「美味いか?」
「ん、美味しい、れふ」
「まだあるぞ、そら、途中でへばらないようにたくさん食べな」
「うぐ」
またひとつ口の中に放り込まれる。その通りではあるのだが、そう言われると素直に食べられない。
でもお腹の空いていた躰はその甘さを喜んでいる。この林檎、蜜が多くて本当に美味しい。もっと食べたいかも……もっと。
欲に負けて口を開くと、笑いながらもうひとつ。
そういえば愛莉が体調を崩していた時に、母さんが林檎を食べさせていた。
擦り下ろしたものや、小さくカットしたもの、ヨーグルトに混ぜたもの。
当時は体調を崩しやすい愛莉が心配だったのだけど、今考えると少し、ほんの少しだけ、羨ましいという気持ちもあったのかもしれない。
「イヴ、ほら、口」
「ん」
「まだ食べるか」
「ん、ん……もういい、かも、でも後で……」
半分くらい食べただろうか。アルベールに口元を拭われながらもしゃくしゃく音を立てて咀嚼する。口の中がいっぱいで嬉しい。
食い意地が張っているもので、つい素直に残りは後でと言ってしまった。
レオンとアルベールも食べて、って言うべきだったのかな、でも美味しくて。
美味しい果物はこの世界でたくさん食べた。イヴの屋敷でもよく出されたし、竜たちへの差し入れを一緒に食べたりもした。
けれどこの林檎はおれの為だけにカットされて、おれの為に口元に運ばれたもの。
そう考えると胸があたたかくなるようだった。欲しいものを、欲しかったものを、漸く与えられているようで。
冷たいお茶をもう一度飲ませてもらい、休憩はお終い。
テーブルに置かれたグラスに、今からまた再開するのだという合図を感じて、少し躰が強ばった。
それに気付いたレオンが苦笑し、嫌か、と口にする。
「ち、ちがう、ごめんなさい、緊張してる、だけ」
アルベールはいいけどレオンはだめ、なんて言う気はない。
恥ずかしいだけ。
また少し、期待してしまったのもある。
ふたりに触れられることが嬉しくて、恥ずかしいけど、優しくされたくて、こうなったのはアンリのせいだというのに、でも少し、感謝をしている自分もいた。
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