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 アルベールがぎゅうぎゅうとおれの手を掴む。
 どうしよう、そんな動きですら背中がぞわぞわしてしまう。

「は……っん、う、」
「そろそろ下着も脱がせてあげたらどうです?」
「イヴが膝を閉じてるからなあ」
「ん、や、やだ、いやです……」
「脱ぎたくないそうだ」
「下着を汚すのは嫌じゃなかったの?」

 耳元で甘い声。
 アルベールに触れられたことを思い出してしまう。
 今、おれの手を柔らかく掴むこの手が、綺麗なこのすらっとした指が、おれのものに触れて、その手を汚した。

「汚すの、いやだ……」
「じゃあ脱がなきゃ、ね?」
「う、う、脱ぐの、も、やだ……」
「我儘だな」
「ゔー……!」
「怒ってないよ、ほら、もう、レオンさま言い方に気を付けて」

 アルベールへの我儘をレオンに咎められる。それをまたアルベールが咎め、レオンが悪いな、とおれの頬に触れた。
 その苦笑した表情は多分、悪いだなんて本気で思ってない。
 おれだってどうしていいかわからない、知識は多少あったってこんなのキャパオーバーだ。
 ふたりを相手にどう立ち振る舞えばいいのかなんてわからない。一度だけ、とは思うけど、嫌われたいとは思わない。
 みっともないとか、はしたないだとか、汚いだなんて思われたくない。

「ふ、ふつう、は、どうする、んです、か……?」
「普通?」
「わかんないです、ぬ、脱ぐの……?」
「そりゃあ脱がなきゃ何も出来ないからなあ」
「……」
「そのかおは嫉妬してるのか」

 ……訊いておきながら、返ってきた言葉にむっとするのは随分勝手だ。
 嫉妬というか、なんだかもやもやしたものが残る。
 おれのこと、昔からすきだったと言った癖に。他のひととしたんだ?

「アル兄さまも……?」
「え」
「アル兄さまも、レオンさまと」

 そこまで口にして、訊くのは流石に不味かったかと噤んだ。
 レオンがアルベールにキスをしたのは目の前で見た、見せられてしまった。
 ふたりとも愛してると言った。
 だからふたりがそういう関係でも悪くはない。寧ろそうあってほしかったと思うのに。
 今まさにこうやって恥ずかしい思いをしてる側からすると、アルベールのそんな姿を想像したくない。
 おれにとっては格好良いお兄さまなのだ。

「お前は俺とアルベールの仲をまあよく疑うな」
「う、疑ってる訳じゃあ……」
「ほら、アルベール」
「……はい」
「んえ」

 レオンがちょい、と自分の唇を指す。
 アルベールは仕方ないですね、というように溜息を吐いて、その唇に自分のものを重ねた。
 先日見せつけられたのは、一瞬、軽く重ねられたものだけ。
 おれのすぐ頭の上で、ふたりが舌を絡ませるのは非常に刺激が強かった。

「ん、む」
「……は、」
「え、え、えっ、ふあ……!」
「愛してると言ったろう、お前も、アルベールも」
「ふわ……」
「肩まで紅くなっちゃって」
「心配だよ、十八にもなってこれでは」

 言葉にならなくて、口から出るのは空気が漏れたような声だけだった。
 他人のキスをこんなに間近で見ると思わなかった。真下から。とんでもなくその、ただの……ただの、というには深いキスだったが、そのキスにどきどきしてしまった。

「アルベールには触れたことがあるだけだ」
「まあ一応、いちばんはイヴが優先ですからね」
「俺はお前も抱けるが」
「冗談、僕はそこはごめんですよ」
「……?、?……?」
「混乱してる」

 かわいい奴だな、とレオンが顎を掬い、唇を重ねる。あたたかい。
 それは重ねるだけの軽いもので終わった。
 なのに頭の中では先程のふたりのキスが消えない。
 嫉妬なんてしなかった。ただ、いいな、と思ってしまった。
 ふたりが仲良くしてると嬉しい。早く結ばれてほしい。しあわせでいてほしい。
 そう思っていた筈なのに、おれもその中に入りたいと思ってしまった。

「まあそうだな、今はイヴが優先だ、この熱をどうにかしてやろうな」
「ん、やっ……あ、う!」
「俺とアルベールのキスに興奮したようだ」
「ンー……っ!」

 下着越しに、レオンの大きな手が触れる。
 揶揄うような声音に、反抗するかのようにアルベールの手を握り締めたままその肩を叩いてやった。
 それなのにレオンはくつくつと笑う。楽しそうだ。おれは楽しくない。恥ずかしくて死にそう。
 確かにどきどきした、えっちだと思った。でもそれはふたりのものだったから。他のひととキスなんてしたら許さなかった。

「んぁ、あ、やあ、汚れ、るっ……」
「ほら、脱がなきゃ汚れるぞ」
「やあ、ンっ、手っ……アル兄さまがっ……あぅ、」
「そうだね、イヴの手、使えないね?」
「ゔん、っ、使え、ないっ、からあ……!」
「お願いしようか、レオンさまに、脱がせてって」
「やあ……!」

 そんな恥ずかしいこと、言えない。言えないけど、言わなきゃもっと恥ずかしいことになる。
 下着越しの刺激でも十分過ぎる程だ。脱いでしまえばもっと……もっと気持ちよくなっちゃう。
 だって、気持ちよかった。
 アルベールにされた時、気持ちよかったんだ。
 今、直にレオンに触られちゃったら、もっとおかしくなる。
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