89 / 192
7
88
しおりを挟む
一発引っぱたいてやろうかと思った。
この人物、やってることはとんでもなくて、ひとの為にそんなこと出来るんだ、とこわいくらい善行……善行でいいのか、これは……出来るのに、口を開くと緊張感がないんだ。
……何だろう、死が絡んでる割に、自分だって何度も死んでる割には、あっけらかんとしてるのは、ゲーム内容が酷い十八禁ゲームのようなことをそのまま体験しているからだろうか。
それにしても心臓が強過ぎる気がする。
「普通はそんな簡単にえっ……ちなこと、やらないんですよ!」
「でもこれは重要なんで!だいじ!」
「えっちなことなんてしなくてもちゃんとレオンさまもアル兄さまもすき……です、し……」
「そういうとこですよ!」
「は」
迷われると困るんです、とアンリ。
迷ってなんかない、ちゃんとすきだ、ふたりがいなくなったら困るし、アンリに取られたくなかったから頑張ったんだ。
それを迷ってると言われると……
「昨晩のこと、さっきは茶化して終わっちゃいましたけど、まぁ結構、そこそこのことはしましたでしょ?」
「ゔっ」
「強引なことしたのはわかってますよ、怒られても仕方ないって。でもそうでもしなきゃ、進まないでしょ、貴方たち」
やはり能力を使っていたのだろう、あっさりと認めた。
でもそうでもない、アルベールもおれに手を出したし、キスだって。
それをアンリに言うのは躊躇ってしまい、言えなかった。
そういう話を誰かにするなんて経験、なかったから。相談相手なんていなかった。
「あのですねえ、」
「……」
「……イヴさまもそうだったんですけど。あ、貴方がこっちに来る前のね?どっちのイヴさまもふたりのこと、お兄さまだから、なあんて、ずっと線引きしてましたよね」
「そりゃあ事実お兄さまですし」
「アルベールさまは養子だし、レオンさまは全くの他人でしょう」
「アル兄さまは養子でもずっと兄として暮らしてきたんですよ、血が繋がってなくても兄さまだし、レオンさまだって、その兄の婚約者だし、小さな頃は面倒見てもらってたし」
ずっと同じ言い訳をしてるのもわかってる。多分イヴもそうだったんだろう。
でも本音でもあるんだ。
倫理観とか、そういうのが邪魔をするというか、当たり前というか。
血が繋がってなくたって立派な兄弟だ。アルベールはだいすきな兄だ。
レオンはその兄の婚約者で、幼馴染とまではいかなくても、弟のようにかわいがってもらってた相手。
そんなひとたちに恋愛感情を持つことは間違ってる。
「じゃあふたりがぼくのことをすきになってもいいんですか」
アンリのその言葉も普通なら、何言ってるんだか、と鼻で笑って終わりだ。
でもアンリの性格も、容姿も、能力も、それをすることは可能だと思うと、冷静でいられない。
だからアンリとふたりが会うことを避けてきたのに。
「……ジャンさまがいるじゃないですか」
「まだ婚約とかしてませんし」
「ジャンさまのこと、すきって」
「ええすきですよ、でもレオンさまとアルベールさまがぼくのことをすきになるのは関係ないでしょ」
「勝手に気持ちを変えるのはだめだとおも……いや、そこまでの力はない、ですよね?」
少しでもアンリに気持ちがあれば皆アンリのことを選ぶけれど、その相手が他のひとを想っていれば、その感情が増幅する。
ふたりがアンリのことをいちばんにするのも、おれをいちばんにするのもどちらもいやだと思っていた。
おれのことをすきだというふたりが、アンリのことをすきになるなんて、そんな訳ない、と言いたいけれど、それを言う権利はおれにはない。
アンリは瞳を丸くして、少し考えていた。
それから、そうか、イヴさまは知らないのか、と呟く。何をだ。
知らないことがたくさんある。
アンリから色々話を聞いても尚。
アンリはまだ知ってることがたくさんある、きっと。
ごくんと息を呑んで、変えることが出来るのか訊いたおれに、アンリは少し意地悪なかおをして、試してみます?と囁いた。
「……試しちゃだめ」
「何をです?」
「た、試すならおれに試して。ふたりには何にもしないで」
「そんなこと言っちゃっていいんですか?」
だっておれがアンリをすきになるのは支障はない。
今だって別にきらいじゃないし、もう婚約者はいない。
レオンとアルベールは婚約者だから。ややこしいことになるから。だからアンリをすきになっちゃだめ。
そう。婚約者がいるから。だから。
「この期に及んでまだ言い訳するんだからなあ」
「……言い訳なんかじゃ、」
「良いんですか?ぼくのことすきになっちゃっても。ぼくはジャンさまがすきなんですよ?ひとりぼっちになっちゃいますよ?」
「それは別に……でもイヴのこともすきなんでしょ」
「ん~……まあ意味は違うんですけど。でもやることやれますよ、イヴさまのえっちな絵、ぼくがいっぱい描いたって話、もう忘れましたか?」
見た目こそ天使のような彼が話すことは少し意地悪だ。
それでも何でだろう、結局は大丈夫だろう、と思ってしまうのは、口先だけの意地悪だろうと安心してしまうのは、それはアンリの能力のせいじゃなくて、彼のことを知ってしまったからだと思う。おれを、イヴを助けようとしているから。
……流石にアルベールとレオンは差し出せないけれど。
この人物、やってることはとんでもなくて、ひとの為にそんなこと出来るんだ、とこわいくらい善行……善行でいいのか、これは……出来るのに、口を開くと緊張感がないんだ。
……何だろう、死が絡んでる割に、自分だって何度も死んでる割には、あっけらかんとしてるのは、ゲーム内容が酷い十八禁ゲームのようなことをそのまま体験しているからだろうか。
それにしても心臓が強過ぎる気がする。
「普通はそんな簡単にえっ……ちなこと、やらないんですよ!」
「でもこれは重要なんで!だいじ!」
「えっちなことなんてしなくてもちゃんとレオンさまもアル兄さまもすき……です、し……」
「そういうとこですよ!」
「は」
迷われると困るんです、とアンリ。
迷ってなんかない、ちゃんとすきだ、ふたりがいなくなったら困るし、アンリに取られたくなかったから頑張ったんだ。
それを迷ってると言われると……
「昨晩のこと、さっきは茶化して終わっちゃいましたけど、まぁ結構、そこそこのことはしましたでしょ?」
「ゔっ」
「強引なことしたのはわかってますよ、怒られても仕方ないって。でもそうでもしなきゃ、進まないでしょ、貴方たち」
やはり能力を使っていたのだろう、あっさりと認めた。
でもそうでもない、アルベールもおれに手を出したし、キスだって。
それをアンリに言うのは躊躇ってしまい、言えなかった。
そういう話を誰かにするなんて経験、なかったから。相談相手なんていなかった。
「あのですねえ、」
「……」
「……イヴさまもそうだったんですけど。あ、貴方がこっちに来る前のね?どっちのイヴさまもふたりのこと、お兄さまだから、なあんて、ずっと線引きしてましたよね」
「そりゃあ事実お兄さまですし」
「アルベールさまは養子だし、レオンさまは全くの他人でしょう」
「アル兄さまは養子でもずっと兄として暮らしてきたんですよ、血が繋がってなくても兄さまだし、レオンさまだって、その兄の婚約者だし、小さな頃は面倒見てもらってたし」
ずっと同じ言い訳をしてるのもわかってる。多分イヴもそうだったんだろう。
でも本音でもあるんだ。
倫理観とか、そういうのが邪魔をするというか、当たり前というか。
血が繋がってなくたって立派な兄弟だ。アルベールはだいすきな兄だ。
レオンはその兄の婚約者で、幼馴染とまではいかなくても、弟のようにかわいがってもらってた相手。
そんなひとたちに恋愛感情を持つことは間違ってる。
「じゃあふたりがぼくのことをすきになってもいいんですか」
アンリのその言葉も普通なら、何言ってるんだか、と鼻で笑って終わりだ。
でもアンリの性格も、容姿も、能力も、それをすることは可能だと思うと、冷静でいられない。
だからアンリとふたりが会うことを避けてきたのに。
「……ジャンさまがいるじゃないですか」
「まだ婚約とかしてませんし」
「ジャンさまのこと、すきって」
「ええすきですよ、でもレオンさまとアルベールさまがぼくのことをすきになるのは関係ないでしょ」
「勝手に気持ちを変えるのはだめだとおも……いや、そこまでの力はない、ですよね?」
少しでもアンリに気持ちがあれば皆アンリのことを選ぶけれど、その相手が他のひとを想っていれば、その感情が増幅する。
ふたりがアンリのことをいちばんにするのも、おれをいちばんにするのもどちらもいやだと思っていた。
おれのことをすきだというふたりが、アンリのことをすきになるなんて、そんな訳ない、と言いたいけれど、それを言う権利はおれにはない。
アンリは瞳を丸くして、少し考えていた。
それから、そうか、イヴさまは知らないのか、と呟く。何をだ。
知らないことがたくさんある。
アンリから色々話を聞いても尚。
アンリはまだ知ってることがたくさんある、きっと。
ごくんと息を呑んで、変えることが出来るのか訊いたおれに、アンリは少し意地悪なかおをして、試してみます?と囁いた。
「……試しちゃだめ」
「何をです?」
「た、試すならおれに試して。ふたりには何にもしないで」
「そんなこと言っちゃっていいんですか?」
だっておれがアンリをすきになるのは支障はない。
今だって別にきらいじゃないし、もう婚約者はいない。
レオンとアルベールは婚約者だから。ややこしいことになるから。だからアンリをすきになっちゃだめ。
そう。婚約者がいるから。だから。
「この期に及んでまだ言い訳するんだからなあ」
「……言い訳なんかじゃ、」
「良いんですか?ぼくのことすきになっちゃっても。ぼくはジャンさまがすきなんですよ?ひとりぼっちになっちゃいますよ?」
「それは別に……でもイヴのこともすきなんでしょ」
「ん~……まあ意味は違うんですけど。でもやることやれますよ、イヴさまのえっちな絵、ぼくがいっぱい描いたって話、もう忘れましたか?」
見た目こそ天使のような彼が話すことは少し意地悪だ。
それでも何でだろう、結局は大丈夫だろう、と思ってしまうのは、口先だけの意地悪だろうと安心してしまうのは、それはアンリの能力のせいじゃなくて、彼のことを知ってしまったからだと思う。おれを、イヴを助けようとしているから。
……流石にアルベールとレオンは差し出せないけれど。
155
お気に入りに追加
3,753
あなたにおすすめの小説
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~
戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。
そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。
そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。
あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。
自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。
エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。
お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!?
無自覚両片思いのほっこりBL。
前半~当て馬女の出現
後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話
予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。
サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。
アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。
完結保証!
このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました
あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。
完結済みです。
7回BL大賞エントリーします。
表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる